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セイクリッド・アース  作者: 暁月夜
第2章 初仕事 イクルド村~港町フィールス
10/11

国家承認証と渡れない海域

2013.10.21投稿

2013.10.22修正

 マリアは、国家承認証について、丁寧にセイヤに説明した。


「承認証は、国や町の役場が発行している書類で、承認者(国or町)の印が押印されています。この者は、この術士資格を持っていますよ、ランクは××ですよ、国が保証しますよ、間違いありませんよ、と記載されているんです。承認証に記載するランクは、下にサバを読む分には黙認されていて、上にサバを読むのは虚偽罪とされ、役所から追われてしまうので要注意ですよ。

 基本的に術士資格の有無やランクは全ての術士が所持している神秘の石ミスティック・ストーンに記録されていますが、その記録は所有者の操作で隠す事が可能です。

 たとえば魔術士として『ランクS』として神秘の石ミスティック・ストーンに記録されているとします。通常、出逢った人にランクを聞かれた際、神秘の石ミスティック・ストーンの記録を見せて伝えるのが主流ですし、便利なんですけど、時と場合、もしくは相手によっては『ランクA』と伝えたい場合、記録内容を変更する事は出来ないので、隠すしかありません。ですが、無闇に隠してしまうと、相手に不信感を与えてしまい、護衛などの仕事は受けにくくなってしまいます。上にサバを読んでいると思われてしまうんですよね。

 わたし達が所持している承認証は、セラディーン王国が発行した国家承認証です。国家承認証は信用度が高く、今回のような仕事を受けるのには絶大な効力を発揮します。

 ちなみに、わたしの承認証は本来の正しいランクが記載されていて、セレアの承認証は、武術士と魔術士のランクがAと記載されています」


神秘の石ミスティック・ストーンってなんだ?」

 またもやセイヤから疑問符が出た。元この世界の住人とやらのお祖父さんから説明を頂いてない事項が多すぎるな、コイツは。

 マリアも思わずため息をついている。折角長々と説明したのに、新たな疑問文を投げつけられれば、溜め息も出るよな。

「それは…あとで説明しますね…追々……」

 こう言うだけで、精一杯のようだ。

「承認証は、あると便利なのでちょくちょく利用しています。偶然、セラディーン王に謁見出来る機会があって、その時に頂きました。

 そんなつもりで謁見したわけじゃなかったんですけど、貰えってうるさかったんで、遠慮なく頂戴しました」

 にっこりと微笑みながらセレアは言ったが、その笑みに黒い影が見え隠れしていたように思える。


「セラディーンって何処にあるんだ?」

 セイヤは何気なく聞いた。マリアはまたしてもため息をつきそうになりつつ、それを抑え、暫く沈黙していたが、最終的にはセイヤの問いに答えた。

「………南の大陸サーヴィラです。

 サーヴィラの3分の2の土地はリオストーン帝国の領土ですけど、残りの3分の1の内の、そのまた3分の1がセラディーン王国です」

「へえ……南の大陸なら今回の旅には関係ないなぁ……まぁいいや、その内余裕が出来たら寄らせて貰うよ」

 セイヤの言葉に、『おかしいな』という顔でセレアが言う。マリアはまたも、溜め息をついていた。

「関係ないって……充分関係ありますよ?

 セラディーンは通り道ではありませんが、サーヴィラ自体には行きますし」

「へ? なんで? セント=ソルヴィシスは西だって言ってたじゃねーか」

「セイヤさん、もしかして勘違いなさってません?

 見て下さいこれ」

 そう言って、マリアは地図を広げた。


 四つの大陸がある。世界地図だ。

 上が北。

 上下左右に大陸が四つ。四つの大陸の間は……

「海です」

「海ィ!?」

 マリアの一言に、思わずセイヤは聞き返した。

 そうなのだ。

 大陸が四つある。でもその中心は、海なのだ。

 もっと言うと、地図の中心は小島である。その小島を囲むように海があり、その周囲に大陸が四つあるのだ。

「まぁ、こういった形ですので、今回みたいに東から西の大陸への移動でも、南の大陸経由で行くんです」

 こんなのつっきればいい。セイヤはそう思った。この世界に船が無いわけではない。多少船旅の期間が長くなっても、東の大陸の港から、対角線に航行し、西の大陸に向かえばいい。

 セイヤは思っていた。最短距離で行きたい、と。

 しかしマリアは冷たい表情で言った。

「セイヤさん、最短距離を行きたいと願っても無駄ですよ。

 どんな熟練の船乗りに頼んでも、よっぽどお金を積まない限り……いえ、お金を積んだって、《セイクリッド=オーシャン》を通ってはくれませんよ」

 マリアには何でも見透かされている。セイヤはただただ、関心していた。そして、ふと気づく。

 セイクリッド、という単語に、聞き覚えがあったのを。


「あ、なぁ」

 突然思い立ったかのように声を掛けてきたセイヤに、「はい?」と2人は特に驚きもせずに反応した。

「あのさ、《セイクリッド》って…この世界の事じゃないのか?

 《セイクリッド=アース》」

「「え!??」」

 2人は声を合わせて叫んだ。続けてマリアが言う。

「《セイクリッド=アース》は《異世界聖典》の事ですよ!?

 ちょ、ちょっと待って下さい! 向こうではこの世界の事をそう言うんですか!??」

「《異世界聖典》!? 何だそりゃあ!」

 と、セイヤが叫んだ時だった。


「おい、いい加減にしてくれないか!」

 ザイギスの長男だった。彼はセイヤ達の反応を待たず、続けて言った。

「もう出発予定の時刻は回っている。用意はいいのか!?

 こちらはいつでも出発は出来る! まったく…初っ端からこれじゃあ、先が思いやられるな…」

 呆れ、溜め息をつくザイギスの長男に、3人はムッとしてしまっていた。いや、あのさ、ダラダラ喋ってる君らが悪いんだからね? ザイギスの長男はまっとうな事を言ってるよ?

「大丈夫ですわ。そんなにご心配なさらずとも、用意は出来ております。私共(わたくしども)の荷物も既に、荷台の片隅に置かせて頂いております。

 私共も、いつっでも! すぐに! 出発出来ますわ」

 マリアは嫌味を込めた笑顔で言っていた。「なら、いい」簡潔に返答し、ザイギスの長男は3人から視線を外した。

「では御三方は荷台へ乗って貰って、ホレ、お前は儂の隣じゃ」

 ザイギスが自身の息子と護衛3人に指示をした。長男は荷台の前、馬の手綱を持ち、腰かけた。セイヤ達は荷台の後ろへ回る。

「さっきの続きは荷台の中で」

 マリアがこっそりセイヤに耳打ちした。セイヤは一言、「ああ」とだけ返し、荷台に乗り込んだ。




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