S079 誰だって火炙りはスペアリブだけにしたい
前半は上げて落とすスタイル。
前半部分で、大抵はお涙頂戴部分だけ見せて訴えるのが商用です。ビジネスというやつです。しかし問題を考えるには他の事例も知らないと出来ず、そしてそれは知られると都合が悪いから誰も教えてくれない。だから考える知性がないと何も分からないまま、という結果になります。
私はネットを介してつながるあなたがたとは直接に利害関係がない。だから書いても良いかなと言え、また、それで世の中ましになるならこの程度は良いかというものです。このやり方で何か詳しく教えるには限界があります。だから昔は、今の家庭教師のように口伝やそれに近い形式であるマンツーマンでの指導でした。分からない所を直接見て把握してそれに適した教え方をする、というものです。マニュアルを見ても対応できない所に教育の妙があります。
少しファンタジーぽく言うと、私達という|小宇宙[コスモ]も観ずに対処など出来ない、という感じです。
私の作品を読んで、少しは何か啓発されて調べてみようかなと思ったかも知れませんが、それが導くと言う方法であり、知性を育む教育の在り方です。古臭いと言われて廃れていますが。目先の利益を求めるのにそんな非効率なやり方は必要ないのです。
シェリルは目の前の孤児をどうしようか悩んでいた。こんな山村にも時折、戦争から逃げてくる者達がいる。しかしここは山村だ。豊かでもなく、自然の恵みも限られている。彼らに泣きながら頼まれてもシェリル達にはどうしようもなく、強制的な椅子取りゲームをするわけにはいかなかった。食料は限られシェリル達もギリギリなのだ。加えて天候不順は山の恵みを少なくし例年より厳しい。そこに新たな人間を加える余裕などどこにもなかった。
厳しい事に加え戦乱から逃れて来る者達の中には知っていてもいなくても山で取れる物を勝手に持っていく。だから村の者達は皆ピリピリしており、止むなく墓に入ってもらった者もいる。飢えてしまえば盗むしかなく、山の恵みは所有者がないようなものだが村人の貴重な食料だ。この辺りの山、と言っても山のこちら側で、向こう側は隣村の者のテリトリーとなっている。長い年月をかけてお互いが争いながら決めたものでそこに余所者を加える余裕はなかった。こればかりは頼まれても受け入れるわけにもいかず、いつ自分がそうなるか分からない姿を見せつけられ怯えながら追い払うしかない状況でこの子を見つけた。
あちこち汚れているが着ている服は上品そうで、言葉遣いも村の子供と違い美しかった。親はここに来る途中に野盗に襲われて殺されたらしく自分を逃がす為に囮になったらしい。シェリルは同情するも村の掟は掟だからと思い、子供に辛くあたろうとしたが、シェリルはどうしても子供に弱い。
戦争に駆り出された夫は出たまま帰って来ず一緒に徴兵されたトーマスが言うには、負け戦で散り散りに逃げてトーマス自身が奇跡的に助かっただけだと言っていたから生存は絶望的だ。子供と2人でやっていくしかないと思っていた昨年の冬の寒さはかけがえのない子供まで奪っていった。近隣の街の医者のほとんどは戦争で連れて行かれ、残った貴重な医者は遠くの街にしか居らずそこまで保たない事が分かっていたシェリルには弱っていく子供に何もしてやれなかった。目の前で弱っていく子供を見ながらどうする事も出来ない痛く苦しく耐えがたいあの気持ちをシェリルはもう味わいたくなかった。
「とりあえずこれ食べな。甘くて美味しいから。」
そうシェリルは言い、今日採ったばかりの実を差し出した。これが知られたらシェリルは裁かれるだろう。掟は絶対でシェリルにはどうしようもない。でもこの子を見捨てたくない。そんな思いのままシェリルは覚悟を決めた。
そうして他の村人に気づかれないようにシェリルは、その子供リチャードを山にある洞穴で匿った。リチャードは利発な子で迷惑をかける事もなく、シェリルが教える山のルールをすぐに吸収していった。この村の人間しか知らない場所も教えたが見つかるとまずいのでリチャードにはなるべく村から遠い場所で木の実や野草を取ってもらう事にして、そこにシェリルが持ってきたパンやスープを足して飢えをしのがせた。
いずれ気づかれるのは分かってる。それでもリチャードは可愛かった。夫に先立たれ子供にも置いて行かれたシェリルは心が飢えていた。触れ合いが欲しかった。人の温かさが欲しかった。そんなシェリルの気持ちをくすぐるようにリチャードは真面目で頭が良くシェリルの何気ない話にも付き合ってくれて、夫や子供と一緒に過ごしたあの頃が帰ってきたようだった。
