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S095 To be, or not to be, that is the question.

20年以上も前に読んだので内容があやふやですが、要点だけ押さえます。解釈は色々あるとされていますが、妥当な解釈を(私なりに)します。

うぃきさんのページとインターネットにあった簡単なあらすじをなぞります。

大まかな展開だけなので興味が湧いて読む際の参考にしてください。

読み直してから書こうとも思ったんですが本を現在所有しておらず、また、読み直しても私がそこから得られる情報はないので止めておきましたが、読んでない方にとってはここを読んで気になりそうなら読んでみる事をお勧めします。


今回は前半部分だけです。

尚、ルビ内がうまくいきませんでしたので()で書いてます。

デンマーク王はこの世を去った。突然の死だった。あまりの急死に周囲は驚き、若きデンマーク王子ハムレットも混乱してすぐには事態を対処できそうになかった。

王の死後、王弟クローディアスがまだ若いハムレットの代わりに王に就き、ハムレットが王に相応しい経験と知識を積むまでは代理としてクローディアスが王権を預かる事になった。元王妃であり母であるガートルードは王の喪も明けぬ内の王の死から2か月後にクローディアスと再婚して再び王妃となった。


その異質さを城内で声高らかに唱える者はどこにも居なかった。城内では。


ある日、ハムレットの友人ホレイショがハムレットに噂話を持ってきた。前王つまりはハムレットの父親の幽霊が城壁に出るらしいとホレイショは告げ、ハムレットは噂の真偽を確かめる為に夜になって城壁へと足を運んだ。


足を運んだ先は衛兵の詰め所でそこにいる衛兵の1人と話をする事になった。前王の幽霊が出る、つまりは前王の生きていた時の出来事の残りが噂されている、という話であり、ハムレットはその内容が何なのかを知りたかった。

そこで出会った衛兵からはハムレットは疑っていた事実を再確認させられる結果になった。城には兵士が配置されており、大抵の場所には必ず兵士が居て、王やその関係者が居る場所には常に、空気の様な存在として話さず黙して私情を交えず警備していた。彼らは城で活動する者達を良く見る事になり、しかし守秘義務としてそれを漏らす事は出来ず、しかし今回の出来事はそもそもが法を犯した側の事実を守秘義務として守る必要もない為に、その話がされて困る連中には聞こえない場所で話されていた。

噂話はハムレットが一番疑っていた事、クローディアスが前王を毒殺したという事だ。その衛兵は城壁で警備をしていた。ちょうど城に目を向けた時、クローディアスとガートルードと前王が中庭でお茶を嗜んでいるのを目にしたのだが、突然前王が喉を抑えて倒れ、それをクローディアスとガートルードが見守りながら助ける素振りもせず、そして王が動かなくなった後に周囲を見回して誰にも見られていないかを確認する様に行動した時に、衛兵は見られてはまずいと思い身を隠したそうだ。

所詮1兵士の言う事だ。証拠としては弱いだろう。そしてこの兵士もそれが分かっているようで、もしその事実を知られたら彼も不慮の事故で、最悪は家族諸共死んでしまうだろうから黙っていたのだが、王を殺した大罪人を新たな王として認める事に良心の呵責を感じて同じ衛兵仲間に話してしまったそうだ。他の衛兵も元々、誰もが前王の死を疑っており、まだ老齢とは言えない王が急死する、衛兵が守っている城内で、敵に襲われる事のない場所で、そんな事はありえてはならなかった。衛兵の責務が果たされない事でもあり、彼らのプライドは痛く傷つけられた。彼らのプライドを傷つけたのは、王を殺してでも王の座を欲した男と姦通した女。そんなものを王と王妃として認めるなど彼らには出来ず、しかし逆らう事は死刑となる。そんな状況が彼らに愚痴を言わせてそれが噂として外へと漏れる結果になり、ハムレットより動きやすいホレイショの耳に入ったという事らしい。

その話を皮切りに、衛兵達は前王の居ない場所で、クローディアスとガートルードが偶然を装って逢瀬を重ねたりしていた事を話し出した。本人達はあくまで偶然を装っているものの、互いの行動など熟知している様で、言ってしまえば周囲の目をはばかる事もなく会っていた。兵士は当然、彼らの従者もそれを黙認している状況で、なぜか王にはその情報が届けられなかった。そう、ここが重要だ。


さて、王の死後、最も王の警護を担当していた者はどうなったか。クローディアスは前王の死後、混乱を抑える為に前王に最も良く使えた侍従長ポローニアスに政治の補佐をさせるという名目で宰相に任命した。

