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S124 親の死に目に会えたんだが

定番コントになってしまった。ありきたり過ぎて。


モンタギューは急ぐ。ここ最近の父の調子は少しマシになっていたが、どうやら嵐の前の静けさだった様だ。病に臥せってからめっきり置いた父の姿は胸にくるものがありいつ最期の時が訪れても良い様にはしていたのだが、実際に来るときは他の用事で立て込んでいる時だというのだから世の中うまくいかないものだとモンタギューは溜息をつく。


急いで父の所へ向かった所、なんとか父が死ぬ前に辿り着き、床に臥せる父の傍に寄り、人払いが出来た。父は弱々しい声で「良く帰って来た」と告げ、どうやら間に合ったようだと安堵してからモンタギューは話し掛ける。


「父さん。何か言い残す事はないか。その為に俺は帰って来た。」


すると父はわずかに目線を向けた後に何か伝えたそう気配を出しつつ呟いた。


「昼・・・に出したん・・・では・・・。・・・くれ。」


か細い声に聴き損ねたモンタギューはもっと傍に近寄り言う。


「もう一度言ってくれ。良く聞こえない。」


すると父はまた話し出す。


「昼食用に肉をテーブルに出したんだがそのままでは不味い。片付けてくれ。」


モンタギューは思わず『今言う事かよ!』と思ったが気になって仕方がないのだろう。急いでモンタギューは台所に行き、確かに出したままの肉をしまってからもう一度父の所に向かった。

すると父はどうなったのか知りたいと目で訴えてきたのでモンタギューは答える。


「ちゃんとしまったよ。さぁ、もう心配事はないだろ?」


そう言ってモンタギューは父の傍に座り、父が話に耳を近づける。


「・・・ミに・・・れ。・・・てあ・・・り・・・ると。」


「もう一度行ってくれ。今度はちゃんと聞き取る。」


「ソフィーに伝えてくれ。タンスの下に隠してあるへそくりはお前にやると。」


「ソフィーって誰だよ!」


「あの・・・、何かお呼びで?」


どうやら自分の名前が呼ばれたと思った女が扉を開けて中を覗いてきた。あんたの事かとモンタギューは思ったがとりあえずは話が進まないので外で待っていてもらう事にする。


「分かった。後でちゃんとするから。それで、他にないのか?」


「今日はまだポチの散歩に行ってない。」


「分かった。後で行こう。他には。」


「いや、分かってない。今ポチがどんな気持ちで待っているか・・・」


「分かったから!後でちゃんと行く!それで他には。」


「実は昔、お前の母さんには黙っていたんだがお前の母さんの前に付き合っていた女が居たんだ。」


「俺に告解するなよ!ああ、母さんも居ないものな。それで他には。」


「それがソフィーだ。」


「さらりととんでもない事言い出したな!それで、他には。」


「お前は知らんだろうがポチの好物は実は芋だ。」


「あんたの中でポチはどれだけ重要なポジションなんだよ!他には?」


すると父はもうないと言わんばかりに安らかな顔をして今にも逝ってしまいそうだったのでモンタギューは慌てて言った。


「本当にもう無いのかよ!なぁ!?」


すると父はうるさそうな顔をしてモンタギューを見つめてから何か思い出したように呟いた。


「詳細は遺書に。」


「先にそれを言えよ!」




「というような事は起きるのじゃろうか?」


「親から子に伝える重要な情報があるかと思っていたが実はなかったという事ですね。」


「概ねそう。」


「私達は生きていく上で自身が社会の中で他者との競争で勝つ必要があります。役割をより上手くこなせる者はその役割を続けられ、役割をうまくこなせない者から集団の規模に対して社会の規模が相対的に小さくなるにつれ切り捨てる事になり集団の強さがなければ生き残る為に内部での優劣が影響してしまいます。そうなると自身が生き残るためには他者との差が必要です。自分だけが知っている知識や自分だけが出来る技術というものが必要になり、それがなければ他者と同じ知識や技術の優劣で勝負する事になり安心出来ません。また、誰かに成りすまされる事で権利を奪われる可能性があり、本人しか知らない事やある特定の集団だけが知っている事など他者との区別する為の知識もあります。ある一族だけの知識やその当主だけの知識など自身の権利を守る為に有しているものがあります。また、一族の歴史上の汚点を教訓として受け継いでいたり、他者には教えない名前など隠している知識は様々です。

