S117 保険に入らないと不幸が起きる、かも?
マライアは保険に加入しなかった。何気ない日常で事故に遭う確率などどれくらいだ?と考える事もしばしば。そもそも保険なんて自然災害で被災した時にはたいして役に立たない。高い保険に入れるなら何かの時には至れり尽くせりなのだろうが生憎とマライアはそんな裕福な暮らしをしていない。だから自然災害なんてものが来た時には、書類がないから無効、本人証明が出来ないから無効なんて言われかねずその分の費用を貯蓄や他の買い物に回した方がより生活がマシになると判断して保険に入らない事にしたのだ。
そんなマライアは最近良く「保険に加入したのか」と聞かれる様になった。それがあなたがたに何の関係が?と思いながらも「加入していない」と答える事を何度か繰り替えている内に「保険に加入したのか」と聞いてきていた者達が今度は「保険に加入していないといざという時に大変な事になるよ」と言い始めた。しかしマライアにとってその「いざという時」は一体何時なんだと言うのが知りたい事で、そう思うからこそ加入していない。だからそう聞き返しても「そんな事言っていると大変な事になるよ」としか返って来なかった。
そんなある日、マライアが仕事場から家に戻る途中、遠くの方がやけに明るく煙が上がっていた。火事か、という言葉が頭をよぎった時に、ハッとしてもう一度煙の上がっている方向を見返す。その方角にはマライアの家があるのだ。まさか、もしかして、と思いながら急ぎ足で戻ったマライアを待っていたのは焼け落ちた自宅だった。
そんなバカなと考えながらも、外出する前に火の元はしっかり確認したかを思い出そうとし、やはり問題がなかったはずだと思い返すとなぜ火事になったのか全く分からなかった。
途方に暮れるマライアは消火活動していた自警団に話を聞かれ、何を喋ったか良く分からないながらも、どうやら火事の原因は不審火の様だと教えられた。
こんな街中で、よりにもよって保険に加入していないマライアの家を狙って火事が起きる。そんな事実がマライアには夢の様で誰かに嘘と言って欲しかったがマライアの前にあるのは見る影もない自宅であり、その現実は変わらなかった。
後日、なんとか生活を立て直したマライアに対して、以前に忠告をしていた人達は口を揃えたように「だから言っただろう?良くない事が起きるって」と言ってきて、マライアは言い返せなかった。
そんなマライアを見ていたとある人物がこう言った。
「対象の状況を確認しました。これでもう都合良く行動するでしょう。周りにも保険に入っていなかった時に災難があるとどれだけ大変か良く分かったでしょうから、皆保険に入るのを止める事もないはずです。」
「というような事は起きるのじゃろうか?」
「なるほど。個人の権限では制限があり情報量が少なく偶然か必然かが分からない事も、より大きな権限を用いた時にはその個人を含めた環境情報が手に入る為に個人から見て偶然な出来事も必然として行えるという事ですね?」
「概ねそう。」
「どの様な権力にも必要悪として利権が伴います。役割を行使する為に必要な権限ですが、その役割を効率よく効果を最大限に果たす為に使うのではなく、利己益や保身の為に使う事が出来、これを利権を使うと呼びます。本来の利権とは例えば、貴族は裕福な暮らしが出来る、民衆とは違い優先して入場出来る、権力者は民衆より先に選択権がある、などが考えられます。しかしそれらは利己益を得る為に無条件に成立するものではなく、それぞれに意味があります。貴族が裕福な暮らしをするのは健康状態や財政的な状態などの普段の状態に何の問題もない様にして、抱える問題事を減らし、日々起こりうる想定外の問題に対処する為に行なわれます。民衆と違い優先して入場出来るのは、優先度の高い物事と低い物事にかけるリソースの量はそのまま与える影響に関係しますので、より効率良く効果的な方法として貴族が優先されるという事です。例えば村人と村長なら村長の時間を優先した方が村の問題をより多く解決出来るでしょう。企業なら社長と従業員なら社長を優先した方が企業の問題をより多く解決できるでしょう。権力者が民衆より先に選択権があるのも同様です。
しかしこれらもそういった根拠を知らず見たままに解釈するなら権力者になれば欲しい物を優先的に手に入れる事が出来、他者よりも先に優先して入場出来、欲望を満たせると錯覚します。確かに欲望は満たしている様には見えますが、それらは今後起こりうる非常事態に備えるための準備とも言えます。確かに何も起こらず平和な日々が続けばそれは特権を利用して贅沢をしている様にも見えるでしょう。そしてその表面だけを見た者が成り代わり権力を持ちその立場に居座ったならば欲望を満たす為に権力を使うでしょう。しかしそれらはかつて誰かが行った行為の表面的な行動だけを見て錯覚して行われる様になって形骸化したものに過ぎません。
