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セイクリッド・アース  作者: 暁月夜
第1章 旅立ち 出逢いの森~イクルド村
5/11

主人公は、語る

2013.08.29投稿

2013.09.03修正

2013.10.15修正

2013.10.22修正

 村に向かう間、セイヤは2人に事情を話した。何故、自分の祖父は向こうの世界へ留まったのか。何故、自分は今回こっちの世界へ来たのか。

 セイヤは2人に、語る。




◇◇◇◇◇◇◇◇


 俺が祖父さんの生まれ故郷…つまりこの世界の事を知ったのは10歳の時だ。

 それまでは…漫画や小説、ましてやファンタジー映画の世界じゃねぇんだし、異世界なんて本当に存在するなんて思ってなかった。

 ……信じられなかった。

 ――――祖父さん、とうとうボケたな、とも思った。

 でもマジな顔して言うし、親父も真実だ本当の事だ現実だって言った。信じるしかなかった。……それまで、親父が嘘ついた事、無かったから。今も。


「そんなに信頼できるお父様なんですか…?」

 マリアが問う。俺はそうだ、と答えた。

「羨ましいです…わたしの父は、親として信頼できる人ではありませんから…セレアには…悪いけど…」

 悲しげな表情で、俯くマリア。セレアは否定しない。…ただ…

「悪くないです姉様。悪いのは父様だから」

 マリアと同じような、少し悲しい瞳をして、言った。

 そして俺は話を戻した。


 この世界の話をしてくれた時、祖父さんは自分の事をこう言った。


 とある王国の王位継承者で、王族に伝わる秘術を使って地球世界に来たって。そして祖母(ばあ)ちゃんと出会って、地球世界に残る事にしたんだって。

 親父も、俺と同様に10歳の頃にこの話を聞かされて、最初はやっぱり信じられなかったって。けど祖父さんに言われて、15歳の時秘術を使ってこっちの世界に来て、納得したんだって。……魔法世界の存在を……ね。

 向こうには魔法なんて現実には存在しない架空のものだから、他の誰に言ったって、信じてもらえない。コイツ頭オカシイって思われるのが関の山だし、信じろって言う方が無理な話だ。向こうでも魔法は使えるけど、使ったら使ったで大騒ぎだろうな。見世物にでもされるかも? そんなのは嫌だ。

 それに向こうはかなり科学技術が進んでる。もし祖父さんが秘術を世間に公表して…ってそんな事はまず有り得ないんだけど、もしそうなって、向こうの人間のだれもがこっちへ来れるようになったら…。もし軍隊が攻めてでも来たら……この世界は滅ぶかもしれない。たとえ滅ぶとまではいかなくても、大きな戦争になるだろうし、そんな問題じゃなくても、お互いの世界のリズム…秩序とでもいうのだろうか。バランスというかもしれないけど、そんなモノが崩れてしまうような気がする。

 そんな事になってしまったら、誰が責任を取るんだという問題に発展してしまうかもしれない。恐らく、俺達一家に押し付けられるんだろうな。元々、秘術を持っていたのは俺達だから。

 それは嫌だ。そんなのは嫌だ。


 ――――まぁ、この世界の存在を知って、嫌な事だけじゃないんだけどな。


 んで、えーっとどおまで話したっけ? 少し話がズレたからちょっと訳わかんなくなったなぁ。

 あぁ、親父がこっちへ来て納得したってトコだったな。

 それで、親父はこっちの世界に来て自分自身、成長出来たと言ってた。

 向こうには無いものがこっちには沢山ある。知らない事に出会って、様々な人に出会って、自分自身の世界が拡がったって。そして、俺にもそういう経験をしてこいって。

 ―――為になるって。

 こっちの世界では、馬くらいしか交通手段が無いから…自分自身の足で歩いて旅をして、世界を拡げるだけでなく、体力もつけてこいって。ちゃっかりしてるよな。




「旅をするっていい事ですよ」

 やっぱりそうなのか? セレアに聞いてみた。

「僕自身、旅をして…今まで見えなかった事が見えました。本当に、世界が拡がったんです」

 セレアがこれまでの旅を思い出しながら言ってるように俺には見えた。

「そうよね。家に閉じこもってちゃ、何も見つけられないし、何も拡がらない」

 マリアの強い眼差しが眩しい。

 勉強になった、ありがとう、と俺は2人に伝えた。俺の少し前を進むマリアが、太陽の光に照らされ、眩しさを増したように思えた。

 そうか。森を抜けたのか。




 それにさ、親父はこうも言ったんだ。運動能力も高めて来いって。

 この世界では総称で『()(じゅう)(ぞく)』と呼ばれる人間とは違う――人間を食らったりする種族がいる、と。

 『魔獣族』は二種類いて、一つはその殆どが知識も強大な魔力も持ち、『魔獣族』を統括し、組織も出来ている(ヒューマン)(タイプ)の多い『魔族』。もう一つは組織化も全然されてなくて、殆どがそこら辺でうろちょろしてる様な、知識も魔力も乏しくて魔族に利用されがちで(ビースト)(タイプ)が多い『魔物』。

 この世界で旅をすると、人里離れた山奥や森などに入らなくても、いつかは何処かで遭遇するだろう。その時、『魔獣族』と戦って、またはそこから逃げて、逃げ足でも腕力でもなんでもいい、何か力をつけて来い、と。

 ――――そう言ってた。




「……本当に…いいお父様ですね……我が子の事をよく考えていらっしゃる…」

「そうですね…僕らの父様は、僕らの事を常に考えている様に言いますが、実際はそういうフリをしているだけなんです」

 …セレア?

