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026 お嬢様、エーテルを知る

説明回です。すいません。

ファンタジー小説読む方ならここ読まなくてもこの先の話は分かるとは思います。

魔法に関する設定の一部を述べているだけですので。


雨が降ろうが嵐になろうが、ローレンシアには関係なく、室内という環境は居心地が良いと同時に逃げる口実にはならなかった。

そんな日々の訓練の合間のお茶の時間。

ローレンシアはいつものように思いついた疑問をエールトヘンに尋ねる。

まだこの世界の事があまりわかっていないローレンシアは疑問に思った事を何の脈絡もないままに次から次へと出す時もあるがエールトヘンはそれでもにこやかに答える、そんな日常が繰り広げられていた。


「のぅ、エールトヘン。先日マスター・ララが二つ同時に言葉を発していたように思えるのじゃが」


「ああ、あれですか。あれはあまり見られない才能ですね」


「器用に声帯を使って2つ声を出していた?」


「あれほど明確に細かい音を出すなどそこまで器用な人間はいないでしょう。あれはアストラル体に別の言葉を発せさせているのですよ。あの時、魔力を持たない者は魔法詠唱の声を聞くことはできていないはずですよ。お嬢様が2つとも聞こえていたという事は魔法の才能があるという事です。喜ばしい限りです」


エールトヘンの言葉を聞きながら哺乳瓶を傾けるローレンシア。

テレパシーで話すローレンシアは喉を潤す必要もないのだが付きあいというやつである。

エールトヘン達だけお茶を飲んでいるのが気に入らないというわけではない。断じて。

しかし、である。

疑問を述べれば更に疑問が増える今日のこの頃。子供が世界を知るには努力がいるらしい。


「アストラル体?」


「ええ。そうですね。お嬢様はあまり自身を見ていないかと思いますが守護霊の状態がそうです。あれはお嬢様のアストラル体がこの世界に具現化している状態ですね。本来はアストラル界に存在し、お嬢様の体と重なっているものです。同時にそれはそれぞれの界への扉ですね。この物質界におけるお嬢様がアストラル界にアクセスするための入り口、つまりお嬢様にとってのアストラル界はお嬢様のアストラル体を中心に存在するわけです。また、アストラル体としてのお嬢様にとっての物質界はそのお嬢様の肉体を中心に存在するのです。物質界のお嬢様がアストラル界に干渉する時には、お嬢様のアストラル体を動かす必要があり、それを物質界での行動と同じように行う事が出来るものが魔法の才能があると判断されます。

そう。あの守護霊の状態はアストラル体を行使することにより、エーテルに揺らぎを与えてしまうためにその揺らぎにより可視、つまりは見る事が出来ている状態だと言えるわけです」


「今度はエーテルか」


「エーテル。別名、空間子です。四大属性を含め、全属性を取り除いても残るもの。それがエーテルです。光でも闇でもないもの。空間を形作るものです。エーテルというキャンバスに属性という絵具で色を付けて物を描く、というのが簡単な世界の表現です。アストラル界の力の具現により、そのキャンバスに歪みが生じ、その歪みにより形が生じているように見えるのが、守護霊の姿と言えます。つまりはエンボスですね」


「わかったようなわからないような・・・」


「お嬢様ならすぐに理解できますよ。魔力を持ち、守護霊という姿を得ることが出来る。それはつまり他の者より多く実感、実体験を得ることが出来るということです。まださすがにアストラル視はできないとは思いますがそれも訓練次第です。今はそれよりもテレパシーやサイコキネシスの制御ですね」


お茶で唇を湿らしながらエールトヘンは締めくくる。


「なるほど。で、2つ同時に言葉を出していたのはなぜ?」


「それはララ・シュプレンティーンという存在が異質なほどに優秀だからです。先程アストラル視と言いましたが、お嬢様はアストラル界を今お見になることが出来ますか?」


「できない」


「でしょうとも。人間とは五感を頼りに状況を把握することしかできません。それが人間の限界です。ですが極稀に特殊能力を持つものがいます。それがあの方です。普通の人間はアストラル界を見る事はできません。ですのでアストラル界に干渉などできません。また、魔力を持っていてもその才能の程度により、やはりアストラル界にほとんど干渉できません。それでは効率が悪いために発明されたのが魔法、魔術です。魔法とはアストラル界に干渉するための法則ですね。結果を求めるために手段を定義しますがその枠組みとなる法です。魔術とはその魔法を用いて結果を得るための手段としての術式です。ですので火起こしの魔法でもその魔術には幾通りの方法が存在します。そして、魔術とは、アストラル界が見えず、理解できないものでも効率よく干渉するための手段、手法となります。一定の手順さえ踏めば誰でも一定の効果を期待できる方法です」


