178 プレゼントを渡すのも難しい?よろしい、ならばリベンジだ(前編)
前回、話の内容を下げて今回上げるという差の作り方で良く見せようと企んでいるダメな筆者ですw。
孤児院への慰労訪問を終えて戻ったローレンシアだが課題はたくさんあるなと反省した。そもそも子供がどんなものを欲しがり、どんなものに興味を示すのかリサーチしていなかったのだ。そもそもがお菓子を準備したローレンシアに対して父は寄付という形で足りないものを用意していた。お菓子はローレンシアがあげたいもの。では孤児院側で貰いたいものはなにか、という発想がなかったのだ。お菓子は一度食べればお腹は膨れるがそれで終わり。では子供達に何が必要かと言われれば衣食住の充足と教育だ。衣服であるなら冬を越すのが楽になる。孤児院の設備が修繕されたりすればそれだけ過ごしやすくなる。子供達に教育が行き届く環境を作れば子供達の将来が良くなるかも知れない。プレゼントとは貰う側の事を考えてせねばと思い知らされた。確かにお菓子でも喜ぶだろうが、それはもしかすると社交辞令かも知れないし、確かに嬉しいが本当に今求めているものではないのかも知れない。そういったニーズをしっかりリサーチする事で成功へと結びつけるのだ、とビジネスマン的な思考で反省するローレンシアだ。
それに準備が大切なのが分かったのは良い事だともローレンシアは思う。子供と言っても千差万別、何が好きかは変わるものだ。男の子も居れば女の子も居る。騎士物語を好きな子も居ればおままごとを好きな子も居る。全部は用意できなくても大まかな部分は押さえておくべきで、ローレンシアがこれで子供が喜ぶだろうと安直に考えたのが間違いだった。全部まとめて子供として扱おうとすれば当然子供の側もそんな対応を見抜くものだ。粗雑に扱われて好印象を受けるはずもない。次回までに、対策を練って準備せねばと強く決意する。
一方で当面のプレゼント作戦は終了したのでビルダー氏とウルフも元に戻って良いのだがビルダー氏はともかくウルフは角切りをして済ませられた。マスター・ララがゴネたのだ。角は根元で切り取られてなんとか狼と言った印象だが茶色いままだ。色を戻せと言ったらペンキを渡してくるという有り様で、押し問答の挙句、渋々と元に戻すことを了承はさせたが、今は忙しいと逃げられた。ビルダー氏は着ぐるみを脱ぐだけなので良かったのだがそれをローレンシアのクローゼットに入れようとしたのはいただけない。注意したがそもそも直す所がない事に気づき秘密基地に用意する事になった。変なものばかり直しこまないか不安だがローレンシアのクローゼットに直されるよりかはマシだ。あれを着ていると思われたらどんな目で見られるか分かったものではない。
そういやローレンシアが当日エールトヘンは付いてこなかったなと思って聞いてみればマーガレットと2人で周辺で見張っていたらしい。キャメロンが中に居るならエールトヘンが外、キャメロンが外ならエールトヘンが中、という分担はなるほどと思うがいささか厳重過ぎないかとも思うのだが、そこが前世との価値観の違いなのかなと考えてしまう。なので無難に従っておくかとそこは突っ込まない様にしているのだがやはりモヤッとするものだ。
「お嬢様。孤児院はどうでしたか?」
そう聞いてきたのはエールトヘンだ。
「うむ。やはりエールトヘンの言ったように準備がなければうまく行かん事が分かった。それでじゃの。来年と言わずにリベンジしたいのじゃが?」
「訪問なされるのは構いませんがそう何度も期間を空けずに訪問するのは些か相手側の都合もありますのでご遠慮ください。親しき仲に礼儀ありとも言います様に、失礼のない様にしようとすればどれだけ仲が良くとも気を配るものです。そういった気疲れを頻繁に与える様では良い印象を持たれないでしょう。それにお嬢様が孤児院を経営するならともかく、慰労訪問の頻度を上げてしまうとそれに付随する寄付金などをあてにしだして良い結果につながりません。例えば政府管轄の資金注入などが頻繁に行われるとそれを当てにして皆が動き出し、誰も自分達が陥っている現状を変えようとしないのです。これを酷い言い方をすれば『物乞いは恵んで貰えて生活に困らないなら物乞う事しかしなくなる』とも表現します。あくまでサポートはサポートであり、それを錯覚させてはいけません。あえてお嬢様が孤児達を物乞いがふさわしい性質へと変えていきたいのであればそれでもかまいませんが。」
