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033 ある日のサスペンス劇場 ~土より生まれし恐怖の悲鳴~

いつものように推理物ではありません。

読んだところで推理物のようなものでもありません。

ちょっとくどいです今回。


それは突然だった。

ローレンシアはエールトヘン達と共にマスター・ララの居室を訪れるという日課にした覚えのない日課とも言える行動をしていた時であった。


「キャァァァァ!」


その屋敷から聞こえた悲鳴は離れの別邸に向かっているローレンシア達にまで届いた。

屋敷で何かあったのか、とローレンシア達は思い急ぎ屋敷へと戻った。


ローレンシア達は悲鳴がしたと思われる辺りへ急いだ。それはローレンシアの部屋がある辺りで、もしやとローレンシアを含めた皆が冷や汗を浮かべている。

急いだ皆が部屋へと続く廊下を駆け抜けようとすると、そこに倒れたジーンの姿があった。


「ジーン!」


倒れたメイドに乳母車の中から心配そうにテレパシーを発するローレンシアとジーンに駆け寄り抱き起すキャメロン。エールトヘンもすかさず乳母車のストッパーを踏み、しっかり車輪を固定してからジーンへと駆け寄った。


ジーンは顔面蒼白であるが息をしている事を確かめ、エールトヘン達は安堵に胸を下す。様子をうかがっていたローレンシアも乳母車から降り、宙を漂いながらジーンの側へ近づき容態を尋ねた。


「『どうじゃ?無事か?』だそうです」


「ええ。著しく体力を消耗していますがどうやら無事です。しかし一体何が・・・」


ローレンシアの言葉をエールトヘンが仲介しそれに返事をしたキャメロンは周囲を見渡したが痕跡らしきものは何もなかった。

ジーンの安否を気遣いながらも皆、何が起こったのかまるで分らなかった。

さりとてこの場所で佇んでいるわけにもいかず、同じように悲鳴を聞いて怯えながら慎重に現れたシェリーとミーナにジーンを任せて一旦部屋へと戻った。


そこでローレンシア達は見た。

部屋が一部荒らされているのを。

荒らされていると言っても一部だけという奇妙さ。それも観葉植物が一つ倒されているだけ。

そのおかしな状況にキャメロンは眉を顰める。


そしてキャメロンは部屋を見渡してみる。やはり別段特に異常はなく、倒された植物の鉢以外には手掛かりになりそうなものもなかった。

しかし何かが起きたのだ。それならばまずやる事がある、と判断したキャメロンは周囲に警告を発した。


「皆、調べ終わるまで部屋の物を触らず動かさないように」


その声を聞いたエールトヘンは乳母車を前後に動かしながら頷き、乳母車に揺られているローレンシアもベッドの上の人形に目線を向けながらも大人しくしている。

ローレンシア達の同意を得たキャメロンは一つずつ、部屋内の物品に異常がないかを確かめていった。

そうしている内にジーンを寝室まで運び終えたシェリーとミーナが部屋に報告の為に訪れ、状況を確認しに来たアンジェラとマーカスもキャメロンが調べ終わるのを静かに待っていた。


キャメロンは粗方調べ終えた後、もう一度部屋を見渡しながら考える。



これは一体どういう状況なのだろうか。

荒らされているのは観葉植物一つだけ。

盗みに入ったように思えず、価値がありそうな物品に手を付けているようには思えない。そもそもが価値のある物品、一見盗むような価値のある物はこの部屋にあるとは思えない。場合によりマスター・ララが取り寄せた物に価値がある可能性も否定しきれないが。しかしわざわざ盗むのなら旦那様や奥様の所に忍び込むだろう。

なら、目的はなんだ?