「なるほど。ではわしもその魔術を覚える事に?」


「YesでありNoですね。そこに欠点も存在します。手段を学ぶことで一定の結果を得ることで満足できてしまい、本来必要なアストラル界の理解をしない結果に陥る者が少なくありません。なぜなら理解せずとも欲しい結果を得ることが出来るからです。そのため、実際にアストラル界への干渉により周囲に悪影響を与えてしまっている事に気づくことが出来ない場合が多いのです。お嬢様にはそうなってほしくはありません。結局その結果として争いを生み出します。その行いがもし争いをなくすという目的のために行われた手段であるなら本末転倒です。目の前の争いをなくしているだけで、実際は争いを生み出し悪化させているのですから。自分の目の前から見えないようになってしまえば良い、では何も解決しません。世界とはそういったものです。問題のレベルを正しく把握し、そのレベルで解決する必要があります。」


「身に覚えがあり過ぎて耳に痛い・・・」


「そういえば前世の記憶があるとおっしゃられてましたね。ならわかるはずです。良かれと思ってしたはずの事でも相手に悪い結果を生み出すということを。個人の主観から見た善悪は必ずしもその問題のレベルの善悪ではないのです。その問題を俯瞰できるだけの判断能力を有する時、善悪の判断が出来るということです」


「実際にどうすれば良いのじゃ。そんな事を言ってると何もできないじゃろ」


「ええ、そうですね。でも最初から諦めるのも間違いです。何度も繰り返して覚えていく、精度を上げていく。そうやって成長していくのです。この話は今日はここまでにしておきましょう」


「そうじゃな。休憩が休憩じゃなくなりそう」


「さて。話が逸れましたが、マスター・ララの言葉でしたね。まず、魔法使いの内、通常の魔術師はアストラル界をほとんど見ることが出来ません。そのため、実際にどのように干渉しているかを知ることは少ないです。その結果として生じた現象によって成功したか失敗したかを知るに過ぎません。だから自身が行う手段がどのようにアストラル界に干渉して結果を生じるのかを知ることが出来ません。そのため、その教えられた手段しかできず、また、知る事が出来ない世界を5感のみで手探りで模索することになり応用する事が難しくなります。結果として、呪文詠唱を物質界の口を使って行うしか出来ず、その感覚でアストラル界における自身の口を動かすというのが限界です。つまり、フィルターを一段、もしくは中継点を経由して魔法を唱える感覚になります。ですがあのマスター・ララはアストラル界の自身の感覚を把握しています。おそらくはアストラル界を見る事も出来るでしょう。ですから、物質界の口とアストラル界の口を同時に使って2重に話す事が出来る、という事です。そこまで器用な者はほとんどいません。それゆえに'大魔導'と呼ばれています。アストラル界に程度の差はあれど多かれ少なかれ一定以上の干渉が出来る者を魔導師と呼びます。彼らが魔術を発展させ、形を整え手段として魔術師に広めるからです」


今日はここまでにしておくと言いながらもエールトヘンは無意識に話をつなげ、ローレンシアもウンウンと唸りながらも覚えていく。同席し黙してお茶を飲むキャメロンは二人が何か話しているのだろうとは思っているが聞こえないために無関心を続けている。


そんな3人を横目に壁を修理していたローラがローレンシアに話しかける。


「お嬢様。この壊れた置物と衣装掛けはどうされます?修理するのでしょうか?」


その問いかけにローレンシア達はローラの方を見、破片が飛び散った置物と穴が空いた衣装掛けを眺めてからローレンシアが答える。


「ああ、折角マスター・ララに来てもらったのだから新しく作って欲しいのじゃ。やっぱり『リアリティは必要』じゃろ?」


「かしこまりました。では早速伝えに行ってまいります。ご期待ください」


「ローラがそれを言うのか・・・。まあ『研究の邪魔をするな』と言われているからのぅ」


ローレンシアの言葉を聞きながら扉に向かって歩き出したローラにエールトヘンが話しかける。


「マスター・ララに必要な資材、または購入する物品のリストを提出して欲しいとも伝えて貰いたい」


「わかりました。いつ頃までに必要でしょうか」


「いやなに、急がないので準備が出来次第で構わない。ただしリストは必ず提出して欲しいと伝えて貰いたい」


「重々承知しました」


ローラは姿勢を正しながらエールトヘンに軽く会釈してから部屋を出ていった。

その後ろ姿を見ながらエールトヘンは思う。


(ああ、あの感性で何を作るか心配だが悩んでも仕方がない。そういったものに関してあの方より優れた人物はそうはいない。任せて大丈夫だろう)



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