術と四大術
2013.10.21割り込み投稿
2013.10.22修正
セイヤは思い出した。術の事を。
『術』とは、いわゆる魔法の事であり、いわゆる剣技などの技の事でもある。
技能や技術・魔法などの能力を一切合切まとめて『術』という。
・剣技が主な『剣術』
・体術が主な『武術』
・魔力を使い属性攻撃が出来る『魔術』
・法力を使い属性防御と治癒が出来る『法術』
・各種精霊の力を借りる『精霊術』
・占いが出来る『占術』
・鉱物を武器に鍛え、鉱石を装飾品に加工する『加工術』
これは術の一部であり、代表的なものだけだ。
他にも多種多様に上るが、技術も技能も能力も、全て纏めて『術』とされる。
そして、セイヤは更に思い出した。
賢者の事を。
賢者とは、この世界にある『術』と呼ばれる力の中で『四大術』である法・魔・剣・武の4つ全てを極めた術者の事で、100年に1人か2人、下手をすると200年に1人くらいの存在である。『極める』といっても、それは魔法協会の判断による。魔法協会によって、極めたと判断されれば、そのランク付けにより『ランクS』の称号を貰う。
ちなみにランクは『S』を除くと大きく5つあり、『ランクA』~『ランクE』までで、更にそれを細かく分類するとキリが無い。
セレアはそんな中で、四大術全てにおいて『ランクS』の称号を魔法協会に貰い、賢者として公式に認められているのである。
「……そんな珍しい存在だもんなぁ…隠したくもなるか。
名前は多分、公式に認められた時点で有名になってると思うけど、これで顔まで売れたら旅しにくいもんな。行く先々で騒がれる。その上、セレアはまだ11。余計に、だ」
そう言ったセイヤに、セレアは嬉しそうな笑みを浮かべる。
「ご理解頂けて嬉しいです。
そうです、僕は公式賢者です。セイヤさんの仰る通りなので、出来れば…僕の事は剣術士か法術士、で通して頂けますか?」
「勿論。」
セイヤは即答である。はえぇなぁ……。
「「有難うございます!」」
マリアとセレアが同時に頭を下げて、セイヤにお礼を言った。息ピッタリだなぁ。
そして、
「なぁ、セレアっていつ、賢者の称号を貰ったんだ? 凄ェよなぁその幼さで」
なんとなく、ふと気になった事を聞く。
「9歳の時です。それまでずっと魔術で『ランクS』が取れなくて……やっと取れたんです」
「やっとって……あのさ、最初に『ランクS』取ったのっていつだ?
9歳で4つとも全部って、凄い事なんだと思うんだけど…1個目はそんな前なのか?」
「法術で5歳の時です。四大術の修業を始めたのは2歳だったので、3年で取得してます」
なんてことないよ~とでも言うかの様なセレアの言い回し。そんな事は無い、セイヤの言う通り、凄い事なのだ。
「じゃあ、……マリアは? 魔術、やっぱり『ランクS』?」
何故か恐る恐る聞くセイヤ。なんで怯えんのさ。
「わたしは…魔術が『ランクS』で、剣術が『ランクB』に武術と法術が『ランクC』です」
「なんか…魔術とそれ以外の術のランク差が激しいな…」
「あー、極端なんですよね、わたし……でもこういう人、結構いますよ」
そりゃそうだ。世の中いろんな人がいるからね。人には得手不得手があるし、1つだけ出来て他が出来ない人なんて、山ほどいるさ。
「セイヤさんはどうなんですか?」
「セレアぁ……こっちの世界に来たばっかりの人間が、ランク付けされてると思うか?」
思わず白い目でセレアを見る。
「あ」
……本当に、セレアって結構間抜けだな……。
「じゃ、じゃあ、大きい街に行ったら、テスト受けましょうよ!」
あたふたとまるで弁解するかのように言う。そしてセイヤは。
「んな暇ねーよ…早くソルヴィシスに着かないと…」
「あっ、じゃあ、」
右手で軽く拳を作り、左の掌をぽんっと軽く叩いてマリアが言う。
「ソルヴィシスに着いてからでいいじゃないですか。
王都でしたら必ず魔法協会があるはずですから。昇格テストは2か月毎にありますし、腕はそれまでの旅で磨いておけばいいんです!
どうですか?」
「んー…でも…もしも『ランクE』とか『ランク外』とかだったら恥ずかしーしな…」
俯き加減で情けない顔である。おーい、君は主人公だぞー。もっとシャンとしろよな! あんた3人の中で一番年上でしょう……
すぱぁん!!!!
「あうっ」
突然、軽快な音。まるでコントのような……ってマリアがセイヤを殴ってるよ! しかもスリッパで!! ……スリッパ?
「セイヤさん男でしょう!? もっとシャンとして下さい!
ソルヴィシスまでの道のりは長いんです。よっぽど術者に向いてない人じゃない限り、それだけの期間があればそこそこの実力はつきます。
だーい丈夫です。この旅の間にわたしとセレアでミッチリしごきますから、最低でも『ランクC』にはいけますよ」
うわっなんか嫌なニヤけ方! まるで悪だくみをしているかのような……。
それよりも殴られたセイヤは、じ―――――っとスリッパを見ている。どうも気になるらしい。スリッパが。まぁ、ワタシもだけど。
「あなたの袋に入ってたんですよ」
セイヤの視線に気付き、マリアは言った。
「俺の袋!?」
そうなんだよね。マリアはセイヤの袋に手を突っ込み、パッと掴んだ物でセイヤを殴ったんだよね。それがたまたまスリッパだった。でも、スリッパかー…。
そしてセイヤは自分の袋の中を見る。するとマリアの持ってるスリッパの相方が出てきた。
「な、なんでスリッパが……しかもコレ、ウチのトイレ用のじゃねーか!!
誰だこんなふざけたもんを俺の袋に入れとく奴は! 親父か玲緒奈か祖父さんか!!」
思わず地面にスリッパを叩きつけた。ぜーはーと肩で息をしている。そんなムキにならなくても……軽い悪戯だろう、きっと。
「入れたのはセイヤさんでしょう? さっき赤い袋から中身をそれに移し替えたんですから」
「え? い、いや、そうじゃなくて……え? でも俺なんで移し替えた時にこれに気付かなかったんだ?」
最初から入っていたとしたら、袋を出した時点で気付くはずである。スリッパの分、膨らんでいるハズだから。なのに気付かなかった。
謎である。セイヤは益々混乱した。
「あぁぁぁぁぁぁ!!!! わかんねぇっ! もういい! 行く、行くぞ二人ともッ
宿屋へレッツゴー!!」
「いいの? 姉様」
「いいんじゃない? 本人がよければそれで」
開き直って大股で歩いていくセイヤの後ろを、呆れながら2人はついていく。
まだ、旅は始まったばかりだ。
(あ――――っ、早く帰りてぇぇぇぇっ!!)
なのに、彼はもうホームシック?