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028 ある日のサスペンス劇場 〜悪魔の像は黙して語らず〜

ある日の午後、アーデルハイド邸で事件が起きた。

なにかと騒がしいその屋敷でも珍しい事件であった。

場所はお嬢様の部屋。時は昼下がり。

たまたまお嬢様が外出してる時にそれは起こった。


最近ローレンシアはエールトヘンが小言を言わずに外出させてくれる場所としてマスター・ララの居室を訪れる事がある。

エールトヘンはローレンシアが出歩くのをまだ許可するつもりはないと思わせる言動があるのだが、マスター・ララ関連の問題を片付けに行く際にはローレンシアを同行させてくれる。

恐らくは問題事に気を取られローレンシアへの配慮が疎かになったのだろう。

しかしローレンシアには都合が良く、エールトヘンがマスター・ララの元へと連れて行ってくれるこの状況を喜び、このままなし崩しに外出許可を得られないかと密かに企んでいた。


その浅ましい気持ちに神は罰を与えたのだろうか。



マスター・ララの居室から部屋に戻るとローレンシアはすぐに異変に気付いた。

ちょうどローレンシアはマスター・ララの所へとエールトヘンと共に出向いた後で、部屋には誰もいないはずだった。キャメロンはもちろんローレンシアに同行していた。

しかしである。


人形が一体壊されている。それもお嬢様似の人形が。

1/1スケールお嬢様人形が壊された。

なぜ。

どうして。

これは誰かの恨みか殺害予告なのか。


室内には誰も居らず第一発見者は帰宅したお嬢様とエールトヘンであった。

その人形は無残な姿で発見された。

うつ伏せに倒れ、首が180度真後ろを向いた状態で見つかった。

あまりの事態に主要なメンバー(イアンを除く)が集められ、誰がこれをしたのか追及することになり、護衛隊長のキャメロンがリーダーに選ばれた。



キャメロンはまず部屋を見渡した。

トレント、スケイルウルフの剥製、ビルダー氏(人体模型)、馬の模型、ミュルミドンの模型、台座に乗った悪魔を型取った像、ドラゴンの像、クラーケンの形の玩具・・・。果たしてここは幼児の部屋なのか、と一瞬疑問が頭をよぎったが考えない事にした。

世の中には一個人では及びもつかない事がたくさんある。

途中ビルダー氏が『俺はやってない』というようなアピールを目力で行っていたがそれほど気にする事でもないので無視した。

せめてかわいらしい手縫いの人形があることだけでも良しとして、部屋にある置物や玩具を一瞥してからゆっくりと視線を一人の人物へと向けて指差してこう告げた。


「君に決めた!」


「セリフおかしくありません!?」


それに答えたのはシェリー。

そう、キャメロンはとりあえずシェリーを指差してみたのだった。

しかしさすがに何の根拠もなしに指を差されたシェリーは不満の声を上げたのだった。

そして不満に思った別の事もつい漏らす。


「そもそも、なぜ置物を眺めた後に私を見るんですか!キャメロン様の中では私は置物と同列ですか!」


その剣幕にキャメロンは少し申し訳なさそうにし、そこにローレンシアが宥めるかのように口を挟む。


「そうじゃ、キャメロン。間違ってはおらんか。そこはまず『ばっちゃんの歯が欠けて』とか『謎はデレた』とかじゃろ?」


「お嬢様はどこを指摘してるんですか!」


シェリーは思わず声を荒げてしまった。

そしてハッとして『だめだ、だめ。お嬢様の思う壺』と心の中で呟き平静を装った。

見るに見かねたエールトヘンがようやく仲裁に入る。


「まぁまぁシェリー。しかしお嬢様。そのセリフの意味がいまいち分かりませんが」


「だからなぜそこなんです!」


仲裁でもなかった。

シェリーは思わずまた声を荒げる。

中々話が前に進まないのを見かねてかマーカスが口を添える。


「皆様。シェリーは『なぜ私が犯人だと指を差されなければならないのか』と言うことに不満を述べているのです。キャメロン様、なぜシェリーを疑われるのです?」


マーカスの言葉にキャメロンは重々しく頷いてから答えた。


「シェリーには動機があるからだ」


その一言に皆は一斉にキャメロンを見る。

一拍程溜めを作ってからマーカスは話を促す。


「一体どのような?」


「うむ。シェリーは常日頃からお嬢様のうっぷん晴ら・・・、ゴホン。気まぐれに振り回されている。先日もそうだ。シェリー、あれは終わったのかね?」


その問いにシェリーは思わずウッと唸った。


「ほら。スタンプラリーと借り物ラリーだったか?あの手間のかかる遊びに振り回されたシェリーがストレス発散のために思わずあの人形を地面に叩きつけた」


マーカスはその少しは納得できそうな説明に頷き、話を聞いた皆はシェリーを見る。ローレンシアは『そうなのか?』というような感じでシェリーを見ており、皆の視線にたじろいだシェリーはそれだけで心証を悪くしてしまった。