そうして利権を扱う様になると出来る事が多くなります。元々大きな権力と言うのは様々な問題に対処する為に与えられる権限が多岐に渡りそれだけ裁量が得られる事になります。企業の社長であれば会社全般に干渉出来るでしょうが、経理担当が同じ事は出来ず自身の部署などが限界でしょうし、役職でもなければそれも更に限定されるでしょう。従業員も同様です。使用出来る権限から得られる情報量や質も違い、配下に指示を出して行動させる事も出来るので、出来る事自体が増えます。その上で更に与えられた権限を利己益に使うのであれば出来る事は更に増えます。そもそもが権力を持てば持つほどに誰も間違いを指摘して止めさせる事が難しくなっていき、そして権力者に与えられる権限はその権力を行使する規模において間違いを正す為のものであり、それを不正に扱うのですから不正自体が管理されなくなります。
例えるなら治安維持機構自体が取り締まるべき違法行為を行う為に誰も取り締まる者が居なくなるのと同じです。
そう考えるならどれだけの選択肢が増えるかは分かりやすく、利害関係の一致しない同程度の権力を持つ者が居なければ止められない為に、それが違法行為でも証拠を押さえられて告発され権力を失わないのであれば実行出来ます。そこまで発展しなくとも本来管理するべき自身が管理せずに行動するのですから、管理されていない事で行える違法行為は全て合法化されます。それは正しいから出来るのではなく、役割が正しく機能しているのなら行われない行為であり、役割が正しく機能しないなら制限を加えたところで制限を排除されてしまうだけになります。では制限を加えるとして誰がそれを管理するかとなるとその上位の者であり、誰もが誰かを監視し続ける事は出来ず、そしてそれを専門の役割としなければ出来ず、自身の本来の役割をしている限りは限定的にしか管理出来ません。自制が出来るからこそ役割を任せられるというのが基本であり、それが出来ない時点でどの様な制限を加えても監視の目を逃れて不正を行います。そしてその不正で出来る様になる選択肢は権力が大きければ大きい程に増えます。
そうして最も上位となる権力をその様な不正を平然と行う者に乗っ取られる、それが王国であれば簒奪と呼びますが、そうなるとその者は自身の不正を指摘する者の存在を許さないのでその配下は皆不正を行う事を了承し、自身も不正を行う事に何の罪悪感も持たない者で構成される様になっていき、権力は利権を扱って配下から搾取するシステムに成り代わります。
そこまでいかなくとも不正を行う権力者に対してその権限と同位か下位に位置する権力からの指摘では強制力を発揮出来ず、同位の場合は逆に攻撃をされる可能性があり、下位の者は排除される可能性がある為に止める事が難しくなります。
そうして権限の許す範囲で管理されない為に生じる瑕疵を使って誰もそれが不正だと指摘しない若しくは指摘出来ない事を根拠として"合法的に"不正行為を行います。
例えば犯罪者を取り締まる者達が犯罪者から賄賂を貰って有罪か無罪かを自由に決めていたのでは治安は維持出来ないという状況が考えられます。賄賂を贈る犯罪者の明確に犯罪と呼べる証拠がない場合は犯罪を立件せずに無罪とするなら、犯罪者は犯罪行為で得た利益の一部を賄賂として贈る事で無罪を得る計算をするでしょう。払う賄賂と得る利益で収支が取れるなら犯罪行為は"合法化"される事になります。そうなれば増々犯罪者は増えるでしょう。
別の例えと用いるなら監視カメラを用いて監視している監視員が監視カメラを悪用して情報を集めて犯罪行為を行うというものが考えられます。それがもし生活の場全域なら配下の者を使って情報操作すら容易いでしょう。
そうやって利権を扱う者が権力者になった時に今回の話の様な事が行われます。
