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ジャスティスの衝突

今回は特に、グロテスクな描写があります。

お気を付けください。

 車は、電波塔を目指して進む。

「走りながら説明する、これはおそらく最終決戦だ。

遼子、いけるか? 」とスター・ゴールド。

遼子は「もちろん」と言い、口をきつく結ぶ。


 「こちらとはちがい、DD社は既に崩壊している。

『データディメトロン』の開発者は自殺、社長は警察により拘束。現在も『ディメトロン』の効果が残っているのは、塗料に含まれているから。それと、『ディメトロン』の工場や、それを散布するヘリコプターの飛行場にコンピュータから指令が出されているのにすぎない。

DD社の鍵は開かず、外部からのハッキングも効果が無い。

それは全部、コンピュータの管理者のせいだ。

今回は、そのコンピュータの管理者からの挑戦状だな、倒すか倒されるか、それで決まる」

スター・ゴールドは遼子の方を見ない。

「そこまでは、理解したわ。それで、『アグレッシブ』――修造がアジトの防御、司令官が私の補佐というわけね」

遼子は、スター・ゴールドの背中に向かって話す。

「そうだ。今日は『ディメトロン』の散布量が多い。コンピュータの管理者も本気なのだ」

スター・ゴールドは冷たい声で言う。

「今までは、管理者を叩けなかったの」

遼子は、質問しない。断定する。

「恥ずかしながら、消息がつかめなかった。そして今回も完全ではない。『二番目に古い電波塔』『空を貫く』というキーワード。『二番目に古い』と言っても、いつからか。現存する中で二番目なのか、それとも歴史の中での二番目なのか。『空を貫く』は物理的か、それとも比喩か」