「そんなわけはあるまい。それで次はいつ位なら良いのじゃ?」
「そうですね。それにはまずお嬢様が今回の経験を活かして次回にどうするかを話してもらわないと判断がつきません。」
「勿論今回で思った事は活かすつもりじゃ。そうじゃの。今度は人形劇やおままごとの道具とかも持っていこうと思うのじゃがどうじゃ?」
「ええ。子供達が飽きないものを用意するのは良い事ですね。準備はどうされますか?」
「勿論自分でする。それと子供達には何が必要じゃろうか?」
そこでエールトヘンはニコッと笑い答える。
「そうですね。裕福でない者というのは嗜好品よりも生活必需品の方が重要になってきますのでそれを基準に選べばよいかと。クッキーよりもパン、玩具よりも生活に使える道具、しかし心が荒んでしまわない様に適度に玩具などの娯楽も混ぜるのが良いかと思います。子供の遊びというのは将来に役立つ様に出来ればより良いものになりますので子供達の将来にかかわる何かが喜ばれると思います。子供が具体的に何か目標を決めていないのであれば妥当な将来に合わせたものになるでしょう。」
エールトヘンはそう言うものの、具体的なあーしろこーしろは言わない。大体の要点は言えども詳細はローレンシアに考えさせる気の様で、ならどうしたものかとローレンシアは思うのだが。
「さぁ、先ほどの続きです。」
とエールトヘンに言われ、教育と訓練に戻るので重点的に考えられない日々を過ごす事になる。
そうして日々は過ぎ、とうとういつの間にか1年を迎えようとしていた。さすがに1年ともなればローレンシアの体も丈夫になってくる。王国では1年の始まりが降臨祭の日なので丁度その日にローレンシアも1歳を迎える事になる。感覚的には前世で1月1日が誕生日な感じだ。そして祝日に誕生日が重なるとお祝い事が1つ減るという残念な感覚を受けもするわけだ。1月4日くらいなら正月を楽しんだ後にもう一度お楽しみがあるようなもので、1日におせちを食べて4日にケーキを食べれるのに1日に重なるとそんなに食べれないからおせちだけになると損した気分になる様なものだ。違う日なら貰えるものが貰えないというのはちょっと欲深いとは思うが損した気分になってしまうのは致し方ないと思う。
だから、その日だ、とローレンシアは慰労訪問の日を決めた。降臨祭だから街には無料配布の食べ物も用意されるので子供達はそれを狙って街に遊びに行くだろう。しかしそういったものもそれほど多くはない。祝い事と言えど、一般人にとっては商売のチャンスだ。サービスはしてもただとはいかない。すると貧しい子供は祭りを見て楽しむと言えば聞こえは良いが、貰えるものを貰った後はどちらかと言えば他人が祭りを楽しむのを見ているだけの印象が強くなる。親の居る子は親と一緒に祭りを楽しみ、その後に家に帰って今日一日の話をしながら皆で食事を取って、時にはプレゼントを貰うのだから夜まで楽しめる。だから、その日だ、と再度ローレンシアは思う。炊き出しなどの無料配布は昼以降になるだろうから、朝の内に訪問して遊び道具をプレゼントするのだ。貰えるものが増えるのも祝い事が更に祝いたくなるものになるのも問題ないだろう。
そして最近分かったのはエールトヘンは足りない事があれば助言してくれるが必要なだけ足りていると思えば出過ぎていてもそれほど苦言を言わない事が分かった。日頃の訓練でも十分な成果が出始めているのが分かればビルダー氏達と多少無茶な遊びになっても何も言わないで見守っているのだ。ビルダー氏と4輪駆動の最新式ベビーカーで押し相撲をしても危ないとも言わなくなったしウルフと屋敷内をコースにして競争しても危ないとも言わなくなった。恐らくは大体ローレンシアに何が危なくて何が危なくないかの判断が付いてきたからだとローレンシアは思っている。なら今回の慰労訪問でもやれる事はやるべきだ、という結論になるわけだ。