これが全てだ。

王の補佐として目となり耳となる侍従長は王に情報を届けなかった。その事実が侍従長は誰の味方なのかを語っていた。

そもそもが侍従長は王が急死して、それが原因不明なら毒殺が考えられる為に王を守れなかった責任を取らされて処刑されるのが一般的だ。警備出来ない警備兵は役に立たず、結果として警備出来なかったのであれば責任を取らされるのが普通である。しかしポローニアスはどうだ。なぜか生きている。本来ならその責任を問う為にクローディアスが処刑を命ずるか、最低でもポローニアス自らが職を辞退し隠居するのが世の習わしだ。恥を恥と知らずにそのまま仕える事など余程の恥知らずしか出来ない。

ではなぜクローディアスがポローニアスを処刑しなかったのか。考えられるのは1つであり、クローディアスとポローニアスは共犯者だと言う事だ。そうでなければそんな役に立たない侍従長などリスクが高くて使えない。そしてだからこそクローディアスは権力をチラつかせながらもポローニアスに侍従長をさせていない。同じ事をされては危険なのは目に見えている。


クローディアスは王さえ居なければ自身が王になれ、王を排除出来さえすれば良いだけだから、周囲に甘い言葉を囁いたのだろう。王妃を誑かし、臣下には更なる権力を約束する。元々持っていない権力だ。多少無理をしても自分の懐は痛まない。成功すれば大きな利益になるのだ。言ってしまえば王が持っている取り分の一部を分け与える事で残り全てを自身が手に入れる事が出来る方法であり、クローディアスが効率よく力を欲するなら最も近道だ。

ガートルードは政務に忙しい王が自身を女として扱わないところにクローディアスがその内心がどうかは分からないが女として扱いチヤホヤしてくれる事で情を移したのだろう。そうなれば王は邪魔な存在であり、クローディアスとの幸せな愛の生活を送るにはどうしても消えて貰わなければならない。

ポローニアスも侍従長から更に権力を持つ宰相になれるのだ。王の小間使いとも言える立場から国を操る権力者になれるのだ。損はしない。王にとって残念な事は、侍従に最も必要な才能がポローニアスには欠けていた事だろう。


彼らにとって前王はお互いが利益を得るには邪魔な存在でしかなく、そして彼らの命令を聞く者達で周囲を固める事が出来るから、第三者に見られる事もなく計画を実行出来、そしてうまくいった。


「この世の関節は外れてしまった。」


ハムレットは思う。王を補佐するはずの王族の一員が王に害成し、夫を支える役割を持つはずの妻である王妃は姦通して王を裏切り、王を補佐して王の望みを叶えるはずの臣下が王を裏切る。もはやここデンマークの城の中にはこの世の肝心要となるルールなどどこにも無いようだった。

貞節、献身、謙虚、どの様に言ったところで既に失くなってしまったものを惜しんでも戻っては来ない。


そしてこうも思う。次は自分だと。兄である王を殺したのだ。夫である王を殺したのだ。上司である王を殺したのだ。甥である自分を殺す事に躊躇いはないだろう。息子である自分を殺す事に躊躇いはないだろう。上司でもない自分を殺す事に躊躇いはないだろう。


その日からハムレットは性格をガラリと変えて行動した。政務の事など考えずに遊びに耽る様になり、自棄になったかの様に振舞い、どこか精神がおかしくなったと思われる様に行動してクローディアスに殺す価値のない者だと錯覚される様にした。



そんなハムレットを見ていたクローディアス達だが、ハムレットをどうするかを相談する事になり、クローディアスが話し出す。


「あのハムレットの奇行振りはどうだろう。前王が死んでとうとう狂ったのだろうか。」


その言葉にガートルードが答える。


「あの子があんな姿を見せるなんて驚きだわ。あんな子ではなかったのに。」


それにはポローニアスが答える。


「ではオフィーリアに調べさせましょう。何、あいつとて男、惚れた女になら事情を話すでしょう。知っていればポロリと口にするはずです。」


その提案を聞いてクローディアスは満足行くように頷きこう言う。


「ではポローニアス、頼んだぞ。もし知っているならその時は・・・」


「あの子はもうあなたの害にはならないわ。誰もあなたを・・・」


「ええ、分かっていますとも。まだまだ私は良い思いをしたいですから。」


ガートルードの言葉は遮られる形でポローニアスが答え3人は別れた。



そしてポローニアスは屋敷へと戻り、ハムレットの婚約者であるオフィーリアを呼び出した。


「オフィーリア。最近のハムレット様の様子はどうだい?」


「それがお父様。ハムレット様は以前と違い遊び呆けている様で私には何があったのか見当もつきません。」


「そうだろうとも。私達も同じ様にハムレット様の行動には心を痛めていてね。それでだ、オフィーリア、婚約者であるお前が聞けば何か話してくれるかも知れない。ハムレット様が何かに悩んでいたなら私達も一刻も早く取り除いてあげたいと思っているのだよ。協力してくれるね?」


