S103 傭兵って嫌われるよね
サムソンは旅を続けてのどかな平原へと辿り着いた。
彼もきままな旅暮らしをして早数年。故郷でくだらない争いに巻き込まれて逃げる様に出てからというもの、どこかに定住する事もなく、かと言ってあてもなくぶらぶらと気の向くままに西へ東へと旅してきた。
そうしてたどり着いた場所ではある問題が起きていた。サムソンが訪れた村はこじんまりとしていて貧しそうだった。旅人のサムソンにも愛想が良く、普段サムソンが訪れる村々は旅人に対してあまり良い顔をしなかったがここはそうでなかった。
それに気を良くしたサムソンが数日滞在した時に村人から聞いた話では、時折村を襲いに来る連中が居て、そいつらは近くの村の連中だそうで困っているそうだ。
なんでも定期的に襲ってきて村の建物に火をつけて帰るらしい。殺されまいと散り散りに逃げていた村人が帰ってくると、焼け落ちた家を見て悔しい思いをする事になり、その度に家の立て直しに苦労させられるという。
頻繁に焼かれるからしっかりした家も建てれず、不便な生活をしているそうだ。
「私達はここで暮らしているだけなのに、あいつらは私達を追い出そうと攻撃してくるんだ」
サムソンを泊めてくれたティムはそう言って悔し気に項垂れた。その姿を見たサムソンは善良な村人を苦しめる者が居る事に憤慨し、どうしたものかと考えた。
しかし良い案が浮かばないまま2日経った時、村に異変が起きた。
「来たぞー!」
という叫び声が聞こえ、ティムが慌てだした。どうやらまた村を襲いに来た様で、ティムは慌てて持って逃げる事が出来る財産を袋に入れて背負い、サムソンにも「逃げろ」と家から飛び出した。
村を襲われて逃げるしかない村人の姿を見ていたサムソンだが、故郷に居た時はそれなりに武芸に秀でて一目置かれていた。それが原因で故郷を出る事になったのだが今こそ力の使い時だと考えたサムソンは襲って来た馬に乗った悪漢に不意打ちとばかりに組み付き引きずりおろして殴りつけた。
突然の攻撃に驚いた馬に乗っていた男はサムソンの攻撃になす術なく倒れ、それを見た他の悪漢共はサムソンを取り囲みこそすれ、仲間が捕まっている所に馬で押しかける事も出来ずに手をこまねいていた。そんな状況で一歩も引かないサムソンを警戒している悪漢共の睨みつける視線を受けながらサムソンはこう言った。
「村を襲う悪党共!これ以上の蛮行は許さん!こいつを連れてさっさと立ち去れ!」
それを聞いた悪漢共は仲間をひきずりサムソンから離れた後に、「あいつら、助っ人を呼びやがった」と言い残して去って行った。
しばらくして村人が帰ってくると無傷とは言えないが村は守られ、驚いている村人をサムソンが出迎えた。村人は喜びサムソンにこう言った。
「ありがとう!あなたこそ私達の勇者だ。どうかこのまま村に残ってくれないか。頼む。」
サムソンが困った顔をすると村人は必死に懇願し、サムソンもこのまま放置して旅立つのも気が引けたのでこう答えた。
「分かった。あいつらが襲ってこなくなるまで居るとしよう。」
「そうか!ああ、良かった!このまま村に住んでくれ。皆歓迎するよ!」
ガデュインは村の用心棒を受け入れた。こういった契約は楽な方で、傭兵としては三食昼寝付きでしばらく食いっぱぐれる事もないから喜ばしい限りだ、と満足して話し合いを終える事が出来た。
何でも村同士のいざこざで、相手側の村が何の理由もなく襲い掛かってこの村の住人を追い出そうとしているらしい。
胡散臭い話だとガデュインは思う。しかしそれが真実かどうかなど雇われるガデュインには関係なかった。村を襲ってくる連中から村を守る。飯が食える。それだけの話だ。相手が強ければ断るだけの話で、実際戦って強ければ逃げるだけの事でしかなく、ガデュインにとっては村がどうなろうと報酬さえ払ってくれればどうでも良かった。
ケインはこれ以上手をこまねいている訳にもいかないと思うが毎回どうしたものかと頭を悩ませている。少し前に難民が流れてきて、ケイン達の土地を見つけて住処を作り始めた。ケイン達が見つけた時にはみすぼらしいながらも何軒かの住居が出来上がっており、困ったものだと思いながらも代表者と話をした。
