ディメトロンは合法だった
千代子と逸志を保護した次の日、遼子はすることが無かった。修造と司令官は、千代子と逸志の検査を行っている。「訓練は禁止、部屋には閉じこもるな」そんな指令が与えられたが、行くところは特にない。もちろん、地下から出ることは禁止だ。遼子は、とりあえず資料室に行くことにした。
一冊の資料をめくる。司令官「スター・ゴールド」が自らの日記をもとに再構成した、データディメトロンの影響についてである。
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206x年 2月
私の今住んでいるこの都市は、大幅な塗装工事を必要としている。基礎・建物の素材は、まだ持つのであるが、この街はとにかく見た目が悪いらしい。
塗装が剥げていたり、落書きがしてある。
そこで、この都市の知事は塗装工事を「DD社」に委託した。談合などはせず、公正に選んだとは報告されているが……。
2072年 4月
交通事故が急増しているらしい。議会は交通規制の強化と、歩行者の教育で対応すると、新聞には書いてある。 夏には、外国人も多く訪れるあるイベントも行われるのに、大丈夫なのだろうか。
2073年 7月
この街は、空前の「塗装ブーム」だ。
よりカラフルに、無節操な色合いになっていく。
しかし、議会も知事も政府も、その状況を規制しない。
「ここは革新の地だ」そんなことを言っている。
交通事故の急増は、おさまらない。
2073年 12月
そういえば、交通事故は「DD社」の塗装ブームから急増し始めた。何か関係があるのだろうか、私たちで調べることが必要である。
2074年 1月
医薬品企業の友人「静冷院 冬樹」に、密かに「DD社」の塗装を調べてもらう。結果待ちではあるが、もしも問題のある結果が出てしまった場合には、静冷院と親しい教授にも訴えてもらうつもりだと言っている。
2075年 1月
「DD社」の塗装の中に、かつて規制されもう発売されていない「シンナー」と似た構造が見受けられた。
静冷院と親しい教授に訴えてもらい、第三者機関でも捜査した結果、そのことが確定したのだ。
なぜ、この事実は隠されたのだろうか? 見過ごされたのか、それとも別の何かか。
2075年 4月
私の住んでいる街は、混乱した。
この都市には、避難勧告が出され、逃げ出せる者は逃げ出した。
ただ、「DD社」の塗装の効果を受けていたり、体が弱いものは簡単には逃げ出すことができない。
私はそのような人たちを助けるボランティアに参加していた。
2076年 5月某日
「DD社」の塗装に含まれる成分は「データディメトロン」と名付けられた。「都市に対抗するもの」という意味だ。
静冷院たちは、その薬品の対抗薬「アルカミレス」を開発した。「錬金術」という英語を並べ替えた名前らしい。
私は、政府や静冷院に頼まれ、この薬品を残っている人に散布する役目を負うことになった。
自分が住む周りの、電気・ガスなどのインフラや食料は提供される。頑張って行かないと。
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この後に、「静冷院 冬樹」の息子の「静冷院 修造」が仲間に入り、「明月変 遼子」が拾われたりすることになるのだが、それはまた別の話だ。
「こんなところにいたのか、ダークムーン・アスカ」遼子は振り向く。そこには、司令官がいた。「検査は終わったよ! 一緒に遊んで―!! 」屈託なく笑う千代子。逸志は少し疲れた様子だ。「まあ、良いわよ」それを聞いた途端、逸志がいきなり元気になる。「それなら、修造の部屋に行こう! ゲームの勝ち方、教えてくれたんだっ! 」司令官は呆れた様子だ。「お前たちは……なぜコードネームで呼び合わないんだよ……。格好いいと思ったのに」どうやら、この組織にコードネームがあるのはそれだけの理由らしい。その後、遼子は逸志と千代子を連れて、修造の部屋に向かったのであった。