小話:IF~もしもの設定があったなら(メイン二人編)
○もし、本編に逆ハーレム設定があったなら~逆ハーとその外側にて(キソラ編)
「キソラ」
「エターナル」
「キソラちゃん」
「キソラさん」
生徒会所属の後輩を除く、生徒会役員たちが声を掛けてくる。
「……」
何か言おうと思って、キソラが口を開こうとすれば、新たな人物が姿を見せる。
「お前ら、こんなところで何をしてるんだ。他の生徒たちの邪魔だろうが」
「そう言う風紀委員長は何しに来たの? まさか、彼女に会いに来た訳じゃないでしょ?」
「当たり前だ」
生徒会長ーーフェルゼナートにそう言いながらも、目を逸らす風紀委員長ーーラスティーゼ。
説得力が無い。
「ーーとりあえず、全員邪魔なので、どこかへ行ってください」
これで散るなら苦労はしないが、散らないのだから、頭が痛い。
「そんな冷たいこと、言わないでよ」
「フィール。実はお前が一番避けられてるって、分かっているのか?」
「えー?」
確かに、このメンバーの中では、書記である彼を一番避けてはいるが、仮にもライバルだろうによく見ていらっしゃるーーいや、ライバルだからこそ、見ているのだろう。
けれど、このままでは授業に遅刻してしまう。
(よし、逃げよう)
透明化と気配を魔法で消して、その場を離脱する。
その事に、彼らは予鈴が鳴ってから気付くことだろう。
「大変ね、モテる子は」
「こんなモテ期はいらない。第一、本命のいないハーレムや逆ハーレムなんて、嬉しくないと思うけど?」
「あー、そう言われると確かにねぇ」
「誰かと二人っきりで話そうものなら、休日だろうと彼らに邪魔されそうだし」
友人たちの言葉に、キソラは溜め息を吐く。
特に彼らに好かれるような言動をした覚えはないのだが、何がどう彼らにあんな行動をさせているのだろうか。
「というか、あの人たち、キソラの好みのタイプを知ってるの?」
「あの様子じゃ、知らないんじゃない? キソラがあのメンバー以外じゃない、他に好きな人が居ることも」
それを思うと、何だか彼らが可哀想になってくるが、それが誰なのかを誰一人教えるつもりはない。教えたら教えたで、相手の人物に迷惑が掛かりかねないからだ。
「ま、時間が解決してはくれると思うけど、クラスメイトのみんなが協力してくれているだけマシよね」
普通なら、クラスメイトたちからも嫉妬されそうだが、キソラに実は好きな人がいると知っているためか、生徒会役員たちを教室に入れないなどといった、割と協力的な人たちの方が多い(というか、こいつら引っ付けようぜ的な行動をする派の方が多いため、反逆ハー派が積極的に動いていたりする)。
「けど、本人に誤解されてないのは今のところ良いとして、少なからずこの件に自分は無関係だと思ってはいるみたいだから、そろそろ本気で告白しに行ったら?」
じゃないと気づいてもらえないわよ、と指摘されてしまえば、キソラは唸る。
「う~……」
「でも、実行するにしても、やっぱり邪魔してきそう」
「そうよね。特にキソラからの告白だと分かったら、尚更」
友人たちが揃って溜め息を吐く。
「ーー締める?」
「そうね。まあ、それは最終手段だけど」
何やら物騒な空気を放つ友人たちを見て、キソラは溜め息を吐くのだった。
とはいえーー
「何でっ……! 何で、あんたみたいな平民がっ……!」
彼らが絡んできている以上、彼らのファンとかから恨まれているのは知っていたが、まさか、物理的な実力行使で来るとは思わなかった。
ただ、キソラのことを空間魔導師だと知っているのかどうかはともかく、彼女たちの学年が同学年であることは明らかであり、内部生なら大半がキソラのことは知っているから、恐らくは外部生。
(しかも、今の言い方から察するに、貴族のお嬢様)
面倒くさいこと、この上ない。
まあ、空間魔導師だと言っても、信じてもらえないだろうから言うつもりはないが、さて、この状況をどう打破するべきか。
生徒会か風紀委員の誰かに来てもらった方が、彼女たちに一番効果がありそうだが、そうすると心配と言う名目の、こちらへの被害も強くなる。
「……」
だが、せっかく友人たちやクラスメイトたちの協力もあって、こちらから呼び出したというのに、本当、彼には申し訳ないと思う。
一番穏便に、状況をどうにかしてくれるであろう彼を思いつつ、キソラは目の前の彼女たちに口を開く。
「言いたいことは、それだけ?」