怨恨?まだ幼い子供に対しての怨恨?あり得ない事もないがどうも違う気がする。あえてお嬢様が部屋から離れた時に起きるなら怨恨の線は小さいだろう。脅迫?それにしては観葉植物を倒す、という行為が脅迫になりえるか。その可能性も低い。確かにいつでも侵入できるぞ、という脅しに見えなくもない。だがそれならもっと効果がありそうなお嬢様の人形に対して行うはずだ。しかしあの人形には何の異常も見当たらない。そもそも誰かが侵入したとして、見つかって悲鳴を上げられている。その程度の実力の持ち主を使って脅迫を、目撃者の多い昼の時間帯に行うだろうか。よほどの自信があったのだろうか。

確かに誰かが侵入したとすれば侮れないかも知れない。屋敷の警護を突破し、私の張った結界にすらかからずに侵入しているのだ。そう考えると実力者が侵入した、しかしほんのわずかなミスからジーンに見つかりジーンを気絶させ逃走した。こう考える事も出来る。

しかしそうなるとジーンの倒れていた位置がなぜあそこなのか。ちょうどジーンの倒れていた場所はお嬢様の部屋の近く。お嬢様の部屋から出てきた侵入者が偶然ジーンと居合わせた、と考えたほうが良いのか。そしてジーンは悲鳴を上げるがそれ以上の事は何も出来ずに気絶させられた。しかし争った形跡がない。なぜジーンは抵抗しなかった?身内だからか?いやしかし、それなら悲鳴を上げた理由がなくなる。ならやはり侵入者は実力者でメイド程度は簡単に気絶させられるとするしかない。


ならばなぜ、侵入した?

私達が部屋を離れた際に侵入し、お嬢様の人形をお嬢様本人と錯覚し、部屋を荒らす事でいつでも殺せると脅迫してみせた、と考えるべきか?

あの精巧な人形は一目見た程度では人形だとは判別できない。だからこその結果なのか?



キャメロンは考えた結果、情報が足りないと結論を出した。

まずは手に入れられる情報を集めもう一度推論する必要がある、と考え改めて室内を眺める。

そうしてまずは状況を目撃していそうな存在に目を向ける。


ビルダー氏である。


キャメロンの視線を受けたビルダー氏は腰に手をあて肩幅に開いた足で堂々とした姿、いわゆるフロントラットスプレッドのポーズのまま、しきりに目線をある方向へと向けていた。

その視線の先には倒された観葉植物があった。

観葉植物と言っても一括りにそう呼んでいるだけで倒れているのは小粒の赤い果実をつけた植物だ。いくつもまとまった小さく赤い果実をつけた植物が鉢が倒れた際に土と一緒に床へと投げ出されている。鋸歯模様の縁を持つ葉をつけた植物で、樹ではなく草に分類されるようなものだ。小さな花がまとまって咲いた後に果実になった、という感じである。

葉も果実も別段毒々しい色もしておらず、何か外傷があるわけでもない。

キャメロンには倒れて土ごと外に放り出されたようにしか見えず、ビルダー氏が何を伝えたいのかまるで分からない。

倒れたままで放置するのも気が咎めるため、十分に観察したキャメロンは根元を持って土ごとそっと鉢へと戻し鉢も元に戻した。

鉢を戻したキャメロンがビルダー氏を見るとどこか安堵したような表情になっていたのを見て、キャメロンは単にビルダー氏が几帳面な性格で倒れた植物を放置できなかっただけだと考え、そのまま目線を彷徨わせた後、指差しこう言った。


「君に決めた!」


「はい!喜んで!」


「だめよ!ミーナ!堪えて!

キャメロン様もミーナの性格を考えてください!

ミーナも!いくらいい男に話しかけられたからって何でも同意しない!」


キャメロンが指差したのはミーナ。そしてミーナはキャメロンの一言に何の躊躇もなく答えていた。

彼女の中では何か別の意味を持つ言葉に変換されているのかも知れない。

しかしハプニングにおいて色々な場数を踏んだシェリーは状況に流されることなくミーナを窘めている。シェリーは知っているのだ。ミーナが普段憧れるシチュエーションというものを。

キャメロンに悪気がないのも知っている。だからシェリーはなおさら性質が悪いと思う。

仕方なくミーナの代わりにシェリーが答える。


「キャメロン様。ミーナが何かしましたでしょうか?