彼らは国を追われて流れてきた様で、安住の地を探してここまで来たらしい。それには同情もするがケイン達にも彼らに分け与えるだけの余裕がない。彼らは遊牧民の暮らし方など知らず、広大な土地が誰にも占有されずに残っていたと思い込んだらしく、実際にはそう思い込もうとしたのだろうが、ケイン達に見つかり、他人の土地だとようやく受け入れた様だった。
「しかし土地は空いている。」
それが彼らの主張で、何度遊牧民の暮らし方を説明しても返答は同じだった。遊牧民は広大な土地を家畜の餌になる草を求めて周回するのだ。冬には決まった場所に定住するが、普段は居ない場所が存在して、こうして余所者が勝手に居座る。
彼らにしてみればようやく安住の地が見つかったと思ったところにそれが他人の住む土地だと分かったのだから落胆も大きいのは分かるし、そう主張しなければまた苦しい生活をする羽目になり、最悪は死ぬ事になる。しかしそれを「ハイそうですか」と受け入れる事もケイン達には出来ない。ケイン達にも生活がかかっているのだ。
彼らは彼らなりの生活様式なのだろうが馬や羊を飼うにはそれなりの広さが必要なのだ。彼らにとっても実はその広さでは生活が難しくともどこかに定住出来なければ年老いて旅も続けられなくなるし、旅を続けるのはリスクが大きすぎる。どうにか居場所を作りたいのだろう。
しかし、やはりケイン達には難しい。余所者を簡単に信用する訳にもいかず、まずは小さな土地を憐憫の情で手に入れ、次は家畜、建屋、しいてはケイン達を追い出して乗っ取るかも知れない相手にそのきっかけになるものを与える訳にもいかない。
根気よく話して彼らには一度は立ち退いてもらったが、しばらくするとまた戻ってくる。旅は辛く、そして住むに適した土地があるのだ。恐らくはちょっと自分達に分けてくれるだけで良いと思っているのだろう。ケイン達には迷惑をかけないからほんの片隅に居させて欲しいと、そっとしておいて欲しいと願っているに違いない。しかしそれがケイン達を困らせているのだと気づいていても諦めきれない彼らは目を逸らし続けるだろう。
だから仕方ない。今回もケインは馬に乗り彼らの住居を目指す。放置しておけば居座られる。そうなればケイン達が明日は我が身となるかも知れない。だから彼らを殺すのではなく住居を焼き払う。彼らが諦めてくれるまで何度でも。
「というような事は起きるのじゃろうか?」
「なるほど。現状からはそれまでの経緯が分からない場合がある事を利用して自分達に都合の良い主張を繰り返して周囲を錯覚させようとする事ですね。」
「概ねそう。」
「ある人物の心の中を見る事が出来ず、何を考えているか分からない様に、ある状況を見てそれがどの様な状況から派生したのかが分からない場合が多くあります。ある人物の立ち居振る舞いや服装を見てわずかながらもその人物がどういった性格でどういった経歴の持ち主かを予想出来る様に、状況からもある程度の予想は出来ますがそれ以上の情報はなく、類推する事で補完するしかありません。
つまりはそこに判断する者の判断能力と意思が介入し、事実とは異なる結論を出す事があります。今回の話では恐らく村の住民は自分達のしている事に罪悪感や後ろめたさは感じているが、それを受け入れてしまうと生きていけなくなるので現実逃避したまま、嘘ではないが本当でもない主張を繰り返してどうにか追求の手を逃れようとし続けているのでしょう。『私達はここで暮らしているだけなのに、あいつらは私達を追い出そうと攻撃してくるんだ』と言っていますが恐らくは他者の所有している土地に無断で占有しその事実を隠したまま第三者に状況から見える情報だけを説明する事で、第三者を錯覚させようとしていると思われます。本当にその土地に所有権があるならもっと堂々と戦うなりの行動を取るでしょうし、領主の許可を得ているなら領主に訴え出れば良いだけです。しかしそのどちらも選ばない、というより選べない何かの事情を隠して会話をしています。もしそれが不法占拠であるなら第三者がその事実を知れば、その人物を信用せず罪を追求するかも知れません。事実を話せば追求されて増々立場が不利になるのは分かっているので、正しい事実を話さず、自身に都合の良い部分だけを話して問題から逃れようとする行動を取る者はどこにでも居ます。