そう考えたローレンシアは最近も物騒なものを作ってくれるマスター・ララの所へと向かう。何を作るにしてもどこかに何か仕込もうとするのは相変わらずで、ベビーベッドを作らせれば2重底でシャッターの様に開きそこに隠れる事が出来るもの(試してみろと言われて落ちた)、保温機能のついたマグカップを作れと言ったら魔力を込めれば熱する事の出来る、カップの内側がミスリル素材で出来たカップを作り(魔力調整に失敗して熱湯が噴水した)、ウルフの改造を元に戻さずウルフ改にした(胴体内部から下肢の内部に伸びる足を格納して骨格変形で二足歩行を可能にして狼男の様にした)、アーマーを元に戻したは良いが命令一つで部品に分解されて空中を飛び回り命令者の体に装着出来る無駄機能が追加された、ビルダー氏の筋肉繊維の質が向上してなぜか金属並みの固さになる事も出来メタリックな輝きを見せる様になって目が痛い、ヤマダが返ってきて色を変えれる成果を披露したにも関わらずビルダー氏の方が先に色を変える方法に成功していて更に拗ねたとかとにかく色々やらかしてくれた。
しかしどれも使い方によっては有用?な筈だ。改良すれば使えるだろうし後は使い方次第と言われている様な気がしてローレンシアもマスター・ララにそれほど強く言う気がなかったりする。なんだかんだでソリは更にシェイプアップされ、小さくしてトゲもなくなり大きめな三輪車として活躍している。ただ「お嬢様の魔力で動きます」とか言ったので「ワシは生体電池扱いか!」と怒ればしぶしぶソーラー蓄電方式に変え、「魔力の方が効率が良い」とか不満をこぼしていたがエネルギーの有効利用だと言って割り切らせた。一方を熱するともう一方が冷たくなる合成金属を使い、かなり冷してもう片側の熱を使ってホットプレートで料理が出来るとか無駄な事をマスター・ララがやりだしたので夏の外気温の高さを利用して地下室に冷蔵庫を作らせた。勿論冬は逆にする事も出来る。クローゼット?な服を掛ける目的のトレントを模した木は整えられ欲しい服を要望すれば回転式で前面に服を配置しながらも流暢な話し方でお世辞を言ってくるという無駄機能も追加された。
「それでお嬢様。今度は何を作れば良いのでしょうか。出来ればインスピレーションの閃くものを。」
「そんなマスター・ララの欲しがっているものなど要らん。簡単なものじゃ。劇の小道具を作ってくれんかの。」
「劇?ですか?ああ、また孤児院に行くのですか。ならとっておきのを・・・。」
「要らん!とっておきでもなく大胆なものでもなくごくごく平凡な小道具が欲しいのじゃ。」
「そうですか・・・。つまらないですね。それでどういったものを?」
「小道具用の剣とか鎧じゃな。威圧感を消して使えるものとか。衣装とかはジーンにデザインをして貰うから。」
「そうですか。残念です。丁度ここに良い剣があるのですが・・・(チラッ)。」
「いやマスター・ララ、お前聞いてたよね?それ、ここに来る前の話とか聞いてたよね?絶対。それで用意して偶然にもここにものがあるとか言ってるよね?」
「それはもう。お嬢様も成長なされて私は感無量です。」
そう言ってうれし涙を流す振りをするマスター・ララを冷めた目で眺めるローレンシアだが一応は聞いておくことにした。
「それで。その剣にはどんな機能が?」
「はい。叩いた部分から爆発が起きる魔剣です。周囲の度肝を抜きますよ。」
「はい却下。大惨事じゃろ。それ。」
「しかしエンターテイメントにはサプライズが・・・。」
「もっと穏やかなものを所望じゃ。マスター・ララ的に、つまらなく、特色のない、地味なやつ。」
「そうですか・・・。ならこれはどうでしょう?ただ光るだけの剣。」
「そう!そういうの!劇なんじゃからそういうので良いのじゃ。他になんかあるじゃろ?さぁ、隠しとらんで出せ。」
「仕方ないですね。装飾が施されて見た目だけが良い盾、スポークスマン向けの声に変化出来るボイスチェンジャー、|レビテート<空中浮遊>がかかった簡易照明、舞台の足場になる自動展開巻き上げ可能な絨毯、なぜか常にそよいでいるマント、背景を映し出すスクリーン、と言ったところでしょうか。」
