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紫光院高校野球部はホテルに到着。
甲子園に出たときには必ずお世話になっているホテルだ。
到着したその日に練習はなく、部員たちは自由時間をもらった。
「おい、どうした?」
外に出ようとする神楽を部員の一人が呼び止める。
「ああ、ちょっと外へ。すぐ戻る」
「気をつけろよ」
足早にホテルを出ると、バスに乗った。
神楽裕也は外を見た。
見覚えのある景色が、どんどん後ろに流れていく。
特にこれといった感慨も起こらず、バスに揺られ続ける。
他の部員たちが何をしているの、それは全く気にならなかった。ホテルのゲームコーナーに行く奴もいれば、部屋にこもってイメージトレーニングをしている奴もいるだろう。
他の奴等が何をしているか、自分が知る必要はない。人のことはたいして気にならない、そんな性格だったはずだ。
――なのに。
それなのに、天玄堂との試合に負けたことが忘れられない。
とくに、神代に打たれたことが、何度も頭に浮かんでくる。
忘れようとして頭を振っても、ダメだ。ただひとつ、厳しい練習に音を上げそうなとき、その試合が思い浮かぶと、悔しさとともに力が湧いてきた。
他のメンバーが倒れそうになっているところに、一人だけ立ち上がり、身構えることもあった。
でも、いつもは余計なところで、奴が目の前でちらついてくる。
実に迷惑な話だ。
ふと、外を見る。目的地が近づいてきた。
バスを降りる。
人の少ない通りを歩く。
歩いていくと、大型の建造物が見えてくる。
その建物には、おなじみの草かずらと名前。そう、甲子園球場だ。
神楽裕也は球場の前に立ち、見上げた。
ここで野球をするために、全国の高校球児が厳しい練習をこなしているわけだ。
どういう力があるというのか。
こうして見ると、ただの老朽化した野球場なのに。
なのに、どうして、惹きつけられるのだろう。どうして、毎日の辛い練習に耐えようとする力が湧いてくるのか。
自分も人のことは言えない。
練習を続け、甲子園出場を決めたときは、周りの目も気にせず喜んだではないか。
いや、違う。
最初がそうだっただけ。
春のセンバツで投げる頃までは、甲子園出場だけを目指していたものだった。
違うのは今年だ。