アリバイならちゃんとあります。私とミーナはここに来る前はシーツを洗っておりました。

ですのでミーナがこの部屋で何かをお嬢様方に隠れて行ったという事実はありません。それにミーナがジーンを気絶させて放置などするはずがありません!何かの間違いです!」


その言葉にキャメロンは少し呆然とした表情で首を傾げ、「ああ」と声を出してから話し出した。


「済まない。そういう事ではないんだ。誰から事情聴取をしようかと思ったのだが最初に目が合ったミーナからで良いかとそう思っただけなんだ」


「ならもう少し言葉を選んでください!まるでミーナが犯人だと言っているように聞こえました」


「ああ、そんなつもりはないんだ。根拠も無しにいきなり決めつけるような事はしない」


「先日あったような気がしないでもありませんが・・・、それはともかくミーナも私もしっかり働いていました。なんならアンジェラ様に聞いていただいても構いません」


腰に手を当て誇らしげに胸を張るシェリーのフロントラットスプレッドを見て、『俺も少々ビルダー氏に毒されたな。ポーズ名がまず頭に浮かぶなんて』と思いキャメロンは首を横に振る。その姿を見たシェリーが驚きの表情で問いかける。


「まさか疑っていらっしゃるのですか!?」


「いや、そうではない。ちょっと個人的な考えで首を振っただけだ。それに・・・」


そう言ってキャメロンは会話を促す。


「ええ、確かにシェリーとミーナにはシーツの洗濯を頼んでおります。まず間違いないでしょう」


アンジェラが答え、答えたアンジェラにキャメロンは話しかける。


「それを疑う気はない。私はお嬢様の身の周りの世話をする事の多い二人に何か異常がなかったかを聞きたかっただけだ」


アンジェラ、シェリー、ミーナの順に目をやり話を促すキャメロンにミーナが答える。


「私共は部屋から離れておりましたので何かあったとしてもわかりません。申し訳ありません」


「いや。それなら良い。念のため聞くがアンジェラとマーカスはどのようにしていた?」


「私は帳簿付けを。そう言った意味では一番アリバイが弱いかも知れません」


アンジェラはそう言い、その後を継ぐようにマーカスも答える。


「私は旦那様のワインセラーの管理を。なぜ今かと言われるとどうにも理由をつける事が出来ないのですが。そういった意味では私もアリバイが弱いと言えそうです」


そしてまたアンジェラが話を継ぐ。


「悲鳴が聞こえた後の話でしたら、私はすぐさま奥様の所へと向かい安否の確認を致しました。マーカス様は・・・、恐らくですが私が奥様の所で他のメイドに指示を出している所に守衛を連れて来られたので守衛を呼びに行っていたのだと思います。守衛に奥様の部屋を守らせてから私とマーカス様はこちらに足を向け、その後はキャメロン様の知る通りです」


アンジェラはそう答えながらマーカスを見、マーカスは同意として頷いて見せた。

キャメロンは更に質問を続ける。


「ここに来る途中に何か異常はなかっただろうか。普段とは違う何かを」


アンジェラとマーカスは思案気にした後にどちらも首を横に振った。

情報らしい情報が手に入らなかったキャメロンはもう一度考える。


するとミーナが恐る恐る声を出した。


「あ、あの。また先日のような事はないのでしょうか・・・」


その一言に一同は思い返す。そう、前回はヤマダがいたのだ。

その発言に思わずキャメロンはニヤリと笑みを浮かべ顎に手をあてながらこう言い放った。


「謎はデレた」


「どうやらお嬢様の案が採用されたようです」


「デレたのはミーナじゃったがの」


それまで傍観していたエールトヘンとローレンシアが思わず突っ込んだ。

二人からのツッコミは無視してキャメロンは誰かが侵入した痕跡がないということは内部犯行の線が強いと考える。


ならまず疑うべきは。


そう思い目を向けると『俺はやってない』と目を剥いて訴えるいつの間にか手を頭の後ろで組み、脚を交差させる、いわゆるアブドミナルアンドサイのポーズに変わっているビルダー氏が居た。

