異世界からこんにちは
2013.10.21割り込み投稿
マリアとセレア。二人は声を合わせて驚いていた。
当たり前だ。思ってもみないことを言われたのだから。
「何処って……どうしたんですか!? まさか記憶喪失ッ!?
自分の居場所がわからないなんて…っお兄さん、この近くの村か街にお住まいじゃあないんですか? それとも旅の途中とか!」
あーあー、滅茶苦茶焦ってるよマリア。顔面蒼白。そりゃそうだ。主人公、事情を話さなきゃならない状況に追い込まれるぞ、このままだと。
「んー、この辺に住んでるわけじゃないよ。旅だってこれからするんだし」
何も考えてない、何も考えてないよこの主人公!! 何ケロッとした顔で答えてるんだ!
「た、旅はこれからって……えぇ!?」
益々混乱するマリア。その様子を見て主人公、やっとちょっと考える。
(しょーがねーなー…。事情話すかなー。折角見つけてくれたんだし…)
そうそう。それに主人公、この辺の地理とか全然わかんないだろ? 2人はなんか詳しそうだし。てか実際地図片手に移動してる2人だから、聞け聞け! 喋っちゃえ全部! ほらほらほら!
暫く俯き加減で考えた末、少し体勢を変えて主人公は話し出した。
「実はさ、俺この世界に来たばかりだから、全然この辺の事知らないんだよ」
「この世界……?」
セレアが聞き返した。この状態だと、セレアが主人公を見下ろす形になっている。主人公はセレアを見上げてる。そして続けてマリアが。
「お兄さんまさか……異世界、から……来たんですか……?」
「うん。そう。《地球世界》からね。
でも、向こうから来たからって、完全に向こうの人間って事もないんだぜ?」
「え……?
――――あ、そうか! お兄さんが向こうからこっちに来る事が出来るんだもの。こっちから向こうに行く事だって、出来るはずだわ!
じゃあ、もしかしてお兄さん、こっちと向こうのハーフとか?」
(中々頭がいいなぁマリアって)
思わず笑顔になる主人公。おいおいおい、ちょっと考えたら誰だって理解るってば。
「惜しいなマリア。ハーフじゃなくてクォーター。祖父さんがこっちの人間でね」
ふーん、父方? 母方? …ってワタシの質問に答えてくれるわけないか。聞こえるワケないしなぁ…ま、いいか。ワタシの妄想の世界の人間の過去なんざ、何とでもなる。調べるのなんか簡単だ。たとえ、ワタシの妄想から離れた場所で生まれた人間の事でも。
「すっごーい! わたしそういう方とお会いするの初めてです!」
「僕も初めて! 知らなかったなぁ…行き来出来るんですね!」
「そうよね。この世界とは違う世界があるっていうのは知ってたんですけど、まさか本当に行き来出来るなんて…!」
よっぽど嬉しいんだなぁ、この子たち。主人公が入り込めなさそう~。
「こっちの事を全然知らないって事は、向こうで育ったって事ですよね。どうりで見ない服装をしているんだわ。お兄さん、向こうの世界ってどんな世界なんですか!?」
(そ、そんなに嬉しいもんなのか…!? さっきからずっと交互に喋ってくる…)
アンタが入り込めない程にね。でもワタシも実際に異世界の人間になんて出会ったら、質問攻めにする気がする。
「そうだな。こっちとは本当に全然違うな。向こうには魔法が使えるヤツなんていないし」
あったら怖い。でも使ってみたい!!
『へ――――っ』
姉弟は、またも声を合わせて言う。あぁ…この目は、もっと話すのを期待している目だ。どうする主人公!! 話す?
「マリア、セレア、2人とももっと話聞きたいのか?」
『うんうんうんっ! 聞きたい聞きたいーっ』
何度もコクコク頷きながら言う。可愛いなぁ。
「じゃあ、こんな所じゃなんだし、場所を変えないか?」
「わかりました! では宿屋にしましょう。この森を西に抜けた所に村があります。そこには宿屋もありますし、そこにしましょう」
「わかった」
「でも、歩きながらも話して下さいね?」
うわっしっかりしてるこの子。主人公も驚きを隠せない様子だし。
「そんじゃ、行くか」
すっと主人公は立つ。同時に主人公の前でしゃがみ込んでいた2人も立ち、3人は西に向かって歩き出し……
―――たと思ったら、急に主人公が立ち止まった。
「ちょっと待て! 俺、着替える! この恰好じゃ目立つ!!」
(やばいやばい、普段着ならまだしも制服だしな)
うんうん。気づいてくれて良かったよ。嬉しくて思わず涙ぐんじゃうよワタシ。
そして、ゴソゴソとリュックから服を取り出す。
――こいつ、こっちで着るような服を、普段からリュックに入れてるのか!? それは通学用のリュックだろ!? ってことは…もしかしたら、こっちに飛ばされる事予測してたな!?