一度教えたらすぐに出来るようになり、木工細工も慣れないながらも行って道具を作るその姿をシェリルは微笑ましく眺めた。
しかしそんな時も長くは続かなかった。まあ当然バレるだろう。なにせ子供が死んでから塞ぎがちだったシェリルが急に明るくなりだしたのだから他の村人も何かあると思うわけでシェリルを尾行した村の狩人がリチャードの居場所を知ってしまった。
シェリルは村で拘束され他の村人達がリチャードを捕まえにいった。まさか殺されるんじゃ、とシェリルはリチャードの安否を気遣いながらも時間が過ぎ、シェリルが村の広場へと連れ出されるとそこには縄で縛られたリチャードの姿があった。すこし怪我をしているが酷い怪我をしているように見えないリチャードにほっと安堵の表情を浮かべるシェリルとシェリルが何もされていない事に表情を和らげるリチャードがいた。
だからといって状況が良くなったわけではなく、シェリルはどうなるか不安で堪らなかった。自分がどうなるかではなくリチャードがどうなるかが心配なのだ。自分はもう覚悟を決めている。苦しかった生活の最後に良い夢が見れた、だから後悔はないとシェリルは思い、せめてリチャードだけは助けたかった。
2人の前で2人をどうするか裁判が行われた。
結論など分かりきっている。生活は厳しく誰かに分け与える食料なんてない。でもだからそれがどうした。リチャードは助けてみせる、とシェリルは村長と他の村人の会話を聞きながらその時を待った。
「村長、シェリルも悪気があったわけじゃ・・・。あんたも知っているだろう?シェリルんとこは・・・。」
「いいや。掟は掟だ。破るわけにはいかん。そんな事すりゃ歯止めが効かんくなって誰もかれもと言い出す。そうすりゃ分かってるよな?お前が代わりに|往[い]ぬるか?」
「いや・・・、でも・・・。」
「でももなんもなしじゃ。山の神様が多く恵みを下さらん限り掟は鉄則じゃ。ただでさえ山が荒されて獲物も減ってるとヨハンも言っとる。お前んとこのミゲル、飢えさせる気か?まだ5つになったばかりじゃろう。」
「くっ・・・。」
そうして一言もどんな罰かを口に出してはいないがミシェルの罰が決まった時に、ミシェルは今がその時だと口を開いた。
「村長。私はやっぱりあれよね。でもね、なら1人分空くでしょ。だったらリチャードの分が出来るわよね?居なくなる私が代わりを決めても良いわよね?リチャードはもう山で食べ物を取って来れるし畑仕事だって出来る。もう少し大きくなったら充分な男手よ。良いわよね?それで。」
シェリルのその一言にリチャードを除く皆が絶句した。リチャードだけは何がどうなるかは分からないがシェリルに良くない事が起こるのは確実だから話に割り込む。
「皆さん。シェリルは私を哀れに思い情けをかけてくれたのです。私はどうなっても構わない。だからシェリルを以前と同じように迎え入れてください。」
今度はそこで皆驚いた。自分が殺されるかも知れない時にシェリルの身を案じるのだ。シェリルを見知った自分達はシェリルを見捨てようとしている時にまだ会ってそれほどでもない子供がシェリルの事を案じている姿が自分達の醜さを映し出しているようで心が苦しかった。
仕方ない、仕方ない、と言い聞かせて諦めて、臭いものに蓋をする様に見ないようにしていた何かを村人たちは蓋を開けて見せつけられた気がした。
しかし、厳しい事情がまたしても村人達に諦めさせる。
皆の想いに気づいていながらも、そして自身もそう思いながらも、何も変えられない不甲斐なさが身に染みて苦い顔を隠し切れない村長はそれでも重々しく言った。
「だめだ。掟は掟だ。儂には皆を守る責任がある。儂に掟は変えられん。この話はここまでだ。」
その一言にシェリルは力無く項垂れる。結局自分も何も変えられないのかと、ただただリチャードを助けられないのが悔しかった。
そんなシェリルの姿を見ながら村長は続けて言った。
「だがシェリルの覚悟が良う身に染みた。その子は、リチャードと言ったか、儂の所で育ててやる。男手だからな。あと少しすれば身体もしっかりするだろう。もうその子の事は心配するな。掟は掟だが、まだリチャードは村の者じゃない。掟で縛るには村に入れてからだ。」
村長のその言葉にシェリルはハッを顔を上げると村長は苦い顔をしながら、何かバツが悪いのかシェリルとは目を合わさなかった。そして、何か堪えようとして堪えきれないように身を捩らせてから加えてこう言った。
