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060 赤信号、皆で渡れば怖くない

今回は平々凡々な内容です。

バーデルント議員は目の前で繰り広げられる茶番に深くため息をついた。憤り、そんなものははるか昔に通り過ぎた。もう毎回憤りを抱いている事がいかに健康に良くないかに気づかされた。しかしそれでもやはり目の前で行われる茶番だけは受け入れられそうにない。

帝国議会は諸侯会議や元老院と同等の位置にあると法で定められ、民衆の意見を皇帝に陳情するために発足された議会だった。皇帝カフェイランドルスの勅命により発足された議会ははや数年で終焉を迎えようとしていた。皇帝亡き今、議会の後ろ盾はなくその効力も疑わしいものになっていた。皇后ネルナタリアは議会を擁護するも議決された内容には消極的で諸侯の顔色ばかり窺っているように思え、亡き皇帝のような後ろ盾には成り得なかった。

そのような議会だから誰も期待せず議員になる者も質が低下していた。いや、低下しすぎと言ってよいだろう。今回の議案は皇帝から皇后へと変わった事による混乱と思われる、各地方での過剰な税の徴収に対する取り締まりに関する法律作成だったのだが、早くも頓挫してしまった。

議会では議案を可決し皇后へ陳情するためには過半数の賛成が必要になる。過半数。そこに問題があった。議会としての効力を失った今、議案を通す事よりも議員である地位を用いて利益を得る事に終始する連中が増え、それがまた議会の効力を低下させる悪循環に陥りもはや形骸化し発足当時の輝かしい姿は見る影もない。

議員とは利権を得るものだと勘違いした連中が自分の考えに賛同するものを巻き込み招き入れ、また、そういう人物だからこそ議員に立候補し、立候補させられた。彼らにとってはそれがビジネスであり、最も効率の良い稼ぎ方をしているだけに過ぎないのだろう。

そしてもっとマズイ事実がある。議会は既に誘蛾灯として機能してしまっている。各地で行われる不正や領主の暴挙に苦しめられる者達にとって、議会とは最後の希望に見えてしまい、末端の民からすれば国の上層に訴えかける唯一に手段だと言える。各地で虐げられた彼らは一縷の望みを託して代表者を帝都へと送り込み、議員に訴えるのだ。そこを頼みにした議員に売られる。彼らは不正を暴く、いわば不正により利益を得る者にとってはネズミのように這いまわる忌まわしい存在であり、居てもらっては困るのだ。そこで丁度、議員というネズミ捕りが容易出来るのだから当然のように仕掛ける。議員に頼めば何とかしてくれる、というおいしいチーズに誘われて入ったが最後、秘密裡に処理される。彼らの大半は地方から出てくるために路銀もそれほど持たず、また帝都に知り合いもいない事から比較的治安の良くない物価の安い地域に宿を取る。つまりは1人消えてもそれほど騒がれず実に都合が良い。街の中にはあえてそういったカモを特定の宿屋に誘導するための工作員も居て、宿を尋ねられたら都合の良い場所を教え、尋ねられなくても周囲で宿の話などをしてそれとなく誘導する。

そんな彼らが殺されているのか奴隷として売られているのかバーデルントには分からず、また、調べる事も出来なかった。下手に嗅ぎ回ると彼もその中に含まれる可能性があるからだ。

勿論全員が全員ではない。帝都に知人が居て危険性を把握している者やまだ金銭的に余裕のある者などは路銀が尽きる前に諦めて帰郷する。だがその後どうなったかも不明だ。どのみち嘆願は受け入れられなかったのだ。良い事態にはなっていないだろう。


そして目の前の茶番だ。過半数。過半数を取れないなら可決されない。通ってはマズい法案は諸侯が賄賂を贈って懐柔するためにまず通る事はない。そしてその理由が酷い。


「というわけでございまして、カタール地方における治安は良好で、税収も以前と同じ税率を維持しております。この報告書をご覧頂けると分かりますが、不正に税を徴収された証拠はございません。このために10人もの監査官を雇い調査致しました」


つまりは諸侯が提示した報告書を、賄賂を貰った議員が同じように賄賂を貰った監査官を用いて報告書の正しさを保証しているのだ。何人雇おうが一緒で彼らは盲印を押すか現地で役人の接待を受けて帰ってくるだけのお気楽商売だと割り切っている。つまり実際の状況などどうでも良いのだ。そんな連中が法案など必要ない、証拠はそろっている、と主張し少なくとも過半数かそれに近い数を占めているのだ。まともな法案など通るものか。