その割れた腹筋をアピールするポーズで、腹を割って話そう、だとか、腹を見せる、すなわち隠し事はしていない、と伝えたいのかも知れないがそもそも疑っていないのだ。


「ビルダー氏。あなたを疑っているのではありません。あなたは常にこの部屋にいます。なら目線で誰が、というよりどれが何をやらかしたか教えてもらえませんか」


キャメロンはビルダー氏にそう話しかけ、ビルダー氏はとある方向を見る。

その視線を追いかけるキャメロンは先ほど元に戻した植木鉢を見ることになった。


何の変哲もない、倒れていた所を起こしたので周囲に土が散らばっているし植木鉢の中の土もまだ固められずにアンバランスのままであるがただの植木鉢、ただの草本性の植物だ。

しかし、キャメロンのその推測は裏切られる事になった。


「あ、あの・・・」


そう。キャメロン達ではない誰かの声が聞こえてきたのだ。

それは丁度目の前、植木鉢からだった。

いや、厳密には植木鉢に生える植物の根元、土の中からだった。

キャメロン達が見守る中、その植物は茎を左右に揺らしながら、地面から這い出るように根を動かした。その根は太く先になるにつれ細くなっているが分岐している部分もあり、手足が生えているようだった。よく見れば根本付近にくびれがあり、それが頭があるかのようにも見え表面の凹凸で顔があるようにも見えた。いや、確かに目もあり口もあった。

そう、それはいわゆるマンドラゴラと呼ばれる魔物だった。


マンドラゴラは土から這い出た後に正座をしてキャメロンに頭を下げてきてこう言った。


「先程は助けていただきありがとうございました。何やらお取込み中でしたので声をかけづらかったのですが丁度こちらを見てくれましたので話すなら今だと思い話しかけさせて頂きました。」


真相はこうであった。


どうやらマンドラゴラ、もといオタネは東方に住んでいたそうだ。東方と言っても人里離れた山奥にひっそりと極少数の仲間とときおり交友を深めながら生活していたらしい。

そんな時、一人の人間の女と出会ったのだそうだ。その女性はオタネに『都会で暮らしてみないか』と持ち掛けてきた。都会とはどういったところなのだろう、と思ったオタネはその女と話し、色々と教わった。見た事も聞いた事もない数々の物を聞いているうちにオタネは都会というものに興味を持ち、その女についていく事にしたそうだ。

そして狭いながらもこの植木鉢の中にいれば栄養も水も与えてもらえるから辛抱して欲しい。しばらくすれば皆に紹介するから大人しくしていて欲しい、と言われたそうだ。

そうして時が過ぎオタネは大人しくしていたのだがやがて退屈してきて、そして都会とはどういった所か自分の目で確かめてみたくなり、大人しくしているようにと言われたが待ちきれずに皆が居ない時に動き出した。

そこに良くない要因があった。オタネは田舎者である。そして平穏な田舎でひっそりと慎ましく暮らしていたために、都会は彼女には刺激が強すぎた。

そう、ビルダー氏である。

土から飛び出し最初に見た風景は筋肉だった。しかも一部皮膚が剥がれ剥きだしの、である。

ビルダー氏もローレンシア達が居ないために気を抜いていたのかも知れない。周囲に気を配らずローレンア達が戻る前にポーズを変えようかと思案していたのだが、視界の端で動くものがありふと視線を移した。そこにいたのが丁度土から這い出したオタネであった。

目と目が合う二人。ビルダー氏は思わず挨拶代わりに腕を上げ肘を曲げて力こぶを作る、いわゆるフロントダブルバイセップスのポーズを取り、いい笑顔をしてみせた。更にはビクンビクンと大胸筋を動かしてアピールした。そのどれが悪かったのか今では良く分からない。

オタネはそのカルチャー?ショック、というより初めて見たブーメランパンツを履いた筋肉の塊の、圧迫するような笑顔を見て恐慌状態になった。悲鳴を上げ後ろへ逃げようとしたが植木鉢の縁に足を取られ鉢ごと倒れて気絶した。