「なっ……!?」
「こんなことして、万が一にでも見つかって不利なのは、私をこの場に連れてきた貴女たちだと言うのに」
いくら彼女たちがキソラが悪いと訴えても、状況的には彼女たちの方が不利である。
「だから、さっさと解散しない?」
「っ、うるさい! あんたが、今後もこうなりたくなければ、あの人たちから離れていれば良いのよ!」
「離れたくても、向こうから寄ってくるのにどうしろと? 私はもう、本人たちに何度も言ったんだけど」
「はっ、どうだか。本当は『一緒にいてぇ?』とか言ったんじゃないの?」
風紀委員の彼女のような言い方をするタイプならともかく、キソラみたいなのが、本当にそんなこと言うようなタイプに見えるのか。否、見えるはずがない。彼女の性格は、媚を売るタイプとは真逆なのだから。
「もし、それが違うなら、どうやってあの方たちに取り入ったの?」
「見た目に似合わず、身体を売ったって? 嫌だわぁ」
クスクス、と彼女たちは嗤うが、キソラは逆に表情がどんどん無くなっていく。
ーーああもう、本当に何で……
「ハッ! 貴女たちさ。いくら何でも、好きでもない奴相手に身体を売るとか、そういう職業でもないのに有り得なくない?」
「ようやく、本性を現したわね!」
「じゃあ、聞くけどさ。好きな人がいるのに、何で他人から自分に好意を向けさせようとしないといけないわけ?」
友人たちの言う通り、今の所は誤解されていないとはいえーー何故、自分から好きな人に誤解されるであろう真似をしなくてはならないのだ。
「そんなこと、信じると思う?」
「信じる信じないは自由だけど、ここまで貴女たちに無理やり連れてこられたせいで、その人を待たせっぱなしなんだよね」
せっかく言うと決めたのに、彼女たちのせいでテンションも覚悟も無くなってしまった。協力してくれた人たちには申し訳無いのもあるが、原因は彼女たちなので、せっかく協力してくれた友人たちやクラスメイトたちに恨まれろ、と呪詛のような念をキソラは送るのと同時に、もう教室に戻ったよなぁとも思う。
「ーーキソラ?」
「っつ!?」
声を掛けられ、ぎょっとしながらも、そちらに目を向ければーー
「な、んで……」
「そっちから呼んでおきながら、中々来ないからだろうが」
おかげであちこち捜す羽目になったぞ、と言う彼に、キソラは苦笑いする。
「まあ、来れなかった原因も分かったから良かったが」
「……嘘でしょ?」
それは何に対してだろうか?
見つかるはずの無い場所が突き止められたから?
キソラの言った通り、本当に約束していた人が居たから?
それともーー……
「とりあえず、そいつをもう連れてって良いか? 残り時間もそんなに無いしな」
教室までの移動も、呼び出されたのが昼休みだったことから昼食もまだであることも、時計を見てみれば、もうそんなに時間は無いが、簡単な昼食を食べるぐらいなら、まだ余裕はあるはずだ。
食堂でサンドイッチを受け取り、手渡されたそれを受け取る。
「ほら」
「ん、ありがとう」
小さくお礼を言って、手早くサンドイッチを食べる。
「そういや、話したいことって、何だったんだ?」
「ああ、それはーー……」
そう尋ねられたことで、キソラは口を開きかけ、閉じる。
「それは?」
「いや、何でも無いよ」
「本当にか?」
再度の確認に、キソラは小さく頷く。
「……きっと今言うべきなんだろうけど、時間が無いからね」
「お前がそれで良いのなら、俺も構わないが」
何か言いたそうにしながらも、キソラが自分から言うまでは待ってくれるつもりらしい。
「ん、ありがとう」
キソラがそう告げると、チャイムが鳴り響く。
「チャイム、鳴ったな」
「そうだね。教室に戻らないと」
それにしても、随分大きなチャイムの音である。
(というか、何か聞き覚えのある音だなぁ)
そう思いつつ、廊下を歩いていく。
「……ら」
「ん?」
誰かに呼ばれた気がして足を止めるが、そこには誰も居らず、キソラは首を傾げるーーが、次に足を踏み出した瞬間、ぐらりと身体が傾き、意識が暗転する。
「……ら、キソラ!」
「……ん?」
「大丈夫か? 何か魘されていたが」
心配そうにそう言うアークの顔を見て、キソラは先程の光景が夢だと理解する。
こうして目覚めるまで、随分と強引な意識の繋げ方でもあるとは思うが。
「ああ、うん……酷くて、良い夢を見た」
だが何故、朝から疲れなければならないのだ。