そこにはある程度の打算が絡み、自身が騙した若しくは唆したのではなくあくまで相手が錯覚したのであれば『自分は悪くない』と言う事が出来ます。そしてもしその錯覚が、今回の話の様に自分達が善良であるかの様に錯覚して、そして自分達にその場所に居て良い権利があるかの様に錯覚して貰えれば数の理論で相手側に脅威を与えて譲歩を促せる可能性があります。その打算の為に旅人に親切にして、『自分達は善良です』というアピールをして良い印象を与えて相対的に相手側が悪いかの様に見せかける方法が良く行なわれます。
この際にその対応を受ける側にも問題があります。言ってしまえば外部の人間には分からない事情があって争っている場合、外部の人間には情報が不足してどちらに問題があるのか分かりません。ある地域に2つの村があって、村同士で争っているとするなら、その問題がどこにあるのかをその村に訪れた者は知らないでしょう。そうすると村人は少しでも相手より有利に立とうとするので、仲間や協力者を増やそうとし、打算的に自分達がさも善良であるかの様にみせかけて訪れた者に親切にするでしょう。そうやって自分達の評判を上げて周囲に味方をつくろうとするやり方があります。その方法に、それを行った者達の善悪は関係ありません。善良であれば問題があってもなくても良い応対をしてくれるでしょう。劣悪であれば、問題が起こっていない時は良い応対はせず、問題が起こっている時は善良な者達がする様に良い応対をするか、さらにそれよりも良い応対をするでしょう。そこには利益を得るための先行投資としての打算があります。今回の話で言えば、駄目で元々で失敗しても損失がないとも言える行動で、上手く行けば味方を増やして他者の財産を奪う事が出来るのです。善良な者の応対と劣悪な者が利己益を求めて行なう応対のその行為の表面的な部分はたいして違いは出ません。
しかしそういった人物が居ると言う事を知っている者はそこに違いを見つける可能性はあります。あえて良く思われようとする人物はそこに大抵は何かの打算がありやけに親切なら疑うべきでしょう。また、相手の望む言動や態度をしなければ途端に態度を変えるのも打算的に行動している場合に良くあります。
ですが利己的な人間は自身に利益が出るならこういった場合でも利益を与える側に協力してしまいます。その問題自体が外部の者にとってはどちらが本当であったとしてもどうでも良く、自身に利益になるかどうかだけで判断するのであれば、例えそれが嘘でも大義名分に使えるのです。ですので奪おうとする側は、とりあえず場所を占有する状態を少しでも長くして周囲に自分達がここに長く住んでいるのだというアピールをまず行い、その実績を作り、徐々にどちらの言い分が正しいのかを判断しづらくしていく事が出来れば成功と言えます。その結果として定住出来てしまえば、本来の持ち主に批判されようと確たる証拠がなければ相手の言い掛かりだと主張出来てしまいます。
この際に利己的な人間は不正を行おうとする側にとって利用価値がある存在になります。利己的であろうと第三者であり部外者です。その部外者に利害関係があるかどうかは分かりにくく、その事実を知らなければ中立的で客観的な意見を言っている様に周囲は捉える事があります。ですのでそういった人物に報酬を払って、嘘であろうと情報操作して周囲を騙して味方につけようとします。また、そういった風説の流布を使った方法以外にも数の理論で押し切る方法があります。