どうやらそういう事らしい。

ちなみにオタネと話したのはテレパシーが使えるローレンシアとエールトヘンであり、まだ十分な訓練を積んでおらずうまくコミュニケーションの取れないローレンシアの代わりにエールトヘンが話して現在に至る。


事情説明の最後にエールトヘンが言葉を付け足す。


「どうやら私にも手落ちがあったようです。東方の希少種と言えど植物は植物。私の管轄であったのですが、さすがにこちらの言葉に耳を傾けずに動けない振りをしていろと言われているとは思いもしませんでした。見た目、西方でよく見られるマンドラゴラとは違うために、そして希少種のためにそこまで特別な状況になっているとは思えず配慮が足らず真に申し訳ない」


エールトヘンの気落ちした様子を見てキャメロンが励ます。


「いや。さすがに今回ばかりはエールトヘンを責められない。普通に考えてマンドラゴラが混ざっている事自体が異常であるし、普通の植物だと見えるように大人しくしていろ、などと言い含められているとは思わない。そこまで疑うとこの部屋の中にあるもの全てを疑う事になる。想像してみてください。例えばそこの剥製に『お前、何か隠していないか?』と問いただす状況の異常さを。そもそも問題はそこではないでしょう。この場合」


「時は誰の上にも平等に流れ全てを忘れさせる」


キャメロン言葉を聞いてその一言を発したのはローラだった。


「つまりは伝えるのを忘れておった、テヘペロと言いたいのじゃな?」


「概ねそう」


ローレンシアからの追及に悪びれる事なく答えるローラ。

ローラは続ける。


「元々、オタネがここに慣れるまで様子を見た後に紹介する予定だった。そんなこんなの間にあれやこれやでてんやわんやになって紹介が遅れた」


「ボカしすぎじゃ。ほら、もっとこう、ガーッとなってグワーッとしてポンみたいな事を話すのじゃ」


「片やあいまいすぎ、片や勢いだけですか。お嬢様もう少し的確に言わねばローラに逃げられます。ローラ、うやむやにしようとせず詳細を話しなさい」


ローレンシアの返答に流れがまずい方向に行きかねない事がわかりエールトヘンが話に割り込む。ローラはチャンスを逃した、という気持ちをおくびにも出さずに正直に答えた。


「お嬢様の教育や他の問題に比べればオタネの紹介は後に回しても良いものだと思い優先順位を下げてしまいました。いえ、もう少ししたら紹介しようと思っていたのです。ええ、たぶん思い出したと思うので」


「まあ、起こってしまった事じゃ。今更感はあるがの。よろしくオタネ」


「え、あ、こちらこそよろしくお願いします」


ここでようやくオタネとローレンシアは会釈して挨拶を交す。

そう、今この瞬間、ほんのわずかな確率の元に偶然出会った1人と1本。その出会いが今後の世界の運命を大きく揺り動かす事になる、なんてことはない。

二人の様子を微笑ましく見ていたローラは言った。


「一件落着ですね」


「なわけあるか。忘れておるじゃろ?ジーンの事を」


そう。ジーンである。ではなぜジーンが倒れたのか。

それはエールトヘンから説明があり、またキャメロン達も推測していたのでそれは追認の形となった。


「お嬢様。マンドラゴラの悲鳴には魔力が込められ、聞いた者はパニックに陥り、最悪は生命力を奪われ死に至ります。今回は至近距離でなかった事とキャメロンの張った結界で弱められた為に大事には至らなかった、という事になるのでしょう。そして今回も悪意がなかったためにキャメロンの結界では対象の特定までには至らなかった、という事になると思われます」