「でも掟は掟だ。その辺は分かってくれ。」
その言葉にシェリルは仕方ないと顔を下に向けるがどうやら願いだけは叶ったようで、泣きながら「ありがとう、ありがとう」と口にするだけだった。
そんな村長とシェリルのやり取りを見ていたリチャードは、自分は助かってもシェリルが助からないと意味がないと思って村長に嘆願した。
「私よりもシェリルを!私に会わなければシェリルがこんな目に会う必要はなかったんです!だから私を殺すなり追放してシェリルを助けてください!」
しかしリチャードの願いは受け入れられず村長は冷たくこう言った。
「出来ん。儂にはどうにも出来ん。それに村に男手は必要だ。お前にも分かる時が来る。」
「いやだ!こんなものは受け入れられない!どうかおねが・・・」
村長に詰め寄るリチャードを村人達が慌てて取り押さえ、村長はそんなリチャードを悲し気な目で見て話す。
「終わるまで離れの見張り小屋に閉じ込めておけ。その後に話をする。」
「だめだ、だめだ!村長!もう一度話を・・・」
そうしてリチャードは男たちに連れて行かれシェリルはその姿を見て心の中で最後の別れを言った。
次の日、リチャードは村の広場で立ち昇る煙を眺めながら状況を見守っていると、村人達に小屋から連れ出されて広場に着いた。
そこには焼け焦げた酷い臭いと無残な焼死体があった。リチャードにはそれが誰のものか聞かずとも誰か分かった。村人が集まるこの広場にシェリルの姿がなかったからだ。
「こんな酷い、どうしてこんな・・・。変えられないならせめて楽には出来なかったんですか・・・、村長!」
リチャードが涙目になりながらも怒りを抑えきれない様子を村長はただ静かに見つめていた。
「掟は掟だ。悔しいか?」
「勿論。あなたはどうなんです?」
「悔しいなんて言葉はもう擦り切れて無くなった。あるのは現実だけだ。1人入れたら1人出なくちゃならん。だからな、リチャード、もう一度お前に聞く。悔しいか?」
「ええ。悔しすぎて何もかもにこのやり場のない怒りをぶつけたくなりますよ。あなたにもね!」
「そうか。なら現実を変えてみせろ。お前の手で。強くなければ誰かを助ける事なんて出来ない。手を差し伸べる余裕がないからな。儂はな、もう疲れた。ここは皆が家族みたいなもんだ。あそこのデイビーは孫娘の旦那だし、シェリルもな、妻の妹の娘だ。でもな、だからこそなんだよ。優しくしたら示しがつかん。誰も従わんようになる。それじゃあ村で争いになってもっと多くの者が死ぬ。だからみせしめにせねばならん。甘さで誰かを殺すんは一番悪い罪だ。殺した奴に顔向け出来んからな。自分は甘えて相手にはとても辛いものを押し付ける。そんな奴がのうのうと暮らして良いはずがない。儂達はな誰かの死の上に生きているんだ。それを忘れるな。」
リチャードは変わり果てたシェリルの前で膝をつき項垂れてその言葉を聞いていた。
メリンダは独り者だった。見た目がそれほど良くもないとはいえ悪いとも言えない。似たような友人は既に結婚しており子供も居る。でもメリンダには居ない。それがどうしても納得がいかなかった。
そんな時にケビンと出会った。まだ男と呼べる歳ではないがそれももうすぐと言う年齢。もう子供だって作れるだろう。行く宛てがなくあちこちを転々としていると言うケビンを気に入り家に匿った。
そりゃケビンは見てくれが少し悪い。でも村の男達と比べても大差ない。何より私の男だ。そこが一番重要だ。これ以上メイに大きなツラをさせなくて済む。あいつったら旦那が村長の息子だからって鼻にかけてるから苛立つ。見てろ、今に私の男が村一番になるんだから。そうメリンダは意気込みケビンとの同棲が始まった。
周りに気づかれない様にしながら、結婚しながらもいまだに粉をかけてくる男達をはぐらかして家に戻ってかいがいしくケビンの世話をする。村ではどうだとかそこの森ではどういったものが危険だとかおよそ村の人間しか知らない事をケビンに教え込んで|一端[いっぱし]の村人に育て上げようとする。ケビンもやる気を出して色々と村の事を聞いてくるのがメリンダには嬉しかった。自分の男はこんなにも役に立とうとしてくれるんだと毎日が楽しかった。
そんな生活も長くは続かなかった。メリンダの様子が変だと思った女達は彼女を監視してようやく原因を突き止めた。村の皆に内緒で男を連れ込んで何か企んでいるらしいのだ。