「そう!なんだかんだ言って準備してくれるのがマスター・ララじゃな。最初からそれを出せばさらに良いのじゃが。」
「それではつまらないでしょう?それにお嬢様が何をご所望か私には分かりかねますので。」
「そんな事を言っても無駄じゃ。毎回試そうとしているのは分かっておる。それで、もし最初の剣を受け取っていたら?」
「真ん中が割れて相手に噛みつく牙が生える盾、聞くだけで恐怖を覚える声になれるボイスチェンジャー、照り付ける程に明るい簡易太陽、地面からもサプライズを仕込めるフィールド展開機、なぜか常にそよいでいるマント、気色の悪い様に凹凸が変化する壁、と言ったところです。」
「一部ツッコミどころはあったが気にしないでおく。しかしフィールド展開機って何?それなんか良さそう。」
「空間連結の応用ですね。事前に登録してある地形などを展開します。今登録されているのは沼地と毒の沼地と底なし沼です。」
「こだわるところが違う気もするがなぜそのチョイス?」
「いえ、お嬢様が劇をなさりそうだからあえて準備いたしましたが?」
「聞いててそのチョイスにはなはだ疑問なんじゃが。」
「いえですから、魔女が出てくるお話でしょう?なら沼地がいるのではないかと。他はあれです、どうとでもなりますから。」
「ならそのどうとでもなる部分に拘ってほしかったがの。とりあえずそれも貸してくれんか。」
「ならローラに登録させましょう。ローラ、これを持って行きなさい。」
そういってマスター・ララはローラに運搬を命じた。
「他はどうされますか?毒りんごなるものも必要なのでしょう?こちらで用意致しますか?」
「それは絶対遠慮する。毒で済むかも分からないからの。」
「そうですか。残念です。折角準備しましたのに。」
「だから要らんと言うておる。どうせ本当に仮死状態になるやつじゃろ。」
「惜しい。しばらく魂が天国に旅立つやつです。居心地良くて帰ってこないかも知れませんが。」
「それ絶対不味いよね!?」
「大丈夫です。この世界に未練があれば帰ってこれます。気をしっかり持てば良いだけです。」
「だからそれが不味いって言ってるんじゃが!?」
「大丈夫です。私なんてバカンスを楽しんでから帰ってきましたから。2年程。」
「劇の時間じゃないよね、それ。」
そんな会話をしつつもローラがビルダー氏を使って道具を運搬し終えるのを見てからローレンシアはマスター・ララの居室を後にした。そしてジーンの所へ向かう。
「ジーン。衣装は出来たかの?」
「はい。お嬢様。劇用に分かりやすいお姫様の衣装と魔女の衣装がこちらになります。」
そうして見せられたのはフリルフリフリのドレスと貫頭衣だ。貫頭衣にはフード付きマントがセットになっておりどちらも色合いが地味で、貫頭衣はこげ茶色、フードは深緑だ。ドレスは薄ピンクと少し狙いすぎな感がある。普段貴族が着る服には装飾がされているがそれは主には領内の技術促進の一環でデザインを複雑なものにするからなのだが、今回のこれは劇用で子供向けの為に最新の流行は意識していないド定番のやつだ。流行に関係なく使えるとも言える。服の仕上がりに満足したローレンシアはジーンにお礼を言って次の場所に向かう。
「そういうわけで。シェリー。衣装を合わせてみるのじゃ。」
「そういうわけでじゃありません。お嬢様。なんで私が劇の、しかもお姫様役なんですか。」
「だって、ワシ着れんもん。」
「それはそうでしょうよ。お嬢様がそれを着て宙に浮いてたらホラーですよ。ホラー。童話じゃなくなります。」
「じゃろ?だから最適な配役を考えたのじゃ。どうじゃ?」
「ダンも入ってるじゃないですか!」
「そりゃそうじゃ。騎士役をキャメロンにさせて後で嫉妬で喧嘩されても困るからの。これでも気を使っておるんじゃ。」
「なら配役を振らないでください!」
「そうは言っても劇にはお姫様が必要なんじゃ。シェリーはワシ付きのメイドじゃろ?なら適任じゃ。」
「そう言われると断れません・・・。今になってミーナが専属から抜けたのが悔やまれます。」
