アルカミレス屋の絆
車から、保護した少年と少女――佐藤 逸志と日立 千代子をおろす。本来なら、細かく検疫、つまり健康チェックなどをしたいところではある。しかし遼子と修造は、まずは彼らに食事を与え、入浴させ、眠らせることにした。信頼関係を少しでも築くためである。
「これ、まずい。味しない」しかし、修造と遼子が、逸志と千代子に与えた完全栄養のスティックは、非常に不評であった。特に、逸志には。このスティック、口当たりはいいのだ。カリッとかじることができ、ふわりと溶ける。しかし、味が無いのだ。水のように、いや水以上に甘いとか、酸っぱいとか、しょっぱいとかの味がしない。「栄養のバランスが良すぎて、すべての特徴を打ち消しているのでは」というのが、遼子の感想である。そうであるため、修造も遼子も「我慢しろ」とは言えなかった。
「データディメトロンの幻想に包まれていた時には、お肉もご飯もお野菜も、皆食べられたのに……」千代子までぽつりと言う。修造は千代子に言う。「すまない、しかし君たちがそのまま死んでいくのを見過ごすことはできなかった。」そう、幻想に包まれたままでは皆死んでしまうのだ。
「あ、あった! 」遼子が言う。「あったわ、塩よ。こっそり医療班の生理食塩水を乾燥させたもの!! 逸志、千代子。これをちょっとあげるわ! だからいまは……許して」そして、遼子は瓶に入った塩を渡す。「医療班の生理食塩水、数が合わないと思ったらお前だったのか! まあ今はいい。後で始末書出すぞ、逸志、千代子。俺からもこれで許してくれ」苦笑しつつ、子供たちをまっすぐ見つめる修造。「え、ありがとうございます……」おどおどしながらお礼を言う千代子。逸志はまだ何か言いたそうであったが、黙ってビンを受け取った。
「あのなぁ……逸志。お前はもう少し謙虚になれ。んで、千代子。お前は逆だ。叶えられないことも多いがもう少し素直になれ。ため口でもいい、これを食べ終わったらシャワー室に行くぞ。当然男女別だ、そこは安心しろ。」修造が呆れたように言う。
そんなこんなで、逸志と千代子を保護した一日は終わったのであった。