まあ、夢オチだったのが一番の救いか。
(それにしても、私は何をしようとしていたんだ……)
思い出すだけで恥ずかしくなってくるだが、夢だというのに、ここまではっきりと覚えていると言うのも、何とも言えないし反応できない。
(そういや、アークは出てこなかったな)
場所が学院の校舎内だけだったから仕方ないといえば仕方ないのだが、ぼんやりとした目をアークに向けていれば、不思議そうな顔を返される。
「……そうか。なら良いんだが、あんまり無理するなよ?」
「分かってます」
そうは言っても無茶をするのがキソラである。
だが、アークとて朝からガミガミと言う気は無いので、話はそこまでにして、「時間、無くなるぞー」とキソラに声を掛ける。
「んー」
アークが朝食作りで背を向けているうちに手早く制服に着替えて、更に手早く朝食を終える。
「それじゃ、行ってきます」
「ああ、行ってこい」
そう声を交わし、片や部屋を出て、片や見送っていく。
何気ない日常がーーまた一日、始まっていく。
○もし、本編にハーレム設定があったなら~ハーレムとその外側にて(アーク編)
「それにしても、珍しいな。キソラが一緒に行くとか」
いつもなら、バラバラでギルドに向かうため、一緒に向かうなんて珍しく、アークがそう洩らす。
「んー? 別に深い意味はないけど、こういうときがあってもいいじゃん。それとも何? 私と一緒の所を見られたりしたら嫌な人でも出来た?」
「いや、無い! それは絶対に!」
アークは否定するが、変に力が籠っているせいか、キソラの疑いの眼差しは変わらない。
「ま、良いけどさ。そういう人が出来たら、ちゃんと言ってよ?」
このまま問答を続けてもキリがないと判断した上に、そう理解しているためか、キソラはそう告げる。
そうこう話していれば、二人はギルドに到着する。
「そういえば、今日は仕事なのか?」
「いや、依頼をやりにきた。そろそろランク上げたいし」
「そうか。ならーー」
アークが続けようとした際、腹部に強力なダメージが加わる。
「ぐっ!?」
「アーク、見っけ!」
本当に嬉しそうな表情をする、アークに抱き付いてきた少女に、アークは顔を引きつらせ、キソラは不思議そうな顔をする。
「あらあら、シェリアったら。いつも『そんな風に引っ付いたら、アークくんがびっくりするから止めなさい』って、言ってるでしょ?」
「えー」
シェリアと呼ばれたアークに抱き付いている少女を、やんわりと注意するようで牽制しているようにも見える、優しそうな大人っぽい女性。
「あら、アークくん。お隣の方はどなたですか?」
女性がアークの隣にいたキソラに気付く。
「ああ、こいつはーー」
「初めまして、キソラ・エターナルと言います」
アークに紹介される前に、キソラは自分から名乗る。
牽制のつもりはないが、アークに紹介されるよりはマシだと判断してのことだ。
「キソラさん……?」
キソラをじっと見ながら、女性が首を傾げる。
「ああ、アークくんが以前話していた子」
納得、と言いたげに頷く女性だが、キソラとしては女性の言ったことの方が気になる。
「アーク。私のこと、何て言ったのかな?」
アークのことだから無いとは思うが、もし間違ったことや失礼なことを言っていたら、訂正しなくてはならない。
「あ、いや、変なことは言ってないぞ。ギルドに来たきっかけだとは言っただけで」
「へー」
そこは間違っていない。間違ってはいないのだが、彼女たちにした説明は本当にそれだけなのか。キソラに確認をする術はない。
だが、下からの視線に、キソラはそちらへと目を向ける。
「えっと……」
「シェリア、彼女を睨んではダメですよ。彼女が居たからこそ、私たちはアークくんと会えたのですから」
女性にしてみれば、キソラは『アークと会うきっかけをくれた人』らしい。
「む……ナナは甘い! 何とも思っていなさそうな人に限って、ライバルになりかねないんだから!」
シェリアの言葉に、キソラもアークもナナと呼ばれた女性も苦笑いする。
彼女の言い分を否定するわけではないが、納得もできてしまう。
「きっかけだか何だか知らないけど、アークは渡さないんだから!」
ビシッという効果音が付きそうな勢いで、シェリアが指を指してくる。
「お、嬢ちゃんにライバル宣言とは、あの嬢ちゃんやる気だな」
「だが、キソラちゃんという壁は高い」
「だな。戦闘面だとギルドのナンバー2の実力あるしな」