結局は彼らは形しか見ていないのだ。議会とは帝国のあるべき姿を追求しその理想に近づけるための計画を実行するための話し合いをする場所だ。その中で全体の意思決定として優先されるものを可決するために過半数という基準が設けられている。しかし逆に言えばどのようなものでも過半数を獲得出来れば可決され、どのようなものでも過半数に足りなければ可決されない。つまりは実状に即しているかどうかとは無関係になるのだ。それが実状に即しているかどうかは議員の裁量になり、その議員が腐敗していれば実状との乖離は考慮されない。つまりはここは既に議会と呼べる場所ではなく、彼らにとっては自らの持つ票をいかに高く売りつけるか、いかにうまく渡り歩いて自らの地位を高く見せるかを追求する場所であり、決して自分達が集めた情報を基に計画を提案する場所ではないのだ。


そして彼らはこの後にあのとんでもない臨時法案を通すだろう。東部クーデターにおける混乱収拾を目的とした費用補填のための増税及び民兵の臨時徴兵という諸侯が喜びそうな案を。議会が民の総意なら民が望んで選んだ案だと既成事実を作るのだ。

こうなってしまえば誰も止める事は出来ない。戦争がなぜ必要か。それはその場しのぎにでも良いから需要を作り出す事が出来るからだ。武器を作れば、鎧を作ればそれだけ金は動き、食料も高値で売れる。商売という視点では潤っているかのように見える。しかしそれは大多数の弱者から搾取した金を使って一部の層に再分配しているに過ぎない。戦争に勝ったとしても得られた富を末端の弱者にまで分配する事などない。

だが民も受け入れざるを得ない。政治が混乱し経済にまで影響を与えている状況により不況になってしまえば口減らしが必要なのだ。そして軍需であろうと飢えない為に働くのだ。他者を気遣う余裕などなく。そして巧い事により多くの民兵を出した村などにはそれに比例した税の免除が行われるのだ。口減らしと減税。そして徴兵された若者は情報操作された成り上がりのストーリーに夢を見るのだ。夢を見なくとも勝って多くの手柄を立て褒賞金を貰い故郷に凱旋するのだと息巻くのだ。


バーデルントは立ち上がり採決を待たずに会議場を後にした。

採決をした所で結果は変わらず、バーデルント自身もそろそろ辞職するべきかと考えながらとある宿へと急ぐ。

しかし、とバーデルントは思考する。今日の議会にフェリクスもランデルもやって来なかった。あいつらももう議会には何の期待もしないで辞める事にでもしたのか?と考え、しかし何の連絡もないのも不自然だ、と結論付け、思案しながらも宿へ入り、支援者のいる部屋を目指す。

部屋の前に立ち、話し声が聞こえるから皆集まっているのだな、とバーデルントは考え扉をノックした。しばらくして中から扉が開けられ、支援者が集まっているのを確認し一礼しながら入室する。

バーデルントは皆の顔を一瞥し今日の議会の結果を話し始める。


「皆さん。今日の結果を期待して待って頂いたのだろうが非常に残念な結果に終わりました。」


その言葉を聞いた支援者達は皆、暗い表情になる。ほとんどの者が各地から伝手でバーデルントを頼って来た農民や職人だった。小さな寄り合いでなけなしの金を集めて帝都での活動資金を捻出し送り出した代表ともいえるのが彼らであり、その期待に応える事が出来なかったバーデルントも苦しい思いを嚙みしめる。

そんな彼らの顔を見ながらバーデルントは続ける。


「今日、私達が望んだ結果とは逆に結果になりました。最後まで見ていませんが恐らく増税と徴兵が行われるでしょう。もはや議会は機能していません。亡き皇帝の威光は最早届かず、早世された事が悔やまれます。皆さん、この結果を早く皆さんの故郷へとお伝えください。僅かに良い話があるとすれば通例通りに徴兵による減税があるでしょう。」


「そんな事言ってもうちは長男も次男も帰って来なかった。跡継ぎもいないのに一体どうすりゃいいんだよ。俺まで兵役に取られたら誰が母ちゃんと娘の面倒見るんだよ」


「ああ、そうだ。男手がこれ以上減ったらどうすんだよ。ただでさえ治安が悪いんだ。留守を狙って盗賊が出るに決まってる。帝都に住んでる奴らは気楽で良いよな。村で俺たちが・・・」


「皆さん、不用意な発言は慎んでください」


バーデルントは支援者たちの言葉を遮った。今の帝都では不用意な発言は避けた方が良い。ここでなら大丈夫だろうがもし誰かに聞かれたらどのように揚げ足を取られるか分かったものではない。

その後も支援者達が口々に今後の方針を語り合っているのをバーデルントが自分の無力さを感じながら眺めていると急に宿が騒がしくなった。一階から叫び声が聞こえ、怒号と共に無数の足音がバーデルントのいる二階へと昇ってきているのが分かる。そして足音は部屋の前で止まったかと思うと扉を鍵を発砲して打ち抜き扉を蹴破り兵士が突入してきた。