今回の話にある様に、自分達に都合の良い存在を仲間にして村に居させる様にすれば数を増して力をつける事が出来、その脅威で相手側に譲歩を促す事が出来ます。それが例えば旅人で定住先を探しているのなら定住先を提供する約束で味方につければそれだけで数を増やす事が出来ます。旅人は住む場所を得られ、不正をする村人は自身の持ち物でもない土地に定住する権利を悪用するので失う物はなく、上手く行けば自身が不正に占有している土地の権利も手に入ります。そこに多少の費用がかかろうと手に入る利益、そして占有している状態を失えば生じる損失、最悪は破滅ですがそれに対してのコストパフォーマンスはかなり良く、惜しむ事はないでしょう。その態度を善良な村人が親切に応対してくれていると錯覚してしまうと騙されて悪事に加担する事になります。
そしてこういった場合に問題になるのが利己的な人物が一時的にでも仲間として協力する事で、傭兵などがそうです。彼らは食い詰め者であり、その日暮らしで生死のリスクが高い者達であり、仕事を選んでいられる状況はあまりありません。ですので依頼者の事情などはどうでも良く、自身が生活出来るか、依頼で死なないか、依頼で更に不利な状況にならないかといった事しか判断材料にしません。稀にモラルのある者もいるでしょうがそれに期待出来ません。
すると傭兵を雇う側が不正に場所を占有しているなどの犯罪行為を行っていたとしても自身の身の安全が確保されるなら傭兵は関係無く雇われるので治安を悪化させます。
しかし同時に抑止力として人数が必要な時には臨時に雇う事が出来る存在でもあります。しかし傭兵に頼るようでは普段から問題を抱えていると言えます。しかし数で不利になっている場合に相手側の積極的な行動を抑止するには一時的にでも数を増やせる傭兵は有用になり、また、一時的に雇うという事は普段の維持コストが掛からないという利点もあります。しかし傭兵のモラルやマナーをあてにする事は出来ずそういった存在が内部もしくは近隣にいる事は治安の悪化を招きます。
傭兵の様な存在は日常の中に居ないのかと言えばそうではなく、分かりやすい例では弁護士などの雇われて交渉や手続きを代行する者がそうなります。社会の中に犯罪行為であろうと弁護する者が居てはならない為に高いモラルやマナーを必要としますが、やはりこういった職に就く者でも生活はしなければならず、生活する為にモラルやマナーを欠如させる事があります。依頼の失敗は評判に関わり次の依頼を低減させてしまうので正しいか正しくないかより成功するかどうかが重要になり、また、生活しなければならない為に利益になるかどうかが優先されます。また、弁護を必要とする者は権力者や資産家が多く彼らとの付き合いの関係上、彼らに不利になる言動は以降の依頼の増減に関わるのであまり取りたがりません。
こういった職は悪用されやすく、そして悪用する為にモラルやマナーを欠如させる様に環境そのものを操作する事があります。例えば弁護士は弁護する側を勝たせるのに尽力しなければならない、という間違いを競争社会では植え付けられます。正しくは状況が的確に判断されて不当に利益や権利を侵害されないか弁護するのが役割です。それを状況を曲解してでも不利な条件を低減させたり、場合により違法であっても罰せられない様にするなどが役割だと思い込ませる事で良い様に利用出来ます。
その状況を作り出すのは簡単で、単純に権力者がそういった者達を雇うだけで良くなります。彼らも生活しなければならず、客観的に判断して依頼を達成したとしても次の依頼につながらなければ生活出来なくなります。そうなると生活する為に譲歩せざるを得なくなります。すると権力者はより多く譲歩する者を雇うだけで良くなります。人数を増やす事で余らせて依頼不足にする事で譲歩を引き出し易い環境を作ればそれだけ都合の良い人材が手に入り、また、普段から争う日常を作り出して、勝ち負けで明確な差がつき、勝ってしまえば違法でもルール違反でも正当性が得られて大義名分が手に入る環境にすれば、そういった人物は自身の行為行動が役割から離れていっている事に気づきません。そして依頼者が勝つためには客観的な判断よりも情報を曲解して都合の良い部分だけを取り扱う商人と同じ方法を行う様になります。