「はい。お父様。喜んで。」


そう言ってオフィーリアはハムレットに会いに行った。オフィーリアがハムレットを見つけると、ハムレットはカードゲームに興じていて、ハムレットの方もオフィーリアを見つけるとバツが悪そうに顔を背けた。ハムレットの遊び相手もオフィーリアを見つけると邪魔をしてはならないとばかりにそそくさと逃げて行った。


「ハムレット様。なぜあなた様はその様な姿になってしまわれたのですか?」


「何を言っているんだ?私は以前からこんなものだよ。オフィーリア。単に父が死んで以前の様な体裁を整える必要がなくなっただけだよ。」


「いいえ、そんな事はありません。以前はこの様な昼間から遊びに興じているなどありませんでした。幼い頃から知る私にそんなウソは通じませんよ。」


「ふん。どうだかね。それより何しに来たんだい?私は今やしがない将来危うき王子に過ぎない。」


「何を仰られるのです。何か悩み事があるならこのオフィーリアにお話しください。わたしに出来る事ならお手伝いいたします。さあ、お話になってください。」


どうしても理由を聞きたがるオフィーリアをハムレットはじっと無言で眺める。そして『そうか、君もか』と思う。恐らくは父の命令で本心を聞き出しに来たのだろう。恋人であるオフィーリアにならポロリと本心を漏らすだろうと思ったに違いない。だからハムレットはこう言い返した。


「女子修道院へ行け。」


オフィーリアは愕然とした。未婚のまま女子修道院に行くのは何かとんでもない過ちをした者だけだった。誰にも嫁にして貰えない傷持つ者が生きていく為に仕方なく女子修道院に行くのだ。最後の拠り所、それを事もあろうか自身の婚約者から言われたのだ。その理由も分からないオフィーリアはただもうハムレットにはオフィーリアに対してのかつての様な気持ちはないのだけは知る事が出来た。

オフィーリアは悲しい気持ちのまま何も言い返さずその場を去った。

その後ろ姿を見送ったハムレットもまた悲しい気持ちと侮蔑したい気持ちで思う。君が母の様なアバズレだとは思わなかった、と。あれを知りそれでもハムレットの母や自身の父の味方をするのだ。あのような行ないを何とも思っていないのだろう。そう思わざるを得ないハムレットは泣く泣くオフィーリアへの想いを捨てた。いつ何時、父の様に殺されては堪らない。


「to be(生きるべきか), or not to be(死ぬべきか), that is the question(それこそが問題だ)」


父を殺されたまま大人しく従い死んだ様に生きるのか、それとも例え死んだとしても生きている証に復讐を果たして見せるのか。復讐を望めば恐らく死ぬだろう。しかし耐え忍んでも殺されないとは限らない。ハムレットはどうすべきかを悩む。



オフィーリアがハムレットの本心を聞き出せなかった、或いはあれがハムレットの本心だという結果にクローディアスは悩む事になった。知らなければ良いのだ。そして証拠を探さなければ。ただそれだけがどうしても知りたいクローディアスは次なる手に出る。婚約者で駄目ならば母はどうだと考えた。


そうしてガートルードはハムレットを呼び出して最近の様子について話を聞く。


「ハムレット。どうしてお前はそんな悪ぶっているの?悩みがあるなら母が聞きます。」


それを聞いたハムレットは『そう来たか』と思う。肉親である母にならもしクローディアスが父を暗殺したのを知っているなら本心を吐露すると思ったのだろう。ハムレットには母の行動が父の事を最早どうとも思ってない様に見え、それがクローディアスへの恋なのかそれとも保身からなのかは分からないが容易く今までを捨てきれるその姿に思わずこう言った。