その際に問題になるのは隠している知識を他者に知られる事です。それを知っている事が他者との区別を判断する基準であるなら他者に知られれば誤認する恐れがあります。そうならない為に情報の漏洩を恐れて隠しておくべき知識は出来る限り最小限の対象に教えられる事になります。そうした場合、それが個人の規模で受け継がれていく知識であるなら、子が成長して周囲に簡単に騙されたり安易に情報を漏らさないだけの成長をした後に教える事になりますが、どのタイミングで教えるかという問題が発生します。

例えばその子が自身の子かどうか判断が難しく不安材料があるなら不安要素がなくなってほぼ確定するまで情報は教えないでしょう。また、教える時期も基準を満たしたなら早めに教えるという行動を繰り返すと世代継承するうちに基準を満たすか満たさないかの判断があいまいな時に教えてしまい、実際は基準を満たしておらず漏洩させてしまうという状況を招いてしまう可能性があり、充分に確認が出来てから行う癖をつける為にある程度の期間を空けてから教える習慣を身に付ける為に比較的遅めに教える事になります。そうやって情報を秘匿していく習慣上、自身のみが知っていれば良い情報というのは限界まで伝えずに保持される事になり、死に際になってようやく、自身の子若しくは自身の持っていた権利を受け継ぐものへと知識を教える事になります。そうした習慣がある社会では親の死に際に会うというのは非常に重要であり、会えない事で親から子への世代継承において親と同じ知識を有していると言えるだけの知識を得る機会を失う可能性があり、それがその個人のみが知り得る知識であるなら二度と手に入れる機会が失われる事になります。個人のみの知識だけではなく特定の集団に属する知識というのは限定的な条件により再度手に入れる事が難しく、一度失ってしまうと再度手に入れるのに多大なコストを払う事になり、また、誰がその知識を持っているかを知らなければ実質的に手に入れる事が出来なくなります。


例えば私達が個々人で世代継承し情報を受け継ぐ事で次の世代の自身も確かに自身であるという証明はどうやって行われるか。無条件に自身は自身だと言ったところで、その性質が変わり親や先祖と違う性質を示してしまい、持っていた知識も失ってしまっているのではもはや以前の自身と同じとは言えず、全く新しい自身だと言うしかなくなります。

では自身が今までの自身と同じである証明はなぜ必要でしょうか。もし主観のみで生きていけるのであれば必要ありません。快感原則に従い行動するだけで済むなら、つまりはけものであるなら必要なく、その行動そのものが自身であると言えます。しかし私達は行為します。集団の中で行為する時には実績の結果として信用が必要になり、その信用が今も有効かどうかが問題になり、その信用を得る為に以前の自身と同じかどうかが重要になってきます。

例えば、一度も盗みをした事のないものに荷物を預けても盗まない可能性が高いと言えるでしょうが、一度でも盗んでしまえばその信用はありません。盗みをしなかった時と盗みをしてしまった後では信用は変わります。その違いを示してしまった時にはその変化は目に見えない部分の変化があり他者の内部での変化であり、目に見えず他の何かで保証する必要があり、以前の自身と同じである証明として以前と同じ性質で行動したり同じ知識で行動する事で信用の保証とします。しかし本人しか知らない知識が漏洩して本人を詐称して周囲を信用させて悪事を働く者もおり、また、誰かが示した性質から生じた行動を真似てその結果が与える信用を悪用して悪事を働く者もいます。

また、そうして悪事を働いた場合に、誰がその原因を作ったかという部分に焦点を当てると情報を漏洩したのは本人であるから、情報が漏洩し自身がそれに関与する事になった時にラッキーな状況だと思い勧んで悪事に加担して『自分は悪くない』と主張するものも現れますがここでは割愛します。