しかしである。シェリーはそんな事をした覚えもないのでどうにか分かって貰おうとアリバイがあると訴えかける。


「しかし、しかしです!この人形が壊されたのは先ほどなのでしょう!?わ、わたしにはアリバイがあります。そう、わた、私はさっきまでダンと一緒にいました!ダンに聞いてもらっても構いません!」


そのシェリーの言葉が正しいのならシェリーではない事が証明される。もっともダンと口裏を合わせれば可能ではあるが、刹那的な衝動のようにも思えるこの事件にそこまで用意周到な計画があるとは思えない。


しかしである。シェリーにとっては事態は改善することもなくただ悪化するだけになった。

シェリーが皆の前で身の潔白を訴え、その瞳は欠片も嘘は言っていないとばかりに強い意志が見えたが無情にも勝利の女神は彼女に微笑まなかった。


「その話、詳しく聞かせて貰いましょう」


皆を見つめるシェリーの背後から彼女の肩を叩く者がいた。

アンジェラである。


「え?アンジェラ様?いつからそこに?」


「先ほどです。皆がシェリーに注目しているので静かに入室させて頂きました。さて、シェリー。すこしばかりお話があります。気持ちは分かりますがサボるのは感心しません。ダンには後で話を聞くとしてまずはあなたです」


そう言ってアンジェラはシェリーの手を有無を言わせずに引いて部屋を出ていきます。

手を引かれるシェリーは何か言葉にならない事を口にする。


「え!?ちょっ?そん・・・え、えぇー!?」




シ


ェ


リ


|


現


行


犯


逮


捕



連行されるシェリーを皆は遠い目で眺める。

しばらく誰も言葉を口にしなかった。

足音が遠ざかり静寂が周囲を包み込んだ後、キャメロンは誰に言うでもなく独白する。


「あれは悲しい事件だった」


その一言に皆は同意して頷いている。

マーカスは若干『まるで自分は無関係のように言うのはちょっとないんじゃないか』と思うが口にはしなかった。なぜならあれはそう、本当にちょっとした出来心から生まれた悲しい事件だったからだ。

誰が悪いでもない。ほんの少し歯車が狂っただけ。普段であれば単なる日常の一コマだったのだ。


決してサボリを肯定するわけではない。



そして皆、何事もなかったかの如く解散する流れになったのでさすがにマーカスは口を出す。


「み、皆様。人形の件をお忘れではないでしょうか。このままではシェリーも泣くに泣けません」


その一言で皆、思い出したかのようにもう一度集まる。

ローレンシアに至っては何事もなかったかのように人形を拾い上げて自分のベッドに乗せている。

何やらひと段落ついた感じの後のけだるさを感じさせながらもう一度話し合いを始める。


皆で動機がありそうな人物を考えたがどうにも他に動機がありそうな人物が思いつかずに捜査が難航しそうな時、キャメロンは少し前から気にかかっていた事をここで聞いてしまおうと思い口にした。


「エールトヘン。そういえば物資搬入リストに『ヤマダ』なる物品があったんだがこれは一体何の事だ?」


「ああ、それはだな。この像の事だ」


エールトヘンはそう言いながら台座の上で「考える人」の像のようにポーズを取る悪魔の像を叩く。


「痛っ」


ピシャリと大きな音に合わせて聞こえてはいけない声が聞こえたような気がした。

一瞬、皆の時が止まる。

エールトヘンは表情を変えないままにもう一度悪魔の像を叩いてみた。


「・・・」


反応がない。

しかし、その程度で誤魔化されるローレンシア達ではない。

エールトヘンが視線で促し、キャメロンが頷く。

そしてキャメロンが腰に佩いた長剣を抜いた時、その声は聞こえた。


「ちょ!?ちょっと待って?あ、謝るから!ちゃんと謝るから」


今にも斬ってかかりそうなキャメロンに向けて両手を突き出して制止しようとする悪魔の像、いや、ヤマダ。

その姿を見てエールトヘンは問いかける。


「えーと。ヤマダ。何か知っていますね?正直に話しなさい」


「ハイ・・・」


すると、ヤマダは台座から降り、膝をついて哭き始めた。


「俺、実はガーゴイルなんです」


思わずローレンシアがその言葉に反応し、ローラが答える。


「本物混じってるんじゃが!?」


「お嬢様が『リアリティが必要だ』とおっしゃられたので本物を用意しました」


「入れたのならちゃんと言って!」


その言葉にエールトヘンは深く溜息をついてこう話す。


「私はてっきりこのオブジェの名前が『ヤマダ』なのだと思っていました。私はこういった前衛的な芸術は造詣が深くありませんので。そういえばビルダー氏のポージングを見慣れた所為かいつの間にかヤマダのポーズも変わっている事に違和感を感じませんでしたね。それが普通なんだと思ってしまいました」