元々、弁護人はそういった社会権力による圧力に対抗できるだけの資産がある者しか出来ませんでした。多少の圧力を掛けられても貯蓄があれば影響も少なく、だからこそ客観的な判断で弁護が出来ました。しかしそれを主な役割として生活の為に行うのであれば簡単に権力に屈する事になります。生活の為ですから正しい正しくないは後回しになり、利益が出るかどうか、権力者に目を付けられて干されて依頼を受けられなくなったりしないかなどが優先する様になり、元々の役割に付随する概念は欠けてしまいます。
稀に社会権力を相手取ったとしても屈しないでリスクを受け入れる者も居ますがほとんどがそうではありません。弁護士という職に一定のステータスがあり高収入だからしているだけの者にモラルやマナーを期待するのが間違いです。その夢見た高収入という理想を維持する為にモラルやマナーは放棄されるのがほとんどです。ですので実際問題として弁護士が弁護士として機能する場合は、問題に対して対抗出来るだけの立場を持つ場合だけです。相手が権力者であれば容易く屈し、逆に自身の後ろ盾に権力者が居れば高圧的になり、相手が権力者でも対抗する時は、リスクバランスの結果として利益が上回るか依頼者とその関係者のどちらかに相手と同じだけの権力を持つ権力者が居る場合だけです。
社会そのものの本質が変わらず戦い方が変わっただけの場合、爪や牙で戦っていたのが剣や弓、更に銃火器に変わっただけであった様に、爪や牙の代わりに知識を武器として用いて理論武装し戦うだけの社会になります。このような社会では相手に勝つために、普段の生活であまり必要としない為に法律を熟知していない者は相手に勝つための方法をあまり知らない為に弁護士を雇って不利にならない様に対処します。そして弁護士になる者も勝ち負けが重要視される事に加えて自身の生活にその勝ち負けが影響するので事実と異なっても曲解した内容で話を進める事になります。あえて不利になる部分には触れず、有利になる部分だけを取り扱い、相手側が不利になる部分を指摘しない可能性を頼りにし、かつ不利な部分を良く見せようと脚色して弁護する様になります。それが実際には客観的ではない事は知りつつもそうしなければ依頼が受けれず生活が出来ない為にそうせざるを得ず、そうする事に疑問も抱かない者ばかりが重用される様になります。すると社会の中での成功者としての弁護士は担当した人物の善悪関係なく出来る限り有利な結果を得る人物という事になり、結果として、社会を潰しながら利益を貪る権力者にとって都合の良い駒になります。
では一般人はどうでしょうか。普段からの行動がどうであるかが問題になり、普段の生活の中で自身に利益になるからと言って、客観的な判断もなく利己益を追求して味方になるかならないかを決めていると問題になります。もし利己益を追求して行動しているなら大抵の場合、不正を行っている側の味方になる事になります。理由は簡単で、不正を行うと多くの利益が得られ、不正をしなければ通常の利益しか得られません。すると不正を行って利益を得られる者はその中の一部を費用として支払っても充分手元に利益が残ります。しかしその相手となり不正を受ける者は生活に必要な費用とは別に費用を捻出しなければなりません。そうすると払える報酬額に差が当然出来、利己益を追求する者は自然と不正をする者の味方をする事が多くなります。今回の話で言うなら、土地を不法占拠した結果として土地が得られたならその利益は大きく、その為の費用として傭兵を雇うのは充分選択肢に入り、また報酬額も大きく出来ます。しかしそれに対する不法占拠する者から土地を守る側は、どこにも新たな利益がありません。生活を続けていく中で、人口の増加で資源の分配も限界になっているでしょうから普段からの蓄えがなければ同じ様に傭兵を雇って対抗するにも限度があります。
こうして利己益を得る方法は自身の事だけ考えるので効率が良く、他者の事情は考慮しません。利益を得る機会も多いのでその様な行動をしない者よりも競争で優位に立つ事が出来ます。しかし、自身が何をしているかをはっきり分かっているとは言えません。そうやって利益を得てきた事実と、同じ様に利益を得る者が優勢になる状況というのは、もし自身がこれまで関わって来た問題と同じ様に誰かに不正行為で権利や財産を侵害された時に、敵は奪う目的になる財産に見合っただけの数が現れ、味方になってくれる者は敵になって得られる利益よりも高い報酬で雇われる者だけであり、自身が何かの不正行為やそれに近い方法で利益を得続ける事が出来ない限りはいつか必ずかつて自身が利益目的で他者の不正行為を容認してきた様に不正行為を容認される事になります。
