旅の目的地は
2013.09.04投稿
2013.10.10修正
2013.10.15修正
2013.10.21修正
セイヤが『有り得ない話じゃない』そう言った時、村の入り口が見えた。
木で出来た簡素な門をくぐり抜け、真っ直ぐ視線を送ると、広場に井戸が見えた。広場を囲むように家が並ぶ。家々の間には、緑豊かな木々や小さめの畑。
広場周辺から東へ視線を移すと、離れた所にも家が数件並び、大きめの畑がいくつも見えた。広場の西にも家が数件と小川。井戸と並ぶ村の水源と思われる。
大きいとは言えない、こじんまりした村だが、自然に囲まれ、豊かな村の様だ。
広場の手前に、周辺の家よりも一回り大きな家屋があった。
「イクルドの村はあそこです」
「そして宿屋はあの家です」
セレアが指差したのは、その一回り大きな家屋だった。扉には、『宿屋』と書かれた札が掛かっていた。『食堂』と書かれた札もある。当然、こっちの文字だけども。
それを確認したセイヤは、一息ついて、
「有難う。後はこの村で道を聞いて、地図なり旅の役に立ちそうなものを買って旅するよ。じゃ」
そう言うと、スタスタ早歩きで宿屋に向かった。
「へ………?」
気の抜けた声を出したのはセレア。マリアも放心状態に近い。しかしセイヤは構わず歩いていく。コラコラ。
そして、ハッと我に返ったのはマリアだった。
「ちょっ……と待って下さい!! 冗っ談じゃないですよぉっ!
こんな中途半端にさよならですか? 冗談じゃない冗談じゃない…! まだ肝心な事を聞いていません! それによって離れるかどうか決めさせて下さい!」
(おいおい…)
げんなりした顔つきにはなるが、セイヤは構わず歩いていく。
(ったく…あいつらみたいなガキなんか連れて旅出来るかっての。魔物がうろつき回るこの世界で、右も左もわからず旅をするのに、子供の面倒なんかみてらんねぇよ! 第一、俺自身…生きて帰れるかどうかもわかんねーのに……)
要は、自分の事で手一杯なわけだ。
セイヤが2人を無視して宿屋に向かっても、2人はその後をついてくる。
立ち止まらず、ずっとついてきている。
しばらく歩いて、どうやらセイヤは嫌になったらしい。この状況が。
「………あぁっもう! 肝心な事ってなんだよ肝心な事って!」
大事な事なので、2回言いました。
立ち止まり、振り返って2人に聞きました。大事な事なので、ちゃんと2人の顔を見ました。
「――――旅の目的地です」
仏頂面で、マリアが答える。
「べ、別にそんな事…どうでもいいじゃねーか」
ま、そうだよな。
「そうでしょうか」
おやまぁ。マリアにとっては違うらしい。
ちょっとしどろもどろなセイヤに対し、マリアはキッパリと言い放つ。
「そ、そうでしょうかって………」
「ここは東の大陸イーリアです。その中でもこのイクルド村は最も東南に位置します。
さ、セイヤさん。あなたの行くべきところはどこですか?」
「え? セント=ソルヴィシス王国……って、あ!」
勢いに流され、つい目的地を言ってしまう。バカ正直に。嘘もつかず。間抜けだなぁ。
そしてマリアは更に勢いを増す。
「セント=ソルヴィシス王国!? ほぉらぁ、わたし達と別れて旅するのは無理ですね。何て言ったって、セント=ソルヴィシスっていったら、西の大陸ウェスティスの最北です。旅をするのが初めてってだけでなく、この世界も初めての人では……
無理です。イーリア内だけで旅をするならともかく、海を渡るんです。勝手がわからないセイヤさんでは無理です。わたし達の力が必要ですっ! 一緒に行きます」
拳を握りしめ、力一杯言った。
マリアの勢いにだけでなく、言葉の内容にも、セイヤは困惑している。
(何…? ソルヴィシスがこの大陸じゃ…ナイ…??)
そう。そうだよ。マリアの言う通り、海を渡らなくてはいけなくて、まさにこのイクルド村と対角線上にあったりするのだ! さあどうする刈谷聖太郎!!
「まさかとは思うけど……」
一息ついて、
「遠い?」
セイヤは問う。こっくり頷く2人。
まさに顔面蒼白なセイヤ。いつ帰れるんだろうねぇ?
「でも、だからと言ってお前達じゃあ……」
頼り無い、とでも言いたいらしい。
――が、マリアがその言葉を遮るかの様に、きつく言う。ちょっとプライドが傷ついた様だ。そりゃそうだな。何も確認せずに決めつけられれば。
「馬鹿にしないで下さい。わたし、旅の経験は幾度と無くあります。そんじょそこらの14歳とは違うんですよ。
魔物とだって何度対峙して、何度大丈夫だったか。自分の身くらい自分で守れます。
わたし、魔術士ですから!」
「僕は賢者でーす。 ――ってあ……」
言ってからセレアは口を手で押さえる。結構この子も間抜け。
「もう、あんたは剣術士か法術士でいいのよ!」
「ご、ごめんなさい姉様…ついっ……」
こそこそ話しているが、
「丸聞こえだぞ」
そう。そうだよ。
「え!? そそそそそうですか!?」
「あ、僕、け、剣術士でした。は、はは」
それはもう誰が見ても嘘とわかるくらいの誤魔化し方。相当焦っている様子。そしてセイヤは考える。何かがある、と。
(おかしい。なんで最初に賢者って言っておきながら訂正する?)
うんうん。
(賢者だからって別に……―――――! あ。)
「思い出した。祖父さんに聞いた事ある。賢者の事……」