村の男達を連れてメリンダの家に向かうと気づかれたのか男は逃げ出し、メリンダは凄い形相で怒鳴り散らした。
「なんだい!私に男が居るのがそんなにだめなのかい!おまえも!おまえも!おまえも!抱きたい時は優しく声をかけるのに私が自分の男を持つのがそんなに嫌なのかい!」
メリンダは男共に向かって言いたい放題当たり散らした。男どもはバツが悪そうに顔を歪めながらもメリンダを取り押さえて村長の家に連れて行った。
そしてメリンダは火炙りの刑になった。メリンダは悪びれる事なく何をしていたかを語った。ケビンを村一番にしようと思い色々と教えてやったんだと村長に伝えた。村長はその言葉に眩暈がする思いだった。村人しか知らない取り決めや狩場や採取場所を余所者に知られたのだ。これからかなり厳しくなるだろう。そしてメリンダはその事に気づいてもいない。最近この近くの村で盗みがあったらしく、村長はそいつがケビンではないかと考えてもいた。ちょっとした行きずりに軽く悪事を働くなんて事は旅人ならしかねないのだ。
そしてメリンダは最後まで悪態をつき続けた。
アラーナは足元の薪に火がつけられる時も『自分は間違っていない』と思い続けた。
助けた子はまだ小さく1人では生きていけないだろう。そして地元民だった。アラーナの旦那は地元民ではなかった。数十年前にこの国が攻め滅ぼされて取り込まれた時に多くの男達が殺された。アラーナも小さいながらも優しかった父や叔父の事は覚えている。それに比べてこの国に攻めてきた男達、旦那やその友人は戦うしか能がなく女に遠慮がなかった。事ある毎に殴られそんな生活に耐えている時にマービンと出会った。あの子は着のみ着のまま逃げてきたようで、そこからまた地元民の家が略奪に会い殺されたのだと推測出来た。子供だけでも逃がそうとしてこの結果なんだろう。でもこのままじゃこの子は死ぬだろう。まだ大人と言えないし、ストリートチルドレンになんてなっても生きていけるのはほんの僅かだ。しかも地元民の子で、連中はこの子を容赦なく痛めつけるだろう。なら私に出来るのはほんの一時でも長くこの子が生きていけるようにする事だけだ。
そうしてアラーナはマービンを匿ったがそんなものはすぐに気付かれた。「村の掟を破った」、「魔女だ」と叫ぶ彼らに元々余所者のお前たちが何を言っているんだと思わなくもないがアラーナが何を言おうが彼らが動じる事なんてなく、アラーナは今、縄で柱に縛られている。
あの子は無事、逃げられただろうか。幾ばくかの食べ物と金銭を持たせたがそれだけが心残りだった。旦那との間に子もいないし、そもそも旦那は浮気ばかりで家庭など省みなかった。
アラーナという魔女はそうして火炙りになり死んでいった。
アデリンは思う。この子は使えると。
親とはぐれたらしく行く宛てがないと言っているから好都合だ。少なくともこの近隣の子じゃない。つまり、あいつらの仲間じゃない。それが重要だ。ちょっと人数が多いからって威張り散らして美味しい所を持っていく。ならこっちも負けてられない。数を増やして相手を叩きのめすのだ。この年頃の子は吸収も早い。ちょっと教えればすぐに役に立つだろう。じっくり教えるのはその後でいい。
そうしてアデリンはジェフリーを匿った。
ジェフリーは頭が良く村の他の子どもとは違った。機転が利き、物事を教えたらすぐに覚え、少し離れた今は誰も使っていない見張り小屋に隠れた。そして必要な物がある時やアデリンと話をする時だけアデリンの所へやって来た。また、アデリンのしたい事を良く理解していて、徐々に仲間を増やしてくれている。アデリンは村での付き合いがあるからあまり目立った行動は出来ないが、ジェフリーは別だ。村の誰も彼の事は勘定に入れていない。このまま気づかれない内に数が増えればあいつらにもうデカイ口を叩かせるつもりはない。後少し、後少しなのだ。
そうしてその日が訪れた。
ジェフリー率いる盗賊団が村を襲ったのだ。
ジェフリーは仲間を集め、アデリンが教えてくれた村の配置図を元に自警団を担う者達をまず個別に襲いそれから容赦なく村人を襲っていった。
誰かが家に火を放ち燃えている家もある中、アデリンは呆けていた。何が起こっているのかアデリンには全く分からなかった。こんなはずじゃなかった、こんなはずじゃあ、と繰り返し思っても目の前で嬲り殺される知り合いをただただ見ているしか出来なかった。
そんなアデリンを見つけたジェフリーは生き残りの村人を集めながらアデリンに向かってこう言った。