それを聞いてヤマダはボソッと呟く。


「俺だって悩んだんだ。どうやって切り出そうかと」


俯き少しずつ言葉を吐き出すヤマダを見ながらローレンシアはキャメロンに聞いた。


「のぅ。キャメロンはヤマダの事は気づいていなかったんじゃろ?」


その言葉にキャメロンは少し眉をしかめてからこう言った。


「ヤマダからは悪意も敵意も感じませんからね。もし欠片でもあったら即刻壊していますよ」


「そんなものか」


「そんなものです。この部屋の結界は悪意や敵意などに反応するようになっています。仮にヤマダが故意に行ったのではないのなら反応しません。お嬢様本人になら別の防御結界が発動していましたが。しかしあれですね。先程ビルダー氏の視線が私をまっすぐ見ていなかったのはヤマダを凝視していたのですね、シェリーではなく。なるほど」


「シェリーもとんだ災難じゃの。しかしガーゴイルの癖に打たれ弱いの」


ローレンシアのその言葉にヤマダは思わず反応する。


「いや、そういう事じゃなく。考え事をしている所にいきなり叩かれたから思わず反射的に言ってしまっただけです。ほら、俺の肌って結構硬いから結構そういうのは平気なんです。でも、分かってください。わざとじゃないんです」


そう話してから俯くヤマダ。

そこでキャメロンは下を向いているヤマダに向かって話を聞こうとする。


「ヤマダ。あなたはなぜこのような事を?

え?あの1/1スケールのお嬢様人形に嫉妬した?

せっかくFA契約で来たのにチヤホヤされるのがアイツばかりだから?」


そうしてヤマダはポツポツと話し始めた。

最初は単なる嫉妬からの行動だった。

ローレンシア達がマスター・ララの居室に向かって出かけた後、ヤマダはチラリとお嬢様人形を見た。

ほんのちょっとした出来心だった。

ここ最近チヤホヤされてお嬢様のベッドにまで入る事を許されたアイツに対してヤマダは言葉では表しにくい感情を抱えていた。

だから思わず台座から降りてお嬢様人形を触ってみたのだ。

こいつにあって自分にはないものが何なのかを突き止めるために。

持ち上げ、掲げ、裏返し、振ってみる。

お嬢様に瓜二つな以外は何の変哲もない人形、そう思えた。

しばらくそうしてからヤマダはハッと気づいた。


「ローレンシアお嬢様に似ている人形に俺はなんてことを・・・」


するとである。

うつ伏せの状態で抱えられた人形の首が180度回り真後ろを向き、ヤマダの顔をガン見しながら『クケケッ』と笑ったのである。

それにはヤマダも驚き思わず人形を手放してしまい地面に落とした。

焦ったヤマダは得体の知れない人形を拾おうか悩んだのがタイミング悪く外から部屋に向かって歩いてくるエールトヘンの誰に向かって話しているか分からない独り言が聞こえてきて更に焦り、勝手にうろついていることがバレる前に台座に戻ったがどうしようか悩んでいたために以前とは違うポーズになった。


それが事の顛末のようだ。


「あれですな。あの人形をどうしたものかと皆で囲んで頻繁に話していた時のことでしょう」


エールトヘンがそう語り、いまだ俯くヤマダを皆は見つめていたがやがてキャメロンはこう言った。


「君に決めた!」


「あえて変えないようじゃの」


「ある意味男らしい」


その初志貫徹な男気にローレンシアもエールトヘンもたいしたものだと感心した。

そんな3人を余所にヤマダに近寄る人物が居た。


「バカァ!」


そう言いながらいきなりローラはヤマダの頬を平手打ちにした。


「え?」


平手打ちされたヤマダもなぜ平手打ちされたのか分からないままに困惑している。

涙目になったローラはそんなヤマダに構わず話し出した。


「バカ!そんなだから駄目なのよ。いい?

一流になるにはね。相応の努力が必要なの!

それをがんばらない内から嫉妬するなんて!」


皆、無言だった。


「次からは・・・、戻って来たら次こそはがんばるのよ?」


「ハイ・・・」


そう声をかけられたヤマダは良く分からずに返事をしキャメロンに縄をかけられ連行されていく。

ヤマダは涙が流せるなら泣いていそうな表情で俯き部屋を後にした。



キャメロン達の足音が遠ざかり聞こえなくなった後にローレンシアはエールトヘンに話しかける。


「さて。そろそろ元凶の処にお話ししにいくべきじゃな?のぅ、エールトヘン?」


「ですね。では行きましょうか」


「での?ローラ。知っていたはずだから同罪じゃからの?」


話を振られたローラはとぼけた表情で答える。


「何の事でしょう。私にはさっぱり」


「まあ良い。まずはあの悪戯好きをなんとかせねば」


皆が部屋を退出した後、静かになった部屋のベッドにはうつ伏せのままいまだ首が180度回転したままの人形が残される。

当然部屋の掃除に来たメイドはそれを見て悲鳴を上げて一騒動あったのだがそれは些細な出来事だった。



後日、平穏を取り戻したアーデルハイド邸。

煌びやかな太陽の日差しを受けて門の彫像として佇むヤマダの姿がそこにあった。

いずれまた彼はその刑罰を終えお嬢様の部屋でその姿を見せる事になるだろう。


題名でネタバレするからどうしようか悩みました。

最後の方は気が抜けてあいまいになったので書き直すかもしれませんが結末は一緒です。


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