「frailty(寄る辺なく縋る者よ), thy name is woman(汝の名は女成り)」


余りの物言いにガートルードはハムレットを見返すが、腹を痛めた子が自身に向ける冷たい眼差しはさすがに彼女にも堪えた。そして思わず無意識に視線を向けた先は隠し部屋であり、そこにはポローニアスが居てハムレットの様子を伺おうとして覗いているのだった。部屋と言っても1人入れるだけの広さで壁も薄く簡単に壊れる代物で避難用に用意されたものだ。ガートルードが縋るものを探すかのように視線を向けた先にピンと閃くものがあったハムレットは今がチャンスだと思う。城の隠し部屋などは王族かそれに近しい者しか知らず、例えクローディアスが王であっても盗み聞きするなど王のする事ではなく、あえて他人の話を盗み聞きしているならそれは卑しい者だ。ならスパイなのだから殺しても構わないし、クローディアスだとは知らないでするのだ。事故で処理されるだろう。ハムレットの父の様に。


そうしてハムレットはスラリと剣を抜き放ち、「ねずみかな」と白々しく言いながら隠し部屋の薄い壁目掛けて剣を突き立てた。壁を貫いた先で呻き声が聞こえてハムレットは『良し』と思い、部屋の中へと入るとそこには血を流して倒れているポローニアスの姿があった。

クローディアスではなかったが敵の1人を倒した事には違いないとハムレットは溜飲を下げる。今生きている事自体がおかしいポローニアスがただ今しがた死んだに過ぎない。王を裏切った代償としては軽いものだとハムレットは思いながら振り向くと余りの出来事に呆然としているガートルードの姿があった。

女には分からないのだろうな、とハムレットは思い部屋を後にした。



父が殺された事を知った息子のレアティーズとオフィーリアはそれぞれに違う反応をした。レアティーズは父のした事を知りながらも起きてしまった事は戻らないとばかりに状況を受け入れていたがオフィーリアは違った。ハムレットに酷い一言を言われた後に広まった噂を知り、ハムレットがどうしてああなったかを知る事が出来た所に父の訃報である。しかも父はハムレットと王妃の会話を盗み聞きして殺されたのだと知った。その事実からオフィーリアは自身が父にハムレットの様子を窺う為のスパイとして命令された事も知った。

なるほどそれならハムレットの対応も分かる。オフィーリアは知らずとハムレットを殺すために彼に近寄ったのだ。その彼がオフィーリアをどう見るかなど分かりきっていた。そして王妃のした事は女性にとっては淫売と呼ばれても仕方ない事であり、それをオフィーリアが当然だと思っていると思ったハムレットはあんな酷い事を平気で言ったのだと知る。妻にした女が他の男と通じて夫を殺すなど、そんなものはあってはならない。しかしオフィーリアはその片棒を担いだのだ。今更ハムレットはオフィーリアを信用しないだろう。

そしてその事実を知れば誰もオフィーリアを妻にする事はないだろう。オフィーリアの人生はここに窮まった。保護者である父を失い、兄が居るとは言えずっと養ってもらうわけにはいかない。誰も妻にしてくれない。なら本当に女子修道院に行くしかオフィーリアの生きる道は残されていなかった。

そうなるくらいなら、とオフィーリアは考える。せめてハムレットには自身の想いを知ってもらいたい。オフィーリアはハムレットを裏切っていない。それを伝える手段はもう1つしか残されていなかった。



クローディアスはポローニアスが殺された事を知り、次はいよいよ自分だと思いどうするかを考える事になった。ガートルードは元々ハムレットを殺す事に乗り気ではないがそれを構ってはいられない。

そんなクローディアスの所にレアティーズが現れる。レアティーズは「どうするのか」とクローディアスに聞く。父を殺されたレアティーズも最早退くに退けない状況だった。ハムレットがこのまま生きている限りレアティーズの人生は終わったも同然だ。父を殺した者に復讐もせず逃げたままでは他の者に舐められる。かといってハムレットが謝罪する事もないだろう。レアティーズの運命は状況を受け入れた時に決まってしまっていたのだ。ハムレットが死ぬかレアティーズが死ぬか。レアティーズにはこの件はこれ以外の問題ではない。

父もクローディアスも困った事をしてくれたと思いはしてもレアティーズには最早どうする事も出来ない。だからクローディアスと一蓮托生で堕ちる所まで堕ちるしかなく、ハムレットさえ居なくなれば全て解決するのだ。

そんなレアティーズを見てこれは使えると思ったクローディアスは剣術試合を行なう事にした。王子であるハムレットは逃げる事が出来ず、そしてレアティーズは味方であり、毒を塗った剣を使っても黙っているだろう。