例えば火災保険というものがあります。火事になって自宅が焼けた時に保険金を受け取るシステムです。しかし技術が向上して防火対策も優れたものになってくると火事は中々起きなくなります。そうすると保険を掛ける側はかつての状況とは変わってきた為に保険を掛けるのは効率の良いものではないと思い始める者が出始めます。一方で保険を掛けて貰う側は防火対策が向上すれば火事の原因も減るので掛け金は企業維持の為以外は全て利益に出来ます。ですから保険を掛けなくなる者が居れば居る程利益は減ります。保険会社にとって一番良い状況というのは火事が一切起きず、しかし誰もが火事のリスクを考えて保険契約を結ぶ状況です。そうなると費用は企業の維持費のみになり、そして保険料算出の計算根拠が保険会社しか知らない状況になると保険会社が自社の都合で保険料をさも正当な計算で算出した様に見せかけて領収する事が出来ます。
例えば地震をコントロールできたとして、その事実を知らせず、地震は自然災害でいつ起きるか分からないと錯覚させる事が出来れば、人は予測出来ない出来事で不利な状況に追い込まれるのを恐れて対策を取り、保険に入ります。そうすると実際にはいつ起こすかを決める事が出来るので収益計算は楽になり、何もしなくとも利益を稼げる事になります。しかしそれを長い間行うと、起きない災害に対してコストを払っている状況を無駄だと考えて保険に入らなくなる可能性があります。ならその時に地震を起こせば、また予測出来ない災害を恐れて保険に入る様になる。その繰り返しで楽に利益を稼ぐ事が出来ます。
では例えば、火事をコントロールできたとしてその事実を知らせないとします。その状況で保険を掛けようか考える者は、火事は過失か故意で起き、稀な出来事でいつ起きるか分からない出来事だと考えるでしょう。その内、過失は本人が気を付ければ良く、そして技術の向上でセーフティーも品質が向上するので増々火事は起きにくくなります。故意については誰か悪質な者に目を付けられたり恨まれていなければ余程の不幸がなければ起きないと言えるでしょう。そう考えると技術がある程度のレベルに達した社会では死ぬまでに火事にあう確率がかなり低いと言え、生活水準が高く充分な保険料を払えるのならともかくそうでない場合は保険料を削り他の生活費に充てる選択をする場合があります。そうなると保険会社にとっては収益の減少につながります。しかし先ほど言いましたように、火事がなく、しかし皆がリスクを恐れて保険に入る状況であるならこれほど効率の良いビジネスはありません。そうなると権力者が放置する筈がなく、自身のコントロール下において一定の収益を得ようとするでしょう。
その権力者にとって欲しい結果というのは皆がリスクを恐れて保険に加入する事です。ならどうすれば皆がリスクを恐れる様になるかと考えると、実際に火事を起せば良い事になります。そしてリザルトセットの中になる自身に都合の良い結果を持ち出してくるとすれば、その火事にあう場所は保険に加入していない家であり、その結果として保険に加入しなかった為に財産を失った後に補填が無く多大な苦労をするという結果であれば、それを見た者達は保険に入らない場合の結果を見る事になり、リスクを再評価して保険に入る様になるでしょう。
そして権力を持つという事は、誰にも監視されずに監視する事が出来る領分を持つという事です。先程も言いましたが役割分担をする時点で自身で自身の行動を制御する前提になっており、監視や管理を行う側が監視する部分については誰もその者達を監視せず、自制出来なければその権限を使って悪事を成す事が出来ます。
しかしその悪事が成せる状況というのはそれまでに誰かが悪事を成さずに積み重ねた結果が実績として基盤にあり信用として存在します。するとその悪事を行う事で信用は失われ、悪事に対抗する者達が対策を行い、元の状況が維持されるかどうかは管理者の行動とは不一致になり、博打の要素が含まれる様になります。
こうやって権力を用いて強制した結果、反抗する者を屈服させる事になりますが、その結果として誰も目を付けられる様な事はしない様になります。すると間違いがあっても指摘せず、ただ指示に従う者達が居るだけの状況になります。その結果として間違いの指摘もされないので集団で自分達が間違っていないかを検証する機能も失われ、言うなれば権力者の考え方のみで方針が決まる集団になります。つまりは1個人から見た判断のみで方針が決められる為にその価値観に間違いがあればそれがそのまま反映され、選択肢にも影響します。
こうして、管理する側は同位の管理機構からの管理はされず、先ほども言いましたように監視カメラで監視される事で維持される状況があったとしてもそれを管理する側は監視カメラで同じ条件の監視をされる事もなく、自制が出来なければ、自身は監視カメラで監視されていないのだから監視カメラがない時に監視される側が行う様な悪事を行なう事が出来、その証拠を容易に作られないという事になります。そうなると犯罪を立証する事が難しくなり、そして管理される側は行動を把握されるので管理する側の不正を暴く事が難しく増々不正は行われる様になります。