「やったぜ、アデリン。これで村は俺たちのものだな!」
その一言に村人の生き残りが一斉に蔑むような恨みの籠ったような目でアデリンを見た。そんな村人たちの視線が突き刺さり、それを否定するかの様にアデリンは必至に叫んだ。
「こうじゃない!こんなじゃない!なんで、なんで!」
それにジェフリーが答える。
「なんでって大きな口を叩かせないようにしたかったんだろ?一番スマートじゃないか。今日から俺とアンタがここのボスだ。誰も逆らえないぜ。ほら、アンタが嫌ってた女、あっちでヒイヒイ言ってるぜ。」
平然と言うジェフリーをアデリンは睨みつけながら罵る。
「バカ!だからってこんな、どうしたらいいのよ!こんな、なんて・・・ことを・・・。」
その一言にジェフリーは態度をガラリと変えてあえて低い声を出す。
「なんだよ、文句あんのか?やっちまったもんは仕方ないだろう?それにアンタは立派な共犯だ。今更綺麗事言うなよ。」
ジェフリーの急変した態度にアデリンは驚いて身構え後ずさりしたがそれでどうにかなるわけでもなく、どうしようもない現状にただ力が抜けて笑いがこみあげてきて盛大に笑った。
そんなアデリンを見てジェフリーはどうしようもない奴だと言った感じで肩を竦めながらお楽しみの続きをしに行った。
「というような事は起きるのじゃろうか?」
「なるほど。魔女裁判がなぜ行われたかですか。どのような場所でも起こりうる事なので争いの原因として知っておくべき事です。原因は簡単な話で食料不足です。先日は社会が成熟してリソースが飽和して役割不足を原因とした飢えについて言いましたが、今回の話では本格的に食料が足りない状況になっています。
役割不足から来る食料を獲得できない状況の原因は人が増えても役割が比例して増える事がないために起こります。効率を上げれば上げる程に1人当たりの作業可能量が増え役割を比例して増やす必要がなくなりますが、役割がなければ収入を得られず食料を得られない、という状況になります。そしてその状況を打開するためにはまず投資をして自己啓発や道具を購入するために資金が必要になり、収入が必要になる、という矛盾から抜け出さなければなりません。その為に相手から譲歩を要求され出せるものとして簡単なもので媚びや服従、そこから権利、生存権、場合により自身の所有権、つまり奴隷ですね、そこまで譲歩させられる可能性もある状況を強制的に受け入れさせられる事になります。
この状況には私達の在り方が間違っていると必ず陥ります。以前にも言いましたように、概念というものはその使い方次第で、私達の精神の在り方からどうしても長所と短所が生じます。対象とするものとそれ以外という分け方で世界から一部を抽出する際に私達が理解出来、そして時間と空間、リソースの限界という制約により制限を付けて抽出するために実際の世界における対象を表すために必要な情報が欠損する事になります。その欠け落ちた部分を考慮し損ねると現実との差が生じ、私達が思っている現実と実際の現実が乖離し始めます。その差に悪用する隙があると言えます。
リザルトAが発生した状況から見た世界、リザルトBが発生した状況から見た世界、リザルトCが発生した状況から見た世界、というように、世界が、環境が変化してもその変化を考慮せずに、私達は結果を同じ条件から発生したと錯覚して集約します。そのため、ある時にはリザルトAを基準にして行動を決定し、またある時にはリザルトBを基準にして行動し、またまたある時にはリザルトCを基準にして行動するというシステムを組み上げる事になります。それはその場その場で対応を変える、柔軟に対応すると言えば聞こえが良いですが使い方を悪用すればその場しのぎで自分達に都合の良い主張を繰り返しているだけになります。
足し算の世界はその足し算をする対象が形のあるものだから成立するのであり、概念では成立しません。成立しないというよりも制限があり、それはあたかも果物の個数を数える時は、りんご3個とみかん4個で合計7個という表し方は可能ですが、その用途について考えた場合にはその数え方で対処出来るかは別だという事と同じになります。どれも同じに使えればそれで問題ないでしょうが、リンゴのジャムなどりんごが必要な時にみかんは使えません。仕方なく"代用で"使う事は出来るでしょう。同時にみかんを使った料理ではりんごは"代用"にすらならないかも知れません。また、その質が問題になる時にさきほどのグロスの足し算は役に立ちません。求める状況に対処出来るかを考慮しなければその計算が正しいかを把握出来ないという事です。
