【季節ネタ】ハロウィンネタ⑧相棒と収穫祭(ハロウィン)の夜を
さて、そろそろハロウィンも終盤に差し掛かり、帰宅したキソラは寮部屋で一人、夕食を準備中である。
街中がお祭りモードだからか、おそらくアークもギルバートや他の冒険者仲間とともにいろいろと見て回っていることだろう。
「カボチャに栗にさつまいも。こうしてみると秋の味覚がいっぱいだ」
ふふ、と微笑みながら、準備を進めていく。
肌寒くなってきたので、暖かくなれる煮物やサラダ。デザート類まで選り取り見取りだ。
「……今日は楽しかったなぁ」
学校で菓子類を配り、ノークたち個人宛の分だけではなく、補給分も渡して、その後はお祭り騒ぎな街中巡り。あんな気分を味わったのは久しぶりではなかろうか。
そんなことを思いながら、料理を皿に盛り付けたりしていれば、背後から声を掛けられる。
「ただいま」
何故か転移してきて、そっと声を掛けてくるアークに苦笑しながらも、キソラは「おかえり」と返す。
「それにしても、まあ……貰ったねぇ」
「渡されたのもあるが、あちこちで配っていたからな」
それを貰ってきたと言うアークが手にしていたお菓子の山に、今度はキソラが苦笑する。
「あ、これ、滅多にゲットできないとこのじゃん」
アークが貰ったお菓子を物色していたキソラが、有名菓子店のお菓子を見つける。
「そうなのか?」
「うん。評判も良いから人気だし、行列が出来るほどなんだよね。私も入ってみたかったんだけど、どうしても待ち時間がね」
別に待つのが苦という訳ではないが、迷宮管理者と空間魔導師という職業上、いつ呼び出されるか分からないために、それを気にしながら並ぶというのは、何とも落ち着かないもので。
「それなら……食べるか?」
「んー、でもそれ、アークが貰ったんだよね?」
「不特定多数に配ってるんだから、貰った方がそれをどうしようが勝手だとは思うが?」
そんなことを言ったら、想いが籠ったものを無下にすることと同じにならないか? と思わなくもないキソラではあるが、一度食べてみたかった有名店のお菓子というのは、誘惑が強いものであり。
「じゃあ、一つだけ貰います」
そう言って、キソラは小分け袋の中から一つだけ取り出す。
「このまま持ってけばいいのに」
「んー、でも一つくらいは食べないと」
「目の前に夕飯あるのにか?」
暗にこれを食べると夕飯が食べられなくなると訴えるアークに、キソラは何て言ったら良いのか分からず、苦笑いする。
「どうせ食べるなら、あっちを先に食べよう。冷めても勿体ないしな」
「それもそうだね」
一応、冷めないように工夫はしてあるが、アークが気になっているのを察したからか、二人揃って机の方へと移動する。
「それにしても、煮物にサラダ、デザートまで……またいろいろと作ったな」
「あはは、ちょっと作りすぎました」
キソラとしても作りすぎたのは分かっているが、それでも「いただきます」と言って、美味しそうに食べるアークに、嬉しくならないわけがない。
「食べないのか?」
「いや、食べるよ」
そう返して、キソラも取り分けた煮物やサラダに口をつける。
「ああ、そうだ」
「どうした?」
「あんなにたくさん貰った後で申し訳ないんだけど、私からも上げるよ」
はい、と差し出すキソラに、アークは受け取りながらも珍しそうにそれを見ている。
「でも、これって、合言葉を言ってから貰うんじゃなかったか?」
「それもそうなんだけど、そんなこと言ったら、さっき少しだけ貰った私はどうすればいいの」
確かに、先程のキソラは合言葉を言ってはいない。
「それとも、合言葉を言ったところで渡さなかったら、何かいたずらでもしてきたのかな?」
からかい混じりにニヤリと笑みを浮かべながら、キソラが尋ねれば――
「そうだな。そういうことをしても良かったのかもしれない」
アークからそう返され、思わず驚いてしまう。
冗談に冗談で返すかのようでもなければ、彼にそう言われたからでもないのだが……キソラは少しばかり顔を伏せる。
「……そっか」
「キソラ?」
相棒の変化に気づかないほど、近すぎたり遠すぎたりする距離を取っていなければ、鈍くもない。
だからこそ、キソラの様子に引っ掛かったのだ。
「いや、ほら。来年はアークが居るかどうかも分からないし、こうして過ごせるかどうかも分からないしさ。それに、私も受験生だから、こうやって遊べるかどうかを聞かれたら、上手く答えられるかどうか分からないんだよね」
「……」
「だから、その……自分でも、ここまで楽しんでたことに驚いてるだよ」
毎年のことだから、配るためのお菓子を癖で作っていたような部分はあったし、学院でノエルやアキトたちとともに楽しんでいたのは事実だ。
だが、その後のことを問われると疑問であり、今年はノークとともに街中を見て回れたが、去年はノークが新人ということもあり、警備に駆り出されていて、街を見て回るなんてことは無かったはずだ。
そのことと比べたら、今年は楽しめた方なのではないのだろうか。今こうして目の前に誰かが――アークが居て、何気ないことを話している。
「だから、アークが来てくれて良かったと思ったんだよ。そうじゃなきゃ、また寂しさを味わってたかもね」
「キソラ……」
一人で外に見える景色を眺めなくて済んだのは、間違いなくアークが来てくれたお陰なことには変わりないから。
「私のもとに来てくれてありがとうね」
「こっちこそ、いろいろと助けてくれてありがとうな」
そう、お互いに感謝の意を伝え合えば、耐えきれなくなったのか、これまたお互いに噴き出す。
「――Trick or Treat。いたずらしたいわけじゃないけど、これからもよろしくね。アーク」
「それは、こっちの台詞だ。これからも頼むぞ、相棒」
アークがいつか元の世界に帰ることになるのだとしても、それまで二人が『相棒』であることは変わらないだろうから。
――その時が来るまでは、一緒に。
こうして、ハロウィンの夜は時間は過ぎていくのであった。