スター・ゴールドは妙に早口だった。

「分からないから、可能性の高い所を叩くと。しらみつぶしに、電波塔の跡地も含めてか」

遼子は言う。

「そうだ、この宣戦布告自体がフェイク、虚偽の可能性もある。

もしそうなら、またやり直すしかない」

そして、車は止まる。

「それじゃあ」

遼子は、ボンベとゴーグルをつけて、車から降りる。

「待て、これも持っておけ」

スター・ゴールドは遼子に警棒を渡す。

ライト代わりにもなる、赤く光るものだ。

自動ドアが、開く。


 「しかし、暗いわ……」

遼子は独り言を言う。

ゴーグルは、デフォルトではきらびやかな世界を見せる。

しかし、『ディメトロン中毒者』がいると、その人の見る景色を映し出す。

今回の中毒者は、たぶん『現実』を見ている。

照明を落とした、電波塔の風景自体を。

ただ、遼子の持つ「警棒」だけは「光る剣」として視覚化されていた。

遼子は、エレベーターを見る。

電源が付いていず、動いていないようだ。

「仕方ないな」

遼子は、エスカレーターを上り始めた。


 「……え? 」

階段に映る、自分を見つめて遼子は言う。

「私、こんなに美人だったっけ」

何となく、自分自身が鮮やかに見える。

普段より色白で、そして血色はいい。

なにより、「ミッション」の中で疲れた様子が見られない。

「『ディメトロン中毒者』は、私のことをこう見ているというの……? 」

そう、考えつつエスカレーターを上ると、何者かにかまれた。


 化け物だった。耳が傷つき、赤くかさついている。

しかし、絵のように画像が荒い。そういう犬。

遼子はその犬に見覚えがあった。

私が拾ってきた、犬。

優しい人に、引き取られたはずなのに。

「幻想だ、気絶させなきゃ」

彼女は警棒を振り回す、しかしそれは剣に見える。

強すぎないよう急所に警棒を当てた、はずなのに血が飛び散る。

遼子はそれを見ないようにして、駆け上がった。


 「どうして、あの子が」

遼子は少し焦っていた。

エスカレーターを上り続ける。

「『ディメトロン中毒者』そして、コンピュータの管理者は私のことを知っている……? 」

少なくとも、あの犬のことを。

室内は、明るくならない。

最低限の電源が、ぼんやり輝いているだけ。

「少なくとも、『ディメトロン中毒者』は現実に近い風景を見ている」

遼子は落ち着こうと思い、もう一度考える。

「そして、私の飼い犬の事を知っている」

そして、遼子はふと、修造の言葉を思い出す。


 「それが、調さんの理想の『ディメトロン中毒』だったのだろう。

現実には、色々なパターンがあるからね」

修造は、こういったのだ。

「理想と違う、『ディメトロン』中毒……? 」

遼子は色々なパターンを見た。

そのまま、きらびやかな繁華街。

古代と中世がまじりあった景色。

温かく、優しい家族との日常。

時には、辛いものもあった。

「強くなりたい」と魔物と戦い続ける光景。

いじめられた風景、『中毒者』は「それでも人がいる」と狂ったように笑っていた。

それから、いろいろ。

「相手は、コンピュータの管理者。現実の風景でないと、困る。」

しかし、それだけなのか。

「なぜ、私は美人に見える? なぜ、飼い犬が出てくる? 」

遼子は、考えようとする。

「寂しかったから、飼い犬を出した」と。

「それだけではない、もう今回のターゲットは分かっている」

遼子は、そこまで考えて、考えるのをやめようとする。

飼い犬だった存在を、傷つけるだけでも彼女は焦った。

「考えたくない、でも逃げては戦えない」

考えは止まらない。

「今回のターゲットは、たぶん私のお兄ちゃんだ。

ゴーグルの中の理想と、実際の中毒の現実。

それから実験動物にされた飼い犬。

だとしたら、お兄ちゃん――明月変 調は。

多分、戻ってこれる。この世界は綺麗ではないから」

遼子は考えを固定した。そして、展望台へと着いた。


 そこにあったのは、惨状。

血だまりと、肉塊。

何かが腐ったような、気持ち悪さ。

そして、その肉塊の一つが、うごめく。

「やぁ」

笑い声、いや嘲笑う声か。

「俺はデウス・エクス・マキナ。『機械仕掛けの神』ってわけさ。」

遼子は動けない、風景のおぞましさに立ち止まる。

「こんな世界で、キミは一人美しい。

だけど、もう終わり、キミは動けない。

俺以外の皆が、素晴らしく綺麗な悪夢を見る、それで終了さ」

遼子はそんな会話をあしらう。

「長い会話、お疲れ様。肉塊が機械? 笑えるわね」

そして、光る剣を近づける。

右手に、剣。本当は、警棒。左手に盾ならぬ『アルカミレス』散布機。

肉塊は何も対抗手段を持っていない。

「甘いね、あんたたちは本当に詰めが甘い」

どこを突けばいいのか、わからない。

肉塊は剣を包み込む。

「さぁ、あんたにだけは本当の悪夢を見せてやるよ……」


 点滴の管が見えた。しかしそこは、病院では無かった。

リノリウムの床、しかし塗られていないコンクリートの壁。

「美しく、見えるかしら」

栗色の髪の女性は笑う。

「はい、もちろんです。いつもよりもあなたは綺麗です」

男は、微笑む。

女性のメガネがきらり、と光る。

「今までの実験で、脳に形質的な異常はみられず、脳波は正常。

日常生活も、良好」

そして、コンピュータに何かを打ち込む。

「あの」

男は言う。

「コンピュータ、ハッキングされたりしないのですか? 」

女性は言う。

「その可能性は、ゼロに近い。なぜなら、あなたが設計したから」

そして、男をのぞき込む。

「ずいぶん信用していらっしゃるのですね」

男は彼女から、目をそらす。

「そりゃあ……『計画に乗らなければ、妹を人質に取る』約束。

あんたは乗らないはずが無い」

むりやり男の目を開かせ、女性を見るようにと仕向ける。

「あなたは、強くなったの、妹を守れる、救世主。

もっと、強くなりたい? 」

淡々と、言葉で攻めていく。

ぺらり、男のシャツをめくる。

「少なくとも、私にとってあなたはそう。

貴方は救世主で王子様。この計画のね」

男は、ひきつったように笑う。

「そりゃあないですよ……母さん」

そして、男は栗色の髪の女性の首を触る。

両手で、力は込めないで。


 世界は移り変わる、おそらく男視点で。

般若のような顔の女性、鏡に映る男の画質は荒い。

男には、見えない。

白い靄がかすみ、男の顔はゆがんでいる。

「本当の、ことを言います。」

それでも男は言う。

「あなたは、般若に見えます。

『ディメトロン中毒者』の視界を再現したゴーグルで見た、

妹の写真の方が、綺麗すぎて怖い。

そして俺は、どんどん壊れていく。

もう自分が分からないのです。

無理やり強くされたって……これは幻想でしょう? 」

そして、声をあげて笑う。

「それなら私は、その計画を作り上げた意味はない。

どうして今まで黙っていたの? 」

般若の仮面は壊れない。困惑した声なのに、笑顔は固定されている。

男は、言う。

「復讐のため、ですかね。それくらいしか、俺にできることは無かった」

顔を伏せる、しかし床に写るのは判別できない肉塊。

「それなら、私は……! 」

女性は、外へ飛び出した。


 栗色の髪の女性が、自宅で亡くなったという新聞記事。

そこには、「DD社の研究員 自殺」と書いてある。

床には「大量の睡眠薬」がころがっていたらしい。


 再び、肉塊と遼子。

遼子は肉塊の付着した剣を振り回す。

「それがお前の正義なら、これが私の正義!

何が『出来る事』か! 私だって戦える!

私の事なんて気にせず、『アルカミレス屋』に申告しておけば……。

こんな廃墟、見なくて済んだの! 」

アルカミレスは散布される。

肉塊は消えていく。それでも男の姿は見えない。

「だったら、お前が死んでもよかったというのか?

あいつは……女性は、母さんは! お前のことを嫌っていた!

だから、お前が生まれてからほとんど家に帰らなかった、

だから、俺が犠牲にならなければ、お前は……遼子は死んでいた」

白い靄と、男の声。

靄に向かって突き立てられる警棒。

「私なんて死んでもよかった! 裏切り者!

私は寂しかった、それだけで辛いわ! 」

靄はゆらぐ。

「それは、本当にすまなかった。

だけど、遼子は死んではいけなかったんだ。

遼子……お前は何人、人を救ったと思っているんだ? 」

遼子は叫ぶ。

「わかるはずはないわ! ばらまいたのが『アルカミレス』であるという証拠も! 」

靄は消え、男の姿が見える。

「俺はここから、すべてを見ていた……。

たしかに、遼子は世界を戻した。『俺の負けだ』『おやすみ』」

そして、男は倒れた。


 エレベーターとエスカレーターの電源はすべて復旧した。

遼子は、スター・ゴールドとともにアジトに戻る。

そして、修造・逸志・千代子とともに、『日常』が存在する街へと移動した。


この長文を読んでくださり、ありがとうございました!

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