「まぁそう言うな。ダンとデートの気分でやってくれれば良いのじゃ。」
「仕方ありませんからやりますが想像もつかないサプライズとかありませんよね?」
「勿論じゃ。劇は台本があるし、そもそも外向けのものじゃ。内々なら出来る事も外向けにはできんからの。」
「なら安心しました。お嬢様とのごっこもこのためだったんだとようやく分かりました。」
「というわけで、練習に時間を割くからの?」
「ええ。お嬢様からアンジェラ様にはそうお伝えくだされば。」
「なら既に済んでおる。行くぞ。シェリー。」
そうしてローレンシア監修の元、「シンデレラと7人の魔女」の練習は行われるのだが・・・。
「お嬢様。やっぱりサプライズ込めるんですか・・・」
「これのどこがサプライズじゃ。」
「普通の劇で地面から魔女が出てくる演出はありません。いえ、大きな劇場で仕掛けを使うならともかく普通の孤児院ですよね?」
「うむ。だからこそ普段にはない刺激を演出するのじゃよ?別段誰も損はせんじゃろ?」
「まぁそうですが。それにあの壁はなんです?」
「ああ、あれはの。自由自在に表面に凹凸を作れるらしいからの。それを応用してシーンを追加した。お姫様が壁を背にした時に壁から手が出てきて取り押さえるという演出に使うんじゃ。」
「それ地味にホラーですよね?大丈夫ですか?」
「魔女の凶悪さを演出するんじゃ。大丈夫じゃろ。多分。」
「まあ良いですけどね。それよりこのシナリオ大丈夫ですか?」
「どこ?」
「継母と義理の姉にいじめられたシンデレラは継母と義理の姉が王子様に会う為にお城の舞踏会に出かけた後、溜息を付きながら鏡に向かってこう言います。『はぁ、私の方が絶対綺麗なのに。』ってこんな自意識過剰なヒロイン嫌ですよ。」
「ヒロインは積極的に行動する女性なのじゃ。自分と姉とでどれだけ効果的にアピール出来るかを考えれば自分の方が上なんだと評価できる女性じゃ。」
「ものすごく主観と違いが分からない評価じゃないですか。自身が客観的に物事を見れている根拠や信用がないとダメなやつじゃないですか。」
「いやでもな?物語ではヒロインは美人じゃろ?姉に負ける様ではそもそも王子も姉を選んでいるはずじゃ。」
「そもそも見た目だけで選ぶなんて事滅多にないじゃないですか。確かこの話も継母や義理の姉にいじめられながらも健気に家事をこなす可哀想な少女という話ですよね。その健気な性格が王子様の目に止まったんじゃないですか?余程外見が良くないと、それだけで選ばれるなんて男性の考えそうな事です。」
そこでローレンシアはトゲが胸に刺さった様に『ウッ』と呻き、しかし反論する。
「しかしじゃな。女性の良さを一番分かろうとするのは外見じゃろ。日頃の習慣などで体を維持してるんじゃから。」
「それでもですね。他人の事を考えずに自分の事だけ考えて動くと結局はそれが外面に滲み出るんですよ、お嬢様。自分はこれだけすごいんだ、と自慢して傲慢になってる女を見て心惹かれる男性にも問題があると思いますよ?それにそういうのは大抵継続不可能なやり方をしてたりするんです。周りの事とか考えずにどんどん孤立していっていつかダメになる。自分だけ自滅するか他人も巻き込んで自滅するかの違いしかないと思いますよ?」
「身につまされそうじゃな。でも今日のシェリー、なんかエールトヘンぽい。」
「私にだって短いなりに人生経験がありますよ。あの方の様な長さじゃないですけど。そういった人が居たんです。だからお嬢様、もっと無難なセリフにしましょう。『ああ、私も舞踏会に行きたかったわ。でもこの服じゃ行けない』で良いじゃないですか。」
「平凡すぎん?」
「それが良いんですよ。変な事を思わせると子供の為にもなりませんし、こういった物語はド定番が基本じゃないですか。だから安心して見てられるんです。何度見ても自分の思い描く夢から外れてない物語なんてオーソドックスで無難で平凡だから良いんですよ。」
「そういうもんかの。」
「そういうものです。刺激なんてちょっとで良いんです。ほんのスパイス程度で。欲しいのは王子様とお姫様が仲良く暮らしましたという結末なんですから。」