「キソラさんの評価自体が高いから、誰があの子を落とし、落とされるのかも見物ですよ」
話を聞いていたらしいギルドの冒険者たちが好き勝手に話し、そう囃し立てる。
「……あんたたち」
ある意味ギルド最強の受付嬢、マーサがゆらりと受付から立ち上がる。
「受理された奴らは、さっさと遂行任務に向かいなさい!」
「うわー、マーサが怒ったー!」
「ほら、さっさと行くぞ!」
そんないつも通りの光景を見つつ、キソラは洩らす。
「私よりも確実にマーサさんの方がモテてる気がするなぁ」
「そうねぇ……」
ナナからの同意に内心驚きながらも、キソラはぎゃーぎゃーとやり取りしているマーサと冒険者たちをぼんやりと見つめる。
「羨ましい?」
「全然。本命があの中に居たら、また別の感情はあったんでしょうけど」
今のキソラには、そういう感情が有るようで無い。
「そう。アークくんのことは……」
そう言いかけて、ナナは止める。
話を振って、意識させて、ライバルを増やすような真似をしたくないという部分もあるが、今はそうではなく、何となく察したのだ。
「いや、誰か、良い人が出来ると良いわね」
「そうですね」
ナナとキソラが微笑み合う。
そんな二人を見て、アークも安心したように笑みを浮かべる。
何となくだが、シェリアよりはナナとの方がキソラと仲良くなるのではないか、とアークは思っていたのだ。
「それで、アークは何を言おうとしていたの?」
「今更か?」
「今更だけど?」
ギルドに来たとき、アークが何かを言おうとしながらも、シェリアに遮られて聞くことができなかったために、キソラは今更ながらも尋ねた。
「一緒に依頼遂行をするか、って聞くつもりだったんだが」
「何だ、そんなことか」
そうは返しながらも、シェリアは睨み付けてくるし、ナナは笑みを浮かべたまま何も言わないため、どう返事して良いものか、キソラは困る。
「キソラさんも一緒に行くなら、私も一緒に行って良い? 他の冒険者たちにああ言われる実力も見てみたいし」
「私も! 私も行く!」
ナナの申し出に、シェリアも割り込む形で手を上げる。
「なら、私も同行させてもらって良いかしら?」
「シャルナ」
「お姉ちゃん……?」
新しい女の人が来た、とキソラは思いつつ、シェリアの言葉からこの場に現れた、アークにその名を呼ばれた新たな女性ーーシャルナは彼女の姉らしい。
可愛らしい見た目のシェリアに対し、シャルナは妖艶な美女と言ったところだろうか。
「全然、違うように見えるけど、あの二人は正真正銘の姉妹よ」
「あー、でも、タイプが違いますね。真逆というか」
「そうでしょ? シェリアが前衛タイプなのに対して、シャルナは神官系魔導師なの。あんな見た目でもね」
こそこそとキソラはナナとそう話し合う。
シャルナが一歩歩く度に、その大きな胸が揺れる。
「ねぇ、ダメかしら? 私が一緒だと迷惑?」
アークの腕を掴み、谷間に入れて、その豊満な胸で挟み込みながら確認するシャルナにシェリアが噛み付く。
「お姉ちゃん!」
「なぁに? 焼きもち? シェリア。時にはこういう大胆さは必要よ?」
「お姉ちゃんは時と場所を選んで!」
何やら言い合いを始めた姉妹に挟まれ、困惑そうなアークはキソラ(たち)の方を見てーー後悔した。
「キソラさん、キソラさん。顔が怖いことになってます」
ナナが慌てて声を掛ける。
ショックを受けた訳ではないのだろうが、本能レベルでこの状況が駄目なことはナナも察した。
「ナナさん。申し訳ありませんが、この茶番が終わりましたら、ご連絡いただけますか? ええ、手間になることは、重々承知している上に、貴女の手を煩わせることに対して、罪悪感が無いわけではないのですが、やっぱりこの茶番に私が付き合う意味を見出だせないので」
「え、ええ……」
満面の笑みでそう言って、ナナに自身の連絡先を渡すとキソラはその場を去っていく。
「うわぁ、ありゃちょっとやそっとじゃ機嫌が直らんぞ」
「つか、キレてね?」
「いや、あれはまだ半ギレだろ。マジギレのキソラはギルド長でも止められないらしいから」
「マジギレがそのレベルなら、半ギレも十分マズくないか?」
「……」
キソラの放つ空気を察したのだろう、そう話し合う冒険者たちの言葉に、アークとナナは顔を引きつらせる。
特に、アークはこの後も顔を合わせるだろうから、このままだと気まずいのは確実なわけでーー
