【季節ネタ】ハロウィンネタ①友人たちⅠ(女性陣)
去年、一度上げたやつを再アップ。
【季節ネタ】ハロウィン編。全八話。
活動報告(2017.10.31分)の方にも、この話の冒頭別バージョンが掲載中なので、良ければそちらもどうぞ。
ハロウィン。
元々は西洋のお盆だか何だかと言ったものだったらしいが、元故郷である国に来てからは、コスプレ目的とも言える一種のイベント事として定着しつつあった――らしいのだが、まさかこの世界で、この年齢で経験することになるとは思わなかったなぁ、とキソラは遠い目をする。
いつ誰がこの世界にそんなことを伝えたのかは分からないが、実際に存在しているのだから、仕方がない。教えた人物に関しては、魂含め、この世界の人間では無いのだろうが。
とりあえず、とキソラは目の前に並ぶ、綺麗に小分けされた焼き菓子の山を見つめる。
異世界のハロウィン同様、コスプレするのかは自由だが(そうは言いつつも、特にするつもりがなければオレンジ、緑、赤紫、紫、黒があるものを身に付けるようにとは言われている)、菓子のやり取りとそれを貰うための言葉――『Trick or Treat(お菓子をくれなきゃイタズラするぞ)』という言葉もあることから、『ハロウィン』というイベントについて教えた人物は、完全なるイベント事として教えたらしい。
お化けはともかく、狼男とかは獣人が居る以上、下手に扮することは出来ないし、吸血鬼とかは魔族に間違えられかねない。
「ま、私はお菓子を用意するだけで、何かする必要は無いし」
そもそも、迷宮管理者や空間魔導師という存在自体がハロウィンのコスプレネタにされそうなのが、何とも言えない。
だから、今回キソラは、空間魔導師を示す藤色のローブを羽織るだけで、コスプレを済ませようと思ったのだ。
どうせ、学院の面々の大半がキソラが空間魔導師であることを知っていることから、特に何か言われることは無いだろうし、戦闘時でもなければ、ハロウィンの期間中に自身が空間魔導師であることを示すつもりはないので、ずっと着ているつもりも無い。
――まあ、結局何をどう言おうと、合言葉を言うだけでお菓子がタダで貰えるのだから、子供たちを筆頭とした菓子好きにとっては嬉しいのだろう。
「それじゃあ、アーク。私は行くから」
「ああ」
「アークの分は夜に渡すからさ」
「分かった」
頷いたアークに見送られる形で、キソラは部屋を出る。
「さて、最初に誰に渡すことになることやら」
そう言いながら、学院に向かって歩いていく。
「キーソラっ!」
背後から声が掛かったので、振り返れば――
「Trick or Treat!」
「……どちら様?」
カボチャ頭に黒マントという出で立ちの何かが、そこには居た。
キソラが冗談抜きで戸惑いの表情を浮かべていれば、「だから言ったじゃん」とユーキリーファとアリシアがカボチャ頭の後ろから姿を見せる。
「……まさか、ノエル?」
「あ、やっと気づいた?」
声で何となく分かってはいたのだが、カボチャ頭の知り合いが居るなんてこと、知られたくはない。
カボチャ頭を外した彼女に、キソラは呆れた目を向ける。
「また目立つ格好を……」
「空間魔導師姿のキソラに言われたくなーい」
それを言われてしまうと反論できないが、ノエルのカボチャ頭よりはマシだとは思いたい。
「というか、キソラの場合はコスプレですらないわよね。れっきとした空間魔導師なんだから」
アリシアの正論にも反論できずに、キソラは視線を逸らす。
「ま、まあ、言うこと言われたからね。はい、お菓子」
「わーい、まずは一個ー」
少しばかり誤魔化すかのように、小分けされた焼き菓子の一つを取り出してノエルに渡せば、彼女が嬉しそうにする。
「嬉しそうで何よりだよ」
「だって、キソラの手作りでしょ? 美味しいから良いんだよ。美味しいから」
「何回も言ったところで、上げる数は増えないから」
一人一つまでだ。
「はい、ユーファとアリシアにも」
「ん、ありがとう」
「私まで貰っちゃって良いの? 上げるものなんて無いけど」
キソラの焼き菓子を受け取りつつ、アリシアが不思議そうに尋ねれば、三人は顔を見合わせる。
「これは……」
「イタズラ?」
「しちゃう?」
「えっ」
する気が無くとも、そう言う会話をするのだから、さすがとも思えるし、質が悪い。
「冗談だよ。何もしないから」
「……とか言っておきながら、今日一日無視するなんてことは止めてよ?」
「しないよ。そんなこと」
「信用無いなぁ」
少しの間、疑いの眼差しを向けるアリシアだったが、溜め息を吐くと「分かった」と返す。
「私も特に用意してないけど……」
「あ、気にしなくて良いよ。ノエルには、何も期待してないから」
「酷いっ!」
「はい、キソラ」
ノエルが喚いているが、それを無視してユーキリーファがキソラにお菓子を渡す。
「ん、ありがとう」
「アリシアも、良かったら食べて」
「ありがとう」
「無視!? 無視なの!?」
きっと、今までの彼女に対して、一番酷い相手の仕方だろう。
「ほら、行くよ。イベントだったとしても、遅刻はマズいでしょ」
そうキソラが促せば、アリシアとユーキリーファがノエルを捕まえ、引き摺りながら歩き出す。
「あれ? 私、いつもよりテンションは高かったと思うけど、自分の足でちゃんと歩けるからさ。だから、引き摺りながら歩くのは止めてぇっ!?」
そんな彼女の言い分が通ったのは、昇降口に着いてからだった。