そしてエールトヘンはキャメロンを見、キャメロンは首肯で同意する。

ローレンシアは皆の顔を見て異論がない事を確認した後に話しだす。


「何はともあれジーンが倒れた事に変わりない。この事案の原因はいつものごとくマスター・ララじゃ。問い詰めねばならんの」


「そのようですね。物資搬入リストの死角を狙うとは中々に悪戯が過ぎます」


「どういう事じゃ?リストにはどうなったのじゃ?」


「名称『オタネニンジン』ですね。確かに間違いがない。間違いはないが情報が足りない。今回は被害が出ていますのでしっかり話し合いが必要そうですが」


「じゃの。ではいくか」


「はい」



後日、平穏を取り戻したアーデルハイド邸。

憧れた都会にも慣れ、東方の話をローレンシアと楽しく話すオタネの姿があった。

オタネの作り出す果実は薬草になり、屋敷の者は重宝する事になる。

そう、その場の誰も悪いわけではなかった。

オタネも被害者と言える。

悪意がなかったとは言えジーンを加害した事は事実ではあってもオタネもまた自身の居る状況を知らなかったのだ。情報が伝わっていさえすれば防げていたはずの出来事。その情報が伝わらないために起こった悲しい事件。そういった事だったのだ。

事件は終わった。そして今日もオタネは憧れた都会の話に目を輝かせながら過ごすのだろう。


どうしてもネタバレにしかならないような題名になります。

まあ、ミステリーの類ではないので良いのですが。


マンドラゴラの逸話についての補足。


マンドラゴラは地面に埋まっている。マンドラゴラは貴重な薬になるから掘り起こして金にしたい。しかしマンドラゴラは地面から抜かれる時に悲鳴を上げ、それを聞いたものは絶命する、という話があります。

そして、悲鳴を聞いて絶命する事になるなら、犬に咥えさせて地面から抜かせれば自身は死なずにマンドラゴラを手に入れ利益を得る事が出来る、という話に続きます。


これが何の比喩かと言えば。


マンドラゴラは基本的に女性という扱いです。地面に埋もれて、という事で土に接して生きる、という解釈から、地道に生活する、女を指します。

さて、その女を攫って娼婦なりなんなりにできればその女は金を生み出す道具になります。しかし、女を攫って利益にしようとすると犯罪ですからそれがバレたら自身の人生が終わります。つまり絶命する、訳です。ではどうするか。犬(犬同然の卑しい人物。容易く命令を聞き操られる人物)に攫わせればよい、という事になります。そうやって攫った女を奴隷として買うでも良いし手に入れる事で、罪は犬に、利益は自身に、という考えの話になります。要は犯罪励行の話になってしまうわけです。ただし、本来はそれを聞いて、そうならないように気をつけましょう、というのが正しい解釈です。そういった襲い掛かり方があるからばれないようにすれば楽して利益が得られるよ、という話ではありません。

では現代ではどうか。犬同然の貞操観念になるように育てられた男女。女は自身の貞操の価値を、あえて捻じ曲げられた教育の不完全さから知ることなく容易く失い、また、男は女のその価値と安全を考慮せずに悪意なく容易く侵害する。男は社会の慣習だから『自分は悪くない』と言い訳をして逃げ、女は失ったものを取り戻す事が出来ない。そうするとその女は他の人物より弱い立場になる。弱い立場になると受動的に行動する事を余儀なくされ操られるようになる。そして性風俗や水商売をするしか生活が出来ないように「社会を使って」仕向けられる。そして、既得権益を得る中の一部にいる、その社会に寄生し存在する詐欺師や犯罪者の養分、利益になるしかなくなる、という事です。

マンドラゴラの育成方法、分かりましたか?自身はそれを知ってどうしたいのか、がその本人の性質の気高さ、高潔さ、卑しさ、醜さ、となります。あなたは醜いですか、高潔ですか?

それは自身が自身で選択し、自身の遺伝子に蓄積するものです。どのような言い逃れも免罪符もありません。その事実が都合が悪いから、また別の錯覚を用いて誤誘導するのが現代です。とても『美しい』世界ですよね?そりゃ『美しい、美しい』とあえて口に出して何度も言わないと『美しさ』も分からない『素晴らしい』世界になります。当然ですね。

本当に美しいものだけであふれた世界なら、ほんの少し美しいだけのものにあえて美しいとは言いません。それが当たり前ですから。それでも『美しい』と言わなければ美しいと思えない世界。それはどれほどの美しさの世界なのでしょうか。


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