ハムレットはまたガートルードに呼び出された。今度は何かと思ってハムレットが出向くとただ一言だけをガートルードは言った。


「オフィーリアが入水自殺したわ。」


その言葉にハムレットは少なからぬ衝撃を受けた。なぜ彼女が自殺したのか。父を殺されたからそれを悲しんでか、ハムレットに罵られたからか。もしかすると彼女は何も知らなかったのかも知れない。そうは思いはしても既にそれを知る術はなく、ハムレットには最早どうする事も出来なかった。


ハムレットがオフィーリアの事を考える時間は与えられなかった。剣術試合が行われる事が伝えられ、ハムレットはレアティーズと戦う事になるのを知った。父の復讐か妹の恨みかどちらであるにしても試合で済むわけもないとハムレットは覚悟を決めた。


そして試合当日、ハムレットとレアティーズは会場に出向いた。試合前に飲み物が振舞われたがハムレットは出された杯に口をつけなかった。同席するクローディアスとガートルードの前では口をつける振りだけをしたが、クローディアスの顔が悔し気に歪むのを見るに飲んでいない事はバレている様だ。そんな2人を見るガートルードの表情は不安気で何か思いつめた様子があった。


しばしの歓談の後に試合は始められハムレットとレアティーズの番になった。どちらも覚悟を決めた顔で試合に臨んだ。

2人の戦いを見ながらクローディアスはほくそ笑む。レアティーズには言っていないがどちらの剣にも毒を塗っているのだ。父の復讐に駆られたレアティーズが卑怯にも毒を使ってハムレットを殺す。どちらの武器が使われるか分からないからハムレットの使う武器にも毒を塗って相打ち覚悟で挑んだ、という結果なら誰もクローディアスを疑わないし、疑えない。死人に口なし、これこそクローディアスの望む結果だ。既にポローニアスも居らず、オフィーリアも居ない。レアティーズさえ死ねば後は事実を知るのはガートルードとクローディアス本人の2人だけだ。そしてハムレットも知ればクローディアスを脅かす者は居らずもう何も怖いものはない。

2人の戦いを見ながらガートルードの気持ちは沈んだ。何と言う結果になったのかと。単なる軽い気持ちで、普段の日常に色を付ける程度に始めた火遊びは、ガートルードの知らない所で大きな火となり周囲を焼き尽くした。まさかクローディアスが前王を殺すなどと大それた事をするとも思って居らず、情事を楽しみながら過ごせれば良いとだけ思っていた。しかしクローディアスは野心を持ち、そしてあの日、茶会に王を呼び出すように頼んできた。2人で甘い語らいを楽しんでいる所に何を無粋な事を言うのかと思いもしたが夫への引け目もあり、悪い事はしていないのだと思い込むためにもクローディアスの頼みを聞き、王を呼んだ日にあの事件は起きた。あれは決してガートルードの望んだ結末ではない。ただガートルードは色の無い日常に鮮やかな色が欲しかったのだ。

しかし王は死に、その事実を知るガートルードは恐ろしくなった。ガートルードが王を招いた場所で王が死んだ。ガートルードがクローディアスと普段から会っている事など周囲は知っている。知らぬのは忙しい王だけ。そしてその王が死んだのだ。誰が殺したかなど事実がなくとも誰も疑わないだろう。

そしてガートルードはクローディアスが恐ろしくなった。無理やり共犯者にされ、そしてそれをバラせば次に殺されるのは自分だと。飲み物に毒を仕込む事が出来たのだからポローニアスも共犯者だろうからガートルードには殺されない為には選択肢は残っていなかった。

その結末がこれだ。ポローニアスは死に、オフィーリアは自殺し、今まさに腹を痛めた子であるハムレットとレアティーズが戦っている。ガートルードが日常に刺激を求めさえしなければこんな事にはならなかったのだ。クローディアスに僅かながらにも王になるチャンスがあると思わせたのは自分だとガートルードは後悔する。

今更取返しもつかず、償いも出来ない。ガートルードはクローディアスが戦いに夢中になっているのを見てその隙にハムレットに出された杯を飲み干した。自身の火遊びで皆が死んだのだ。オフィーリアに至っては完全にとばっちりだ。ガートルードが淫売だと言われる様な事をしなければオフィーリアは自殺しなくて済んだ。そんな自分がこのままで良いはずがない。そう思い杯を飲み干したガートルードはやがて苦しみだし喉を抑えて倒れた。

クローディアスが気づいた時にはもう遅くガートルードは死んだ。2人の戦いを見ていたら隣で突然ガートルードが死んだのだ。良く分からない事態にテーブルに目を向けると横倒しになった杯があり、それはハムレットに飲ませるつもりだった毒杯だったが空になっていた。

