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雅の妖怪退治  作者: 鳥越 暁
第一章 岩戸雅の霧散の日々
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第八話 御子神司の覚醒

 (つかさ)は夕飯を持って雅の家の戸を開けた。


「雅君! ご飯持ってきたよ~っ!」


 御子神家と岩戸家は昔から親密な付き合いをしてきた。

 雅がはからずも一人暮らしとなり、御子神家は何かと雅の世話を焼いてくれる。時には司の家で食卓を囲む事もある。司は毎晩でも一緒に食事しようと誘うのだが、雅は何だかんだと理由を付けては断っていた。

 最近では司も無理には誘わなくなっている。



 司は雅の夕飯が乗ったトレーを食卓に置いて居間を覗いた。


 そこにはソファーに腰掛けて居眠りしている雅がいた。そっと雅の体を揺すって起こす。


「ん!? 司か」


「うん。ご飯持ってきたよ」


「そうか。ありがとね」


 司は手を洗いに行った雅を眺めてから仏間に入ると、仏壇に向かい線香に火を付け手を合わせた。

 仏壇には幾つか位牌が並んでいるが、その中に新しめな位牌が三つあった。


 雅の両親と姉の位牌だ。

 司は雅の家に来ると仏壇に手を合わせることが習慣になっていた。

 雅の両親も姉も司の事を我が子のように可愛がり、司も彼らの愛情を感じていた。彼らの成仏を心から祈るのであった。



 司はふと視線を感