「僕ら…いや、姉様が…親族にどんな仕打ちを受けているか…あの人は、何も知らない! 知ろうともしない…姉様の味方は僕と僕の母様だけだって事にも気づいてない!」

 口調の荒くなったセレアをマリアが抱きしめた。

「セレア、わたしは大丈夫。セレアとセレア母様が味方でいてくれているだけで、わたしは救われているから。ありがとう…。」

 2人は異母(いぼ)姉弟(きょうだい)なのか?

 俺はつい、疑問に思ったことを口にしてしまった。

「はい。わたしの母様は、5年前に亡くなっています。今、わたしの母様はセレア母様だけ。血は繋がっていなくても、大切な母様です」

「姉様……母様も、姉様を大切に思っているよ! 僕の姉様だもの」

 マリアに抱きしめられたままのセレアは、そういうと抱き返した。

「わたし達は、普通の姉弟よりも、姉弟らしい姉弟だと思っています」

 2人の強い絆を感じた俺は、自分がとても優しい表情になってた事に気付いた。2人に俺が今贈れるのは、この笑顔でいいだろう。マリアの真っ直ぐな眼差しは、俺には本当に眩しい。こんなに真っ直ぐな瞳で見つめられたら、俺も真っ直ぐな心で答えなきゃ、って気にさせる。




 親父は秘術で行き来してたらしいけど、俺はどうやって来たのかよくわからない。ただ、祖父さんが気になる事を言っていた。もしかしたら俺は、無意識の内にトリップしてしまうかもしれない、と。

 俺には意味が良く分からなかったが、祖父さんはそれをすぐに察したらしく、説明してくれたんだ。


 王族の直系の中で、初代含めて50代毎の代の者は術を使わなくても自分自身の意思で秘術を発動出来るらしい。即ち、初代国王・50代国王・100代国王・150代国王…って事。祖父さんは148代目で、その王位自体は弟に譲ったらしいんだけど、どうも秘術の能力の流れはあくまでも長男に行くみたいで…俺は150代目に当たるから、秘術発動の為の道具やら魔法陣やらを一切必要とせずに使えるみたいなんだ。


「150代…長いですね、それほど長く続いてる王国にそんな秘術があるなんて…」

「そんな術を持った国があるなんて、聞いた事ないよね、姉様」


 長いのは長いな。なんでも約2000年前の人魔(じんま)大戦の前から家系図ハッキリしてるらしいからなー。

 それに、秘術、だぜ? 安易に他国に漏らすかよ。しかも異世界に行けるのに。


「あぁ、そうですね。それこそさっきセイヤさんが言ってた様な嫌な展開になってしまいますね」

「でも、自分の意思で秘術を発動出来るなら、見知らぬ土地に移動せずに、最初からお祖父様の国へ行けばいいと思うんですけど…」


 そうなんだよマリア! そこが困る処なんだよな~…。

 本来はこの世界のどこどこへ、とか指定できるみたいなんだけど、15、6~20歳くらいまではコントロールが不安定な時期らしくて、無意識に発動してしまうらしい。だから気をつけろよ、向こうの事を意識しすぎるなって祖父さんからは言われてたんだけど…意識するなってのが無理だって!

 それで、案の定だ。

 いつ行けるのかな~なんて考えた途端、トリップしちまったワケ。

 ―――あぁ、そういえば、あの時…異空間みたいな処で漂ってた時、不思議な声が聞こえたなぁ…。


◇◇◇◇◇◇◇◇




「不思議な声?」

 マリアに問われ、セイヤは自分の聞いた声のメッセージを全て伝えた。結構長いのに、よくも憶えてるもんだ。ワタシなら忘れる自信ある!

 そしてメッセージを聞いたセレアが、その内容を踏まえて言った。

「『時は満ちた』……ですか…。もしかしたらセイヤさん、この世界に来る宿命だったのかもしれませんね」

「宿命…? なんで俺が?」

「えっと……これは僕の想像でしかないですけど、秘術を術道具無しで発動出来る代、だからじゃないでしょうか?」

「なるほどー! セレアのその発想イイ線言ってるんじゃないですか?

 有り得ない話じゃないですよね。宿命や運命だったとしても」

 両手を胸の前でポンと合わせ、マリアは納得していた。そしてセイヤも。

「そう…だな…そういう解釈なら…有り得るかも。うん、有り得ない話じゃない」




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