好景気の時のリザルトA、不況の時のリザルトB、高度経済成長の時のリザルトC、を合わせて行動方針を決めた場合、ちぐはぐな行動になるでしょう。それぞれの世界の状況が違うからです。
同様に、環境の違う、地域や天候の影響で品質の変わった果物を一括して扱ってその総数を数えたからと言って、その個数があるから、それはジャムにも生食にもどのような用途にも使えるというわけではありません。使うだけなら使えるでしょうがその目的を達成する為の基準に届いているかが考慮されていないからです。
この状況で、それを扱う者の知性が低く識別能力が低いからと言って、それがどのような用途にも使う事が出来、品質がどれも同じになったでしょうか。私達はそういった視点でリザルトセットを見ている事に注意が必要です。知性が低ければ低い程、その結果の表面だけ、形だけを見てそこに自身の欲望を混ぜ込んで推測します。推測したものは当然実際に起こった結果とは違うものになり、偶然同じ場合もあるという奇跡にかけるしかなくなります。
こういった状況において、知性の低いものが同じ品質だと錯覚すれば当然の様に品質の違うものが混ぜ込まれ、しかし本人はそれに気づかず、しかし周囲にいるその人物より知性の高い者は違いに気づく可能性があり、そこに諍いを生じますが、知性が低い為にそれを言い掛かりだと思う結果にもつながりますし、見た目が同じなのだから問題ないと強引に押し切ろうとする事もあるでしょう。そしてまたその結果を見て強引に押し切れば混ぜ物をしても良いという結果が生まれ、その差を悪用して利益を得る悪しき行動が生まれ、習慣化します。
つまり、本来は好景気なら好景気、不況なら不況、高度経済成長なら高度経済成長で分けてリザルトセットを扱う必要があるものをグロスで扱い、自分達に都合の良い所を抽出してつなぎ合わせてその長所だけしか見ない事になり、その長所というものが実際の長所と自分達に都合の良い見方で生まれる長所の2種類を混ぜ込む結果になります。
例えば保身を良く行う者は保身を中心にリザルトを集めて知識を構成しますので自身から見た世界は保身を基準に重み付けされ構成されます。その行為行動は客観的な基準で分析した世界の中では本来ある行動とは違うものになるでしょう。その行動に特化しすぎれば、周囲から見たその行動はその場しのぎで責任回避や責任転嫁を繰り返すだけに見えるでしょう。しかし犯罪とは言えません。かつてそれを犯罪とみなさなかった事例を集めて行動しているからです。しかしそれが正しいとも言えません。本来あるべき行動があり、それは目的を達成するために行なわれるもので、保身のために行なわれるものではなく、保身を優先した結果として目的を達成するための基準に届かない、効率が低下する、という事態はその本人にとってのみ重要な事だからです。集団の利益を優先する行動に個人の利益を優先させている状況に間違いが生じています。
同じようにどのような行動もリザルトセットを見て、そこにあるかつて罰せられなかった結果を見て集める事が出来ます。それは目的を達成するためという基準で選ばない可能性があるという事です。同じ行動、同じ映像、同じ状況が出来れば、違う目的でも本来の目的を達成する為の行動をしていると錯覚させる事が出来るという事になります。
今まで言ってきましたように利息、規制緩和、第3セクター詐欺などの本来あるべきものと似て非なるもので錯覚させて利益を得るような行動が出来てしまうようになり、それを検証する能力を失わせれば、気づかれる事なく不当に利益を得る事が出来るようになります。勿論逆らえない状況に追い込み、気づいていても指摘出来ないようにする事も出来る事は既に言いました。そして、「お前にも旨味を分けてやる」という誘惑で気づいた者を懐柔する事で間違いを指摘させない方法もある事も言いました。また、知性が低いために間違いに気づかず操られて加担する者も居り、デファクトスタンダードと称して状況を作り出せば不正でも成立すると考え行動し、そのために間違ったリザルトセットで運用しても問題ないと考えるようになります。
そして利息、権力の集中による利権の発生、紙幣化が可能にした現実と一致しない受動的な貨幣の増刷という富や資源の偏在化を発生させる要因が常に社会において役割不足を招きます。