勿論そんな大きな問題でなくとも構いません。普段の何気ない小さな出来事でも、利己益を得られるかを考える者達で構成されていく様になり、客観的に正しいかどうかが判断基準ではなくなり、利益が得られるかどうか、利害関係の一致する者かどうかが判断基準になり、仲間なら大抵の発言は正しいと受け入れ、仲間以外なら自身に利益を齎さないなら正しくないと判断する様になります。すると仲間でないなら加害して良いと考える様になり、相手が弱みを見せるとそれにつけ込む様に加害し、更に少数であるという事は弱者であると考え、数の理論で加害する様にもなります。その行動原理は知性によるものではなく欲望を基にしたものへと変わり、爪や牙の代わりに知識で理論武装した獣でしかなくなります。
そういった社会にしない為にも、利己益を求めて他者の味方をする行為を選択しない様にする必要があります。もしその選択をして誰かの利益を不当に奪う事に協力したのなら、近い将来自身も奪われる側になる結果が待っており、かつての自身が単に運が良かっただけであったのを後から知ったからといって何かが改善される事はありません。一度劣化させた環境はその環境を維持するコストと改善していくコストがかかり労力は大きくなり、元の環境が誰かの才能で作られたもので自身は与えられただけなら元に戻す労力は計り知れないものになります。その誰かと同じだけの能力を得て元に戻すか他の誰かに戻してもらうかのどちらかになり、どちらも簡単な事ではありません。
しかしそうやってモラルやマナーやルールを守っているとそういったものを守らない者に差を付けられ競争に負け、そして不正行為で利益を奪われる結果になりやすく、肝心なのは社会の中にそういった利己益になるなら不正行為だろうと容認する者を居させないようにする事でしか根本的な対処が出来ない事です。利益を大きく得るにはそれだけ大きな差が必要です。モラルーやマナーを守る者が多ければ多い程、モラルやマナーを守らない事で得られる利益は大きくなり、その誘惑に負ける者の存在は社会が高度さを保ったまま維持向上していく事を阻害する要因になり、発生させると社会は劣化して高度さを低下させ、またやり直しになります。」
エールトヘンは締めくくる。
「高度な社会はそれだけ役割分担が特化する事になり、専門知識は増え、自身の分野だけでも能力の限界に近くなる事もあり、他者の行動に注意を払う事が難しくなっていき、それだけ個人の裁量が大きくなってしまいます。しかしそこに利己益で自身の役割を曲解して行動する者が居ると社会は正常に機能しなくなっていきます。高度な社会になればなるほど制限が多くなり、個人に許される裁量の範囲は狭くなっていきます。それを理解せずにいつまでも役割が与える自由度を悪用して利益を稼ぎ続ける事は社会が高度さを維持し向上させていく事を阻害している事になります。ですので社会に属する社会人には常に自制が求められます。グローバルメリットの正しい使い方やそれを維持する為に必要な条件、してはならない行動などを教育しながら育てる必要があります。それを怠って単に役割の行動部分だけを教えると、欲望の制御が出来ずに気づいていても気づいていなくてもルール違反をして社会を混乱させる様になるでしょう。
また、正しい教育の機会の喪失は客観的な知識や考え方を手に入れる機会を失う事になり、より主観的な行動をする者を増やす可能性があります。
お嬢様は貴族です。民が利己的な人間に育って社会に混乱を起こす様な者にならない様に、民が進むべき方向を指し示して導く必要があります。その為にもさあ、今日も頑張りましょう。」
傭兵の様な存在-->高収入->弁護士
-->定収入->ガードマン
どちらも基本的に権力者から見て使い捨てです。
相手の鉄砲玉を防ぐ盾扱いです。