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太陽が強い日差しを注いでいた。
甲子園のマウンド上では、地面からの照り返しと、空からの 日差しが容赦なく襲い掛かってくる。
だが今は、春のセンバツ甲子園大会の三回戦。
暑い。
真夏のような、この暑さはなんだろう。
手の甲で額の汗を拭い、顔を上げる。
本来なら、世間ではまだ寒く、ようやく暖かくなってきたかという時期なのに、甲子園では夏みたいに暑く感じる。
球場の熱気?
精神的なもの……いや、原因なんか考えても意味はない。
アルプススタンドからの応援が遠くに聞こえる。
試合開始時には、自分の耳の近くでやっているかのごとく、騒々しく感じたはずなのに。
息をつき、構える。
相手チーム、天玄堂高校のバッターは神代将一。九番ピッチャーながらも長打のある選手だった。
ピッチャーマウンドに立つ自分……神楽裕也は、バッターに対して立ち向かわなければならない。
試合はまだ続いている。
交代はない。
投げ続けて疲れていても、今、マウンドに立って投げられるのは自分しかいない。
そして、それが厳しい練習で勝ち取った地位でもあるわけだ。
ここに立ちたくても、立てない連中がベンチ、またはスタンドから声を出しているのだ。マウンドで投げている以上、彼等に情けない姿を見せるわけにはいかない。
一打逆転のピンチ。
紫光院高校はこういった場面で確実にチャンスをものにし、勝ちを拾ってきた。そして、ギリギリのプレイをしていながら、ルール違反はせず、勝負どころでは逃げないで必ず勝負し、勝ってきた。
今回もそうだ。
キャッチャーからのサインが出た。
そのサインにうなずく。
神代が、バットを持ち、構える。
息を吸い、ボールを握る。
相手のアルプススタンドからは、ブラスバンドに乗せた応援が聞こえる。
振りかぶる。
神代が気迫十分の構えで、バッターボックスに立っている。
思い切り投げるだけ。
息を整え、投げる。
指先からボールが離れた。いい感じだった。自分でも、これ以上ない球が投げられたはずだ。
快音。
バックで守っているメンバーの声が耳元を通り過ぎる。
投げた投球は、打ち返された。振り返ることはできなかった。快音だけが耳に残っていた。
確信できた。振り返る必要などなかった。