「帝国議会議員バーデルント!東部クーデターに呼応しテロ行為を計画した容疑で貴様を逮捕する!既に証拠は挙がっている!大人しくしろ!」


兵士はそう告げると狭い部屋になだれ込みバーデルントを捕らえようとし、何の事か分からないバーデルントはなるべく冷静になり暴れずに抗議する。ここで暴れたら相手に発砲する口実を与えてしまう。


「何の事だ。証拠があるなら示してもらおう。そもそもそんな計画など事実無根だ!」


それを聞いた兵士はバーデルントに向けてニヤリと笑った。


「フン。おい!」


「ヘイ。ヘヘヘ・・・」


そう言って支援者の一人が前に進み出てきた。彼は帝都在住の支援者で故郷が重税に苦しんでいるからどうにかして欲しいと訴えてきた人物だった。彼は語る。


「我々はここでバーデルント議員を筆頭に、現体制への不満を強く漏らしどうすれば『国を変えられるか』を議論していました。私も初めは同じように息巻いていたんですがじきに恐ろしくなって連絡したんです」


バーデルントは彼を見て思う。どうしてこの男はそんなに嬉しそうに話すのだ?悪びれる事無く、自身の行動を反省している風にも見えず、得意げに弁舌を兵士に向かって披露している姿にバーデルントは違和感を覚えた。しかし今はそれどころではない。


「そもそも東部クーデターと私は関係ない。どうして結びつけようとする」


バーデルントの抗議にまたも兵士やニヤリと笑い、こう言った。


「そこの奴!お前だ!ダダン!シニャル地方のお前の村はクーデターを起こした東部へと物資を横流しした。覚えはあるか!」


指差された支援者の一人でありダダンは驚きしどろもどろに答える。


「し、しかし、それは毎年東部の街へ収穫物を売りに行っているだけだ!クーデターを起こした連中と取引しているわけじゃない」


「物資を流している事を認めたな!後の事は取り調べでじっくり聞かせてもらう!連行しろ!」


「無茶苦茶だ!」


ダダンはそう叫ぶが捕らえられ連れて行かれ他の者も次々と連行されていく中、バーデルントはようやく嵌められたのだと気付いた。

そして気づく。フェリクスやランデルを今日見かけなかったのもきっと似たような事なのだと。

不正を訴える者、体制を批判する者、特定の集団が利益を得る事を邪魔する者がいなくなれば、誰も批判せず、不正を訴えず、不満を表面に表さず、それはさも平和で争い事のない世界に見えるだろう。奴らが望むのはそう言った"自分達が楽して利益を上げる事が出来る"世界であって、それは実際には"自分達だけが楽して利益を上げる事が出来る"世界であって、それにより他者がどれだけ苦しもうと全く気にしないのだとバーデルントは改めて痛感した。

クーデターだけではない、帝国全土を巻き込む内乱が起こる。そうバーデルントは予期した。民は不満を募らせ諸侯も軍も歯止めが効かない。宮廷は派閥争いに終始し、実情を把握しようとしない。それぞれがそれぞれの利益を優先して全体を見ようともしない。諸侯は諸侯の、民は民の、軍は軍の、兵士は兵士の、それぞれの利益を追い求め、それがどれだけ歪かを知ろうともしない。


しかしもうバーデルントにはどうする事も出来なかった。


会議というのは、そこに参加するメンバーが、自分達が可決すればどのようなものもまかり通る、と思い込むようになれば終わりです。実際はそれ以前から、現実の情報を客観的に収集して、実情に即した計画を提案して、その枠の中で、可決する事が許されるのであって、その"可決すれば議案が押し通せる"というリザルトセットを見て逆に行動してしまうともうどうにもなりません。根本的な原因は判断能力の不足している人物をメンバーに選んだ事がなります。また、生活などの弱みを握られている者を選んだ場合も考えられます。そのため、現実でも議員は生活に不自由ない報酬を貰う事で権力による脅迫を受けないようにはなっていますが、それ以前から既に弱みを握られている者だと効果はなく、また、そもそもが利権を得るのは当然の事だ、と歪んだ考えをしているとやはり効果はありません。また、だからこそ、実際には能力の足りない人物をメンバーへと押し上げて不正を行う余地を作り出すのが今の世の中です。


この批判はあまりしたくなかったのですが、一時期とある議員の号泣が酷いものだと取り上げられていましたが、あれが、能力が足りない者をあえて議員に押し上げて"形だけ整えて裏で悪い事する"連中が作り出した結果なのかも知れません。あくまで妄想です。


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