私達には私達の性質として残せる状況に対処する基本的な行動指針と現状の環境に応じて変化させるべき行動指針があります。現状の環境に応じて変化させるべき行動指針は現状の環境情報から生じる為に性質に残せません。残せるのは現状の環境情報を取得してそれを反映する性質のみにです。ですのでその性質を強化し、生まれ変わる度に環境情報をどれだけ取得して行動指針に反映するかがその者の判断能力に影響します。逆に言ってしまえばその性質を弱めさせれば容易く操る事の出来る人物を量産する事が出来ますがこれもここでは割愛します。簡単に言ってしまえば欲望で誘い込みさも自身で行動しているかの様に思わせるのです。そうすればその行動指針が性質に反映され、やがて高い知性を有さない者へと変化していきます。

ですので生まれた後に情報を補完する事になり、その情報が親から子へと、先達から後続に、先輩から後輩へと受け継ぐ事でその情報の信頼性と有効性を維持します。しかしです。ここでも私達は悪事を働く事が出来、情報をあえて伝えない事で差を作り利己益を得る事が出来ます。その亜種として他者には情報の共有の有効性を主張して情報を提供させ、しかし自身は情報を隠し、新たに得た情報で利益を出しつつ自身は情報を隠す事で差を作り優位に立とうとする方法がありますがこれも割愛します。

なぜ二つの行動指針になるかと言えば、世界が変化しなければ私達の行動指針は性質に積み重ねられる1つでだけで事足ります。いずれ生き残った結果としてその性質へと集約されていくからです。しかしそのチャレンジアンドレスポンスの結果として生き残るとして、では失敗した時に大人しく死を受け入れる事が出来るでしょうか。そこにある苦しみを容易く受け入れられるわけはありません。ですから私達は知性を受け入れ成長させる事でその問題を解決しようとします。そうして私達は私達自身の手で私達の性質を分析し、それに合わせて行動を再選択します。するとそれまでに示した性質では新たな環境に対処出来なくなり、私達は新たな環境へ対処するチャレンジアンドレスポンスを行う事になります。その際に以前までと同じチャレンジアンドレスポンスではリスクが低下せず危険を感じ新たな方法を模索する事になります。そしてこれまでの情報の蓄積から状況を判断し新たな行動の指針を導出して新たなチャレンジアンドレスポンスを行う事でリスクを低下させて新たな環境に対処し続けようとします。

そうして、新たな環境に対して有利な状況を得ようとより多くの知識を得ようとし、また、個人の権利を守る為に秘密にした知識を特定の人物に受け継ぐ事でより安全な状況を作ろうとします。しかしそこには共有すべき知識を隠す事で差を作り他者に勝とうとする者が現れ、他者から与えて貰った知識を隠す事で有利に生き残り競争を勝とうとします。」


エールトヘンは締めくくる。


「私達は何度生まれ変わっても新たに知性を成長させ世界を再認識しその情報を自らに還元させて次代に受け継ぐ事で世代継承し続けても生き残る事が出来る様に習慣づけます。誰かに与えて貰った知識や環境でそれに従っていればどうにかなるという状況は誰も与えてくれず、自らの知性を高めて性質を改善し続ける必要があります。お嬢様は貴族です。民衆というのは知性が低ければ形に見えるものばかりを見てそれを形作るルールなどの根拠を知ろうとしない場合があります。その様な状況では構成員の質が低い為に社会は高度になれず、また劣化していくのなら社会の質は当然低下し、どうにかルールを厳しくして制限しようとしてもいずれ崩壊します。そうならない様に社会の構成要素である構成員の質を維持向上させる必要があります。そして目に見えない部分を見る傾向を示す者には形でもって分かる様に体現して見せる必要があります。その為にはまずお嬢様が高い知性を持ち状況を分析判断する能力を持つ必要があります。その為にもさぁ、がんばりましょう。」


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