「でも前に行ったときはキャメロンとビルダー氏の戦いは人気あったぞ。」
「以前にも言ってましたけどそれは男の子にでしょう?それでそのセリフの後はどうなってるんですか?・・・フムフム、『お前のその心意気が気に入った!ならば試してみるが良い!』と言いながら魔女が床から登場って、脈絡がないですね!・・・まぁ、健気なヒロインを可哀想に思った魔女が登場するのも脈絡がないですけど。」
「じゃな。どうしてもここに無理な展開が入るんじゃよ。」
「それはもう良いじゃないですか。誰かヒロインを助けてあげてと観客も思っている所に現れるんですから。他に何か登場させるわけにもいかないですし。」
「犬、猿、雉なんてどうじゃ?」
「どこからその選択になるんです?」
「いや、まぁ。別の話で登場するからの。ヒーローが困っている所に。」
「ほら、お嬢様。お話を作る時にも男性視点でいらっしゃるからさっきのセリフになってくるんです。お嬢様は普段からもっと淑女らしい言動になっていただかないと。またエールトヘン様のお小言が来ますよ。『お嬢様、お言葉を改めください』って。」
「言われんでも分かっておる。少しずつな?少しずつ直しておるんじゃよ?これでも私、令嬢ですのよ?」
「なら普段からそうされれば良いですのに。そうすればエールトヘン様だって少しは気が休まるかと。」
「それとこれとは別じゃ。エールトヘンも言っておった。『子供の頃から理由も教えず制限ばかり与えていたら大人になって何も自発的に出来なくなる』とな。」
「ですから前から言っています様にお嬢様のは度が過ぎます。」
「それでもワシはワシ。簡単には変えられん。とりあえずこの話は止めにして、仕方ないから女性の意見としてシェリーの案を採用じゃ。」
「お嬢様も女性ですけどね?お忘れなき様。」
シェリーの一言は気にせずセリフを書き換えていくローレンシア。男の子にも女の子にもウケる話にしようとするとそれだけ気を遣う所が多くなる。男の子向けにはダンとビルダー氏の対決、そしてキャメロンがそれを補佐。ビルダー氏側にはウルフとスケルトンを加え、アーマーはダンの見せ場で装着される展開になる。女の子向けにはシェリーのダンスとダンの求愛の場面を盛り込み、なんとかこれでいけるかと言った内容になる。これからも慰労訪問をする予定なので今回のは7部作の1部だ。
継母からいじめられたヒロインが魔女の助けで綺麗な服を与えられて舞踏会に参加。継母と姉を出し抜き王子と仲良くなった時に給仕に変装した魔女がデザートと言って毒りんごを食べさせるとヒロインはそのまま眠りについてしまう。事態を悲しんだ王子様が涙を流しながらヒロインにキスをしたらなぜかヒロインが目覚め(ローレンシアのうんちくでは王子様の涙がヒロインの口に入ると解毒薬になった)、ハッピーエンドと思いきや、魔女が「ええい、私を振った王子に嫌がらせしようとしたのに失敗するなんて。でも残念ね、王子。彼女は目覚めたけどまだ毒は残っているわ。解毒薬が欲しければ追ってくることね。」と言いながら逃げ、王子が「待て!」と叫ぶが行く手を阻む様に魔女の手下が現れて戦い、王子とヒロインは魔女を追って旅立つ、という無駄にスケールを大きくしようとした内容だった。
「最後の方要ります?戦いなら王子の魅せ場として試合で良いんじゃ?」
とシェリーが思わず突っ込んだが、ローレンシアが
「ここだけはどうしても譲れん。」
と強引に決めてしまった。
「こうしておけば次回が気になるじゃろ?」
「まぁ、確かに気にはなりますね。私は王子の恋愛遍歴が暴かれていくんじゃないかとハラハラします。」
「そういう夢のない話にはせん。」
「なら匂わすのも止めた方が。」
「でもそうなると魔女の動機がなくなるので不可。」
「お嬢様がそれで良いというのならそれで良いのですけどね。それで題名はどうなるんです?」
「『シンデレラと七人の魔女 第一部 毒リンゴに秘められた想い』」
「魔女が主役っぽくなってるじゃないですか!」
「でも気になるじゃろ?」
「ええ、まぁ。」
「なら練習じゃ。」
そうして練習は続けられた。