表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

うまくいかない

作者: 佐伯

右頬が痛む。いや、左脇腹。いやいや、全身が痛い。入店初日に俺はルール違反をやらかした。通常ホストクラブは永久指名制をとっている、らしい…。ヘルプについたキャバ嬢風の娘が俺を気に入ってくれた。と言う勘違いにより「今度指名して、よろしく!」などと…ふざけた事を。いや俺は真剣だったのさ。でも、先輩達の痛い視線を俺は気づかなかった。

で、この有様だ。


「んー、やめて。」

女性の声だ。どっこいしょ、いててて。俺は起き上がり声の方へ…。

女性が襲われている。「待ちな…女性が嫌がっているぜ」歌舞伎の様なポーズで決める。男はぽかんとしていた。

「あの…誰?ずいぶん怪我しているけど。」「気づかいは無用だぜ、暴漢。そのうす汚い手を離せ!」男は舌打ちをする。「変な奴。もういいや…」ただのナンパなのによ。と男は付け足す。

「助かって、良かったね。」とびきりの笑顔を女性に向けた。それが今日の最後の記憶。


俺が目を冷ましたのは、知らない場所。二日酔い。それと、知っているかい、殴られすぎると熱が出るんだ。ダルかったるい感じに、俺は背中を起こす気になれなかった。額を触ると冷えピタ、頬にガーゼで傷の処置がされていた。なんか全体的に…。目を周囲に這わせる。女。女がいるぞ。

「目を冷ましたんですね…」ふうと一息吐くと、「良かった…」

「君は誰だ?」酷い声。「あなたは、私を助けると、そのまま倒れたんですよ…」心配そうだ…俺なんかほっとけばいいのに。「ありがとう。助かったよ…それにごめんな、俺よくKYって言われるからさ」「ホントは余計な事したってわかってる」そう言う、俺の手を彼女はギュッと握った。「そんな事、ないよ…私。あの時怖かったから…」

その言葉に、ちょっとすくわれた。「ありがとう。帰るな。」怠い体を起こす。「む、無理はしないで…」

冷えピタを剥がしポケットにしまう。「バイバイ」玄関を開けると日が眩しい。

二日酔いの頭で、街に繰り出す。


ホスト辞めるのは、大体三ヶ月なんだ。理由があって、そこまでは、売り上げがなくても保証給が入る。月ベースで12万。それが今は0。指名はなかったがヘルプと雑用で何とか食えていた。皿洗いもゴミ捨ても積極的にやった、先輩にも媚びに媚び、指名はなかったがヘルプで何とか食えていた。


「ども、お疲れっす。」へこへこと頭を下げ店を出る。深夜2時。

汚れたスーツ、洗い物で荒れた手。ホストっぽくないなと、思う。でもいいんだ、ニヤリ。

ネオン街を抜け、彼女のアパートに向かう。

「美緒ちゃんー」寝ている彼女にキスをする。

ん。寝返りをうつ彼女。

彼女が用意してくれた晩ご飯を食べる。添えられたメモ紙の『お仕事お疲れ(ハート)』が嬉しくて、にやけてしまう。ホント幸せ、ずっとこれが続いて欲しい。



でも、ダメだったんだ。


別れを選択した。それで、ホストも辞めた…実家に帰る、そうしたんだ。


駅のホーム。(帰郷の為)

「ごめんね。美緒ちゃん…俺がみんな悪いんだ」「ううん、」彼女は首を振った。「でも、誓って。あれは浮気じゃないんだ、枕営業って言ってね。ああ、やってお客を…。ごめん、同じだよね?」「うん」


汽笛が鳴る。


2人を隔てるドア。


(おわり…だな…)


トン。始動の揺れ、景色が左に流れてゆく、(さよなら)

よく聞いたラブソングのフレーズがイヤホンから流れた。


【終わり】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