「だから、な。アーク。こうなる前に、どうにかしておけと言っただろ?」
男性冒険者に肩に手を置かれて言われれば、アークは彼に目を向ける。
きっと、今まで、彼女たちとの関係をなあなあにしてきたツケだろう。アークにとっては冒険者仲間であっても、彼女たちは彼に少なからず好意を持っているのだから。
それが原因で、キソラとーー仕事のパートナーとの関係が悪くなったのだとすれば、その大元の原因は、何もしなかった自分だ。
「っ、」
「ほらほら、分かったなら、さっさと追い掛けてやらんと見失うぞ?」
嬢ちゃんたちも、そいつから手を離してやれ、と男性冒険者が姉妹に促す。
「え~、まさか嫉妬?」
「残念ながらそれは違うし、自意識過剰もいいところだし、何をどう言ったところで納得出来んところ悪いが、俺ら大半がキソラの味方なんだわ。お前さんたちがいくらアークの奴を好きでも構わんがーーそれこそ、時と場所を考えろ、な?」
そんな冒険者の言葉に、姉妹の手が緩んだのだろう。二人に「ごめんな」と言って、完全に姉妹の手を離し、アークはナナの側へと駆け寄る。
「キソラは?」
「私に連絡先渡して、どこかに行っちゃいましたよ。まあ、はっきりと言わなかった私にも原因はあるでしょうが、今はアークくんからの言葉の方が届くと思うから、早く捜しに行ってあげてください」
しっしっ、と追い払うようにして、アークをキソラの元へと向かわせるが、キソラが何故あんな顔をしていたのか、彼は理解できているのだろうか、とナナは思う。
「ナナ」
だが、自分は自分のやるべきことをやろう、とナナは姉妹と向かい合った。
「よう食うよなぁ。そんなカロリーの高そうなもんを大量に食べて、太らないか?」
「ご心配なく。その分、ちゃんと動いているので」
「なら、良いけどな」
アークがキソラを捜している頃。
キソラは、机に肘をついて、手に顎を乗せた状態の男と話していた。
「つか、自棄でホールケーキを食べるなよ」
「別に良いじゃん。ちゃんと昼食食べた後なんだし」
「それが問題なんだよ。何で、ちゃんと食べたあとに、ホールケーキが食えるんだよ」
呆れたような目を向ける男に、キソラは首を傾げる。
「別腹って言葉、知らないの?」
「知ってる。知ってるが、ホールケーキ丸々入る別腹って何だよ……」
別腹に入るものがホールケーキでなければ、男としても納得しただろうが、小さいとはいえホールケーキが丸々入るのを別腹としてカウントして良いものか、悩み所ではある。
「つか、珍しくお前にしてはやらかしたな」
「……あー、うん。何かイラッときたんですよ」
ようやく怒りが収まってきたーーというより、冷静になってきたというべきか、キソラの男に対する普段の口調も戻ってきた。
「嫉妬……ではないよな?」
「まさか」
仕事のパートナーであり、『ゲーム』のパートナーという関係なだけで、キソラにはアークに対する仲間意識はあっても、恋愛感情は無いに等しい。
「つか、やっぱりハーレムとかって、イラッて来るんだなぁ、と再確認しただけです」
「……そうか」
「まあーーっと」
小型通信機への電話に、キソラは確認する。
着信者の名前が表記されていないということは、先程連絡先を渡したナナからの連絡だろう。
『茶番は終わったけど、アークくんがそっちに行ったから』
その内容に、キソラは肩を竦める。
「何だって?」
「……貴方の知り合いでないはずなのに、何で相手が分かったかのような聞き方してるんですか」
「ん? 確かに俺は知らないが、でも、連絡してきた相手はあの場の関係者だろ?」
キソラは思わず半目になる。
「本当、貴方と話していると、時折何でも見透かされている気がするんですが、何故ですかね?」
「さあ、何でだろうな。もし、何でも見透かせられるなら、その点について、俺の方が知りたいよ」
そう話していながらもーーその内容までは分からない、この場を遠くから見ていたアークは、キソラを見つけながらも、その場から足が進められずにいた。
「……」
何を話していようが関係ないはずなのに、足が動かないのは、彼女の今まで見たことがないような表情を見たからか。それとも、あんな表情をさせた理由が分からない上に、何て言ったら良いのかもあんまり分かってないからか。
「ああ、そうだ。どうせこの後も暇なら、俺の依頼遂行に付き合え」
その部分だけ、よく聞き取れた。
(先に誘ったのは、俺なのに?)