当然、ワタシの問いには答えてくれないし、マイペースに着替えていく。勿論、2人には見えない様に、茂みに隠れて。あ……トランクスはそのままなんだ。
(よかったぁ…こっちでの基本的ないろんな恰好、祖父さんに聞いてて。オーダーメイドで服作ってて正解だったな。金かけた甲斐があったー。布は祖父さんの持ち込みだけど)
待てこらー! オーダーメイドで服をって! 準備がいいにも程がある!
(はー。それに、必要最低限のもの持ち歩いてて正解だった、ホント。まさか下校中に飛ばされるとはなぁ…。そーいや、『時は満ちた』ってあの声はなんだったんだろう?)
おー、あの謎の声、ちゃんと聞こえてたんだ。良かったぁ~。聞こえてなかったらどーしようかと。ホントどーしようかと。切なくなりそうだった。良かった。
「わぁっ 似合うー。似合いますよその服! なんだか法衣みたいですけど。こっちの人間っぽく見えますよ充分!」
着替え終わり、茂みから出てきた主人公を見て、セレアが褒める様に言う。
確かにそう、似合ってる。白が基調で、RPGに出てくる白魔道士や神官とかが着てそうな服。上着がロングコートみたいに長くて、腰に長剣を携える格好になっている。法術騎士ってカンジかな? まー、どうでもいいけど…立派な剣を携えておいでじゃないの。それなりに装飾もついて。以上、解説終わり!
「でも、服はいいとして、その袋…ちょっ…と目立ちますよ?」
マリアが少し引き気味に言う。そーいや背負えるから便利だけど、その真っ赤なリュックは目立つぞ実際。どーすんだ?
「目立つなら隠すまで」
「「え?」」
おいおい、どうやって隠すんだ主人公。その中には筆記用具やらノートの類も入ってんじゃないのか!? あと弁当箱とかさあ。
「大丈夫だって、マリア。要るものは…ほら、」
言いながらリュックから別の袋を取り出した。なんの飾りっ気も無い、真っ白いマチ付きの四角い袋。A4サイズって処か。帯状の紐を肩から掛け、ランドセルが出来る前の古き良き昭和時代の小学生のような出で立ちになった。服は全く昭和っぽくないファンタジー衣装だが。
「必要最低限のものは、これに入れて持ち運ぶ! そして要らない物を入れたリュックは…ここに」
そう言うと、主人公の右の手のひらから淡く暗いぼやけた光が生まれ、リュックはそこに吸い込まれていった。
「なッ……何ですかそれ……!」
セレアが驚きの声を上げる。それに対しマリアは比較的冷静だった。
「…い、異空間……? それとも空間の狭間……かしら…?
! その手……! 五芒星の印……」
さっきまでは無かった。そう、淡いあの光と共に浮かび上がったのだ。さすが魔法世界のお話ねッ。マリアが言った様に、あの光は『異空間』か『空間の狭間』に繋がっている。どちらかははっきりしないが、それは主人公の意思で繋がり、そこにはいろんな物をしまっておける。そういう設定。滅茶苦茶便利! ワタシも欲しい! でもなんか自分の身体の中に入ってるみたいでちょっと嫌!
(これが出来るのは、ここの世界の人間の血をひいてる所為だと思ってたけど…2人の反応からして、この世界云々じゃねぇな…祖父さんの所為か?)
そーです。そういう設定です。
「も、もしかして…武器とかもしまっておけるんですか?」
「もちろん! 今携えてるこれも、ちょっと邪魔だからしまうな。他にも祖父さんから譲り受けた武器を何点かしまってある。また今度セレアにも見せてやるよ」
「本当ですか!? 楽しみにしてますッ!」
「おにーさぁん、わたしにはぁ?」
「ん? 当然マリアにも見せるよ」
「有難うお兄さん!」
喜びのあまり飛び跳ねるセレアに、主人公に抱き着くマリア。本当に嬉しそうだ。逆に主人公は戸惑ってるけどね。
(あー、何か俺…『いいお兄さん』してるよなぁ…俺ってこんなキャラじゃないハズなんだけどなぁ…どぉ―――も子供相手だとこうなるんだよなぁ……)
アンタも子供だけどな。
「そういえばお兄さん、」
「ん?」
主人公に抱き着いたまま、マリアは話題を変えた。
「名前は?」
「あ…。」
やっと気づいたのか! そうだよ主人公、未だに名乗ってないぞー! ホンット礼儀なってないなー。
「えっ……と…向こうの名前は『刈谷聖太郎』って言うんだけど…」
いまどき珍しいけど、『太郎』が付く名前だネ☆
「へー…カリヤさんですか…珍しい名字ですね、セイタロウって」
「いやいや、『刈谷』が名字で……ってあぁ、こっちでは名前が先だっけ? 外国と一緒だ。あぁ、いやいや違う違う、こっちの名前は『セイヤ』! 思い出した!」
姓名をくっつけたような名前だけども、某星座の戦士みたいな名前だなオイ。
「じゃあセイヤさん! 今度こそ準備オッケーですね?」
うきうき気分でセレアが言う。マリアは足踏み中。
「ん? ああ。今度はちゃんと行けるぜ」
「「じゃあ、イクルド村の宿屋へ向かって、出発進行―――!!!」」
セイヤが答えると、姉弟は声を合わせ、はりきって腕を上げた。