利息という方法で投資する資金のないものに金を貸し付けその者の行動から出る利益の一部を搾取し、権力の集中により利権を使い、先ほど言いましたように行動を混同させて行為を錯覚させ自らの欲望のままに利益を集め、その場しのぎの、現実のリソースと一致しない紙幣の増刷で、総量を増やして実質的に紙幣の価値を下げる事で資産を奪い、その奪った資産という形で生じている増刷された紙幣を自らとその周囲にのみ還元して利益を確保します。利権として税金を集めた予算は一部の者の私欲に消費されそれ以外には還元される事なく税金を払った分だけ一部が富み、周囲が貧困になります。紙幣の増刷で資産価値が低下した為に不利な立場に陥り、場合によりそれに気づけないまま深刻な状況に陥り、投資するために金銭を借り利息を払いその不利な立場に追いやった者達に利益を更に与え、更に富の偏在化を発生させます。
持つ者と持たざる者の差が広がり、持たざる者の中での金銭の総量が偏在化により減少し、それを獲得できなければ食料も得る事が出来ない状況を発生させます。このように経済の在り方そのものが強制的に椅子取りゲームのような生存競争を発生させるように組まれ、それが一部の集団が不正に利益を得る為に作られているという状況が存在します。
この状況では、強制的に生存競争をする結果になり、価値の下がった貨幣を、流通する総量が減った貨幣を奪い合う事になります。勝つためには良い言い方では画期的な方法、悪い言い方ではモラルやマナーを切り捨てた機械的に合理的な方法が要求され、1人当たりの作業可能量も増やす事になり、結果として社会の中で必要な役割を担う人員の必要数が減ります。あえて言うなら減らさざると得ない状況に陥ります。結果として役割不足の為に働けない者達が出てくることになり、収入がないから目の前に食料があっても食糧を得る事が出来ないという状況を発生させます。そして最初に言いました様にその状況を打開するためにはまず投資をして自己啓発や道具を購入するために資金が必要になり、収入が必要になる、という矛盾に陥ります。
話を戻しまして、今回の話では食料生産の効率に限界があるために人口が抑制されている状態であり、こういった状態では食料生産の効率を上げる事で人口は増加しますが結局は他の資源が比例して増えるわけでもなく、役割も比例的に増える事もなくリソースの限界で飽和し、そのシステムの作り方が悪ければまた食料不足、悪い場合は食料があっても食べる事が出来ない状態になります。権力の集中により権力者に媚びないと食料を得る事が出来ない生殺与奪の権利を与えてしまう状況も社会が成熟して権力が強大になればなるほどに確立されていきます。
魔女裁判はなぜ行われたか、そしてなぜ火炙りなのか。まず、魔女裁判と言う呼び方はそれを否定したい側がつけた名称です。それ自体は元々の慣習において正しい方法ですが、それを適用される側からすればいいがかりにしか見えない、というものです。ここまで言いました内容を全ての者が高度に理解している状況であれば、魔女裁判などと呼ばないでしょうが、それを知性の低い者に期待するのが間違いであり、他者に依存して状況を制御など出来ません。知性の低い者にとっては、自身の考えの及ばない所にある問題は気づけないのです。そして自身の言う考えというものが、他者からすればその場しのぎで短慮と呼ばれる浅い考えでしかない事にも気づけません。実際に自身で経験する事でしかそれは分からず、そして自身の精神とその在り方の問題であるために、何が間違っているかを正しく認識する事が非常に難しいのです。
ではなぜ魔女裁判と呼び、否定したいのか。それはかつてその方法を適用される側であるがその状況を受け入れられないから相手側を悪と断定して自身の罪を償わずに逃れたい側が居るからです。外部環境から押し付けられる状況を否定して正しい在り方を求めるのは人の在り方ですが、それが自分にとって都合の良い選択であるだけならそこに客観性はなく、単なる言い掛かりや曲解になりますのでこの違いに気をつける必要があります。
ある女が余所の子供が飢えているから食糧を分け与えた。それは善行に見えるでしょう。しかし、資源には限界があり食料供給も限界があります。1人増えればそれだけ負担が増え、自身が勝手に1人増やすなら他の誰かも勝手に1人増やす事を認めるしかなく、需要と供給バランスが崩れ、そして不足すると生死のリスクが高まります。増えれば増える程にリスクが高まり、やがて争いになります。つまり、軽はずみな行動により争いを誘発する結果となり、場合によっては争いを発生させるためにその状況を作り出そうとします。争いの発生は奪い合いとなり、権力者側は争う者達の生存権を使い譲歩を引き出す事が出来るようになります。だからこそ、魔女裁判と言う名称が必要になります。まるで本来のルールに従っている側が悪だと断定出来る様に、ラベル貼りをして、ある特定の集団に都合の良い状況を作り出すための一つの方法と言えます。