キソラが何て答えるか分からないが、アークは彼女の答えを聞くために意識を集中させる。
「は?」
「いや、だから……」
「二回言わなくても良いよ。それに、貴方と組んだところで、すぐに終わるじゃないですか」
ややペースダウンしながらも、ホールケーキの最後の一口を口に入れ、ごちそうさまでした、と告げたキソラは口を拭くと、目の前の男に目を向ける。
「それに、私には先約があるんで」
その返事に、アーク目を見開く。
「なら、ほら。早く返事してやれ」
「分かってるよ。わざわざ捜しに来てくれたみたいだし」
男の向けてきた視線と最初から気づいていたような言い回しをするキソラに、アークはいつから気づいていたんだと尋ねたくなった。
「それで、依頼はどれを受けるの。まだ決めてないなら、さっさと決めに行くよ」
自身の手を引き始めたキソラに、アークは戸惑いを浮かべるが、二人のことを知る冒険者たちはニヤニヤと笑みを浮かべており、そのうちの何人かが残された男へと声を掛ける。
「ったく、結局お前さんもあいつには甘いんだな」
「あんたら程じゃないと思うが?」
「お、言うようになったじゃねーか」
肩を組まれた上に、わしわしと雑に頭を撫でられる。
彼らにとって、彼もキソラ同様に可愛い後輩であり、良い弟分なのだ。
「ちょっ……!? 頭撫でるな!」
「あら、良いじゃない。あんまり、貴方がギルドに顔出ししないものだから、みんな構えなかった分を構いたいのよ」
女性冒険者にそう言われながらも、「野郎に構われてもなぁ」と思いつつ、大人しく撫でられ続ける男。
「ま、貴方が実は初恋をまだ引き摺ってるなんてこと、内緒にしておいてあげるから」
「はぁっ!?」
こっそりと女性冒険者から耳打ちされて、思わず叫ぶ男。
それに対し、男が再度弄られ始めるまで、時間は掛からなかった。
さて、その後のキソラとアークだが、受ける依頼はあっさりと決まり、ナナやシェリア、シャルナも同行したが、ナナが何を言ったのかは分からないが、あの姉妹は珍しく口も挟まず、自分のやるべきことをひたすら行っていた。
二人とも、ナナに何を言ったのかを聞いてみたい気もしたが、ナナが有無を言わせないような笑みを浮かべていたため、聞かない方が良いと判断して、結局は聞いていない。
「なあ、キソラ」
「んー?」
「結局、俺があの時ーーシェリアたちに挟まれていたとき、どう思ってたんだ?」
アークの問いに足を止め、キソラが振り返る。
「さあ、何だと思う?」
逆に問い返されたアークは、質問を質問で返すな、と思いながらも、笑みを浮かべているキソラに肩を竦め、隣に並ぶ。
「ーーさあな。でも、答えなくて良いよ」
「そう」
キソラは特に気にした様子もなく、告げる。
「まあ、ややこしいことは起きちゃったけどーーこれからもよろしくね。相棒」
「ああ、こっちこそ」
手を差し出され、アークは握り返す。
そして、再度歩き出したことで、ふわりと彼女の髪が風に靡くのを見つつ、アークもその背を追い掛けるように歩き出すのだった。
私には、これが限界だった……!
というか、『もし、ハーレム・逆ハーレム設定を組み込んでみたら』という設定でやってみたのに、前者は夢オチ、後者はハーレムものとは言えない内容になったなぁ(しかも、後者の方が長い)。
可愛がられたり、頼られたりはしても、やっぱり、あの二人にハーレム・逆ハーレムは無理だな。うん。
もしも(IF)ネタ等で、何かご意見があれば、感想欄や活動報告にどうぞ。