「何と言う事を」と思ったクローディアスはそのまま呆然としたままただガートルードを眺めていた。


ガートルードの死を知らずに戦う2人は違和感を覚える。身体がだんだん重くなっていくのだ。普段ならあり得ないその状況に「もしや毒か」と2人共が思う。戦いはハムレットが優勢になり、より多く斬られたレアティーズはやがて膝を付き、ハムレットも鈍くなる体を持て余す様になっていた。

レアティーズはクローディアスに謀られたとようやく気付き、最早命は助かるまいとせめて裏切ったクローディアスに一矢報いる為に洗いざらい話す。


「ハムレット。俺とお前の武器には毒が塗られているんだよ。俺の武器だけのはずだったんだがな。仕組んだのはあいつだ。クローディアス。」


そう言いレアティーズは倒れた。

ハムレットは公然と復讐をするきっかけを手に入れ、すぐにクローディアスに詰め寄り剣で切り殺した。

既にハムレットにも毒が回り、助からないのはレアティーズを見れば分かりきっていた。

死を前にして、ハムレットに駆け寄る友人であるホレイショの姿を見てこう言い残す。


「同じ様な事があってはいけない。どうかこの話を語り継いでくれ。」


その言葉を最後にハムレットは倒れた。


自身とはそうとは知らずに騙されて行動する者や、周囲に第三者が居ない為に実行する者、など前話の話の参考になります。


==>frailty, thy name is woman

「弱き者よ、汝の名は女なり」と昔に訳されました。訳としては「脆き者よ、汝の名は女成り」というのが厳密には正しいらしいです。

ただ、私は「弱き者」がニュアンス的に正しいと思っています。「脆い」は外から容易く崩される事で、「弱い」は自らの意思をちょっとした事で保つ事が出来ない事を指すのだと私は思っています。


ここでのfrailはファンタジー小説好きなら武器のフレイルを思い浮かべると良いかも知れません。つまりは『振り回されるもの』であり、貞節、献身などの一貫した行動がなく、その場その場で状況に突き動かされるもの、という意味を持ちます。王が生きている時は王に従う王妃という態度をしていたがいざ王が居なくなれば王妃としての態度すら取らずに他の男に媚びる姿などがハムレットからは見えたのでしょう。もちろん、裏事情あっての事ですが。

「F」のシンボルの意味が、揺らぎ、ふらふらする、うごかされるもの、同じ場所に留まらずあちこちに移動して落ち着きのない、などを持ちます。


ガートルードには別解釈があって、夫が毒殺された事で身の危険を感じて自身とハムレットの保身の為に取り入った、という考え方が出来ます。最後のシーンで誤って(・・・)毒を飲みますが、もしそれが、ハムレットの身を助ける為にガートルードの妻になったとすれば、最後の決闘で毒を塗られた剣を受けたハムレットが最早死を免れないと知り自身も死ぬ決意をしたとも取れます。こちらは美談過ぎて胡散臭くなりますが。妥当な線では城内に味方がいない(クローディアスとポローニアスが共犯)為に保身したというのが別解釈としては妥当でしょう。

オフィーリアも男性社会では誰か男性に頼らざるを得ない為に本人の意思とは関係なく生きる為に従う事を強制されて命令に従ったと解釈出来ます。まだ夫にもなっていないハムレットに頼るわけにもいかず父の命令に従いますが、その父が死にます。そうすると頼るべき男性は居なくなり、そしてすでに夫になるはずであったハムレットを裏切っているので頼る事も出来ない。そしてオフィーリアは入水自殺する、という解釈も出来ます。

この話では女性の立場は弱い印象が見受けられ、誰かに頼らないと生きていけない状況にあり、自身の意思とは関係なく行動させられている印象が感じられます。

ここでガートルードを悪役にしてますが、1.毒殺するには服毒が必要、2.食事などでは他の多くの者に目撃されハムレットも当然見る事になり毒殺か病死などの突然死との違いははっきりする、3.原因不明にするためには周囲に第三者が居てはならない、という理由から悪役にしています。

ガートルードの服毒は、別解釈すると、クローディアスとガートルードに生き残って欲しくない周囲がガートルードの杯に毒を混ぜた可能性もあります。因果応報、毒で王を殺したものが毒で死ぬ、という結果を描いている可能性はあります。その場合はここでの解釈とは違い、ガートルードは改心もしない悪女のままになります。


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