こうした軽はずみな行動を行うと場合により、勢力を増やすとみなされ互いに歯止めが効かず争い、増々それを悪用して利益を得る物が有利になります。そうして属する集団を加害する者に罰を与える事を果たして違法と言えるのか、という問題が魔女裁判の焦点です。
では火炙りはやり過ぎかと言えば、そこには罰の在り方が存在します。罰はその罰がなぜ与えられるのかを教えなくてはなりません。そして知性の低い者は深く考えず形だけを見て条件反射的に行動します。ルールを破ったから罰、ではなぜ罰せられるのかが分かりませんからその失敗による影響が消えた時に、場合によっては影響が残っていても忘れ、また同じ事を繰り返すかも知れません。そのため、形で示さないと教える事も出来ず、そして教え方というものはその形に見える状況が与える要素により意識下に抽象概念として植え付ける方法になります。知性が低く抽象概念を言葉で表したり言葉で書かれたものを理解する事が出来なくとも自身の身体を動かした経験と実際に体験した経験があれば大まかにでも分かるようにして、間違った行動を抑制しながら徐々に分かるように精度を高める事になります。
では火炙りがなぜ選択されたかと言えばここまで話しましたように、属する集団に対して危害を与える行動であり、それは集団を滅ぼす結果につながり集団を否定する事につながるからです。火は否定する事の象徴として使われます。現在達成できていない目標を達成して現在を否定するために、情熱を燃やす、などと表現される事などが良くあります。そして炙るという状況は最初は食料を分け与える者が1人からかも知れませんが次第に2,3人と増えていき、徐々に集団全体を破滅へと向かわせる行動である事からそれを本人と周囲に分からせる為に火炙りという形式を用いる結果になります。ではそれほどの重い罪かと言えばそう言えます。誰かがルールを破る事により雪崩的に、なし崩しに社会は崩壊する道を選択する事になります。今その1人を残酷と言われても正しい処刑を行わなければいずれ第2、第3の同じ人物が登場し、そして誰もその根拠について分からなければ、破滅する道を気づかない内に容易に選択するでしょう。知性の高い者が居たとしてその人物はいつまで生きられるでしょう。その人物が居なくなった後、その社会を長く維持させるにはこういった手法で形として分かりやすく残すしか方法がなくなります。
勿論、その知性の高い者が自身の保身を考えれば、知性の低い者に恨まれるリスクを考えて表面上は酷いと言われるものを取り決めずに去る事はあるでしょう。どちらを酷いと思う事が出来るかという選択肢を持てる事が知性の高低を決めると言っても構いません。勿論、問題を一つだけ区切って取り出してみても世界は一つであり、どこまでも繋がっており、問題もそれだけを区切って考えても全体を俯瞰した時とは違う解釈になるでしょう。つまり、火炙りを止めさせたければそれが酷いと悪しざまに批判するのではなく、火炙りをしないでも周囲の人物がその罪を理解するだけの知性を持つ様にシステムを組む事が必要とされます。もしくは火炙りをしなくとも同等の効果を持つように罰を与えるという方法を開発する方法もあるでしょう。そのどちらも行わずに表面だけ見て批判する者は、考えの足りない者であり、その行動そのものが社会を破滅へと駆り立てている可能性があります。」
エールトヘンが締めくくる。
「お嬢様は貴族です。新たな技術、新たな知識が解明された時にはそれを含めた環境の変化に適応するために刑罰を見直す事になるでしょう。その時にはそのシステムを維持出来る期間やそれを運用する者の能力のレベルによってシステムを組むようにする必要がある事を覚えておいてください。目の前にある世界をどれだけ深く追求して見る事が出来ているかが選択を変える事になります。世の中が常に変化するというならそれに合わせて正しい選択をする必要があり、上層に居る者程難しい舵取りを迫られます。さあ、その時に備えて今日も頑張りましょう。」