そして今回の話の様に、配下若しくは共犯者を利用して監視する事で得られる情報を使って監視される側の動向を掴み、管理される側に証拠を得させる事なく犯罪を行う事が出来ます。犯罪の抑止力の一つに犯罪が気づかれて罰を受けるかも知れないという心理的状態がありますが、この様に権力を使う事でほぼ確実にそういった状態から解放され、罰せられない状況を作り出す事が出来、本来なら不正であろうとも利益を得られる選択肢が増える事になります。」
エールトヘンは締めくくる。
「こういった言ってしまえば楽して利益を稼ぐためのマッチポンプを権力者が行う様になるとその対象となる集団は搾取される事になり、気づかれなければ気づかぬ内に資産を奪われる事になります。その権力者の元では新たな知識や技術を解明するより既存の権力を悪用して利益を稼ぐ方がより効率的でリスクの少ない方法になり、誰も新たな知識や技術を解明しようとせず、そして誰もが利権を扱う事で利益を得ようとし、誰も本来の経済活動をしようとしなくなります。効率の良いものを選ぶとそれになるからです。媚びや賄賂で他者の得た成果や利益を得られるなら効率的になり、誰もが誰かが何かをしてくれるのを期待して、餌を待つひな鳥の様に誰かが利益を運んできてくれるのを期待する様になり、誰かが問題事はなんとかしてくれると考える様になります。利益が足りないなら誰かが利益を運んできてくれ、自身は媚びや賄賂で得られた地位でそれを待っていれば安泰になると錯覚する様になります。権力者の行動というのは配下に影響を与え、その配下自体が自制出来なければ、その権力者の名前を使った呼び名である"小さい〇〇"や"〇〇の尻尾"、または劣化コピーと呼ばれる存在になります。お嬢様は貴族です。なぜ貴族が民衆の見本にならなければならないのかが分かったと思います。民衆に知性が足りなければルールなどを真似、権力者の行動を模倣するだけになり、その民衆の知性が成長して自制出来るまでは権力者というのはその見本として行動する必要があります。その為にはまずお嬢様が高い能力と知性を身に付ける必要があります。さぁ、今日も頑張りましょう。」
-->しかしそれらはかつて誰かが行った行為の表面的な行動だけを見て錯覚して行われる様になった形骸化したものに過ぎません。
<--現代社会で分かりやすい例としては、議員さんの新幹線グリーン席でしたっけ?あれと一緒です。優先的に確保出来代金も無料(現在がどうかは調べてません)。なぜそうなるかと言えば、問題に対処する為に全国のどこにでも出向く必要があり、また、他の問題や打ち合わせと重なるなら何度でも行き来する必要があるのでそうなっていました。しかしそんな議員さんなんて戦後のこの国では傀儡政権が権力を悪用してくいものにしてきたのでほとんど居なかったでしょう。そして形骸化して旅行や私事に議員の特権を使うという、「パンとサーカス」で骨抜きにされた議員さんが出てくるという事です。後者は利権を扱う例、前者が正しい権力の使い方であり、必要悪としての利権です。問題解決ついでに出先で旅行土産を買うかも知れません。その姿を見た者が議員になればあちこち気軽に旅行して良い思いが出来る、と錯覚します。例えば土産が一緒に頑張ってくれている協力者への手土産や待たせた謝礼や休みが取れないストレス発散だとしても、周囲の人物の知性次第はそう受け取っては貰えないという事になります。そうなると議員はそういったみやげ関係を買う事も出来ずに厳しいルールで行動する事になり、誰もやりたがらず、そしてその弱味につけこんで利権を扱う事を譲歩させてから平然と利権を行使する、という展開が良く起きます。利権を悪用する人物が居るのはそもそもその人物を選んだのが間違いか居させたのが間違い、という結果になります。そうして他者を排除する争いが始まります。どこでその問題を止めるか、というのが私達が延々と繰り返して失敗してきた問題です。
-->楽して利益を稼ぐためのマッチポンプ
<--自分で火をつけて自分で消火して、消火した時に得られる名声や利益を得るという方法を指します。火をつけた事に気づかれなければ、日常では得られない非常事態に対処した事への報酬を得られます。
ここではあえて火災と地震を扱いました。では生〇保〇は?となります。費用として生活に支障がなければ入った方が得かどうか。権力者の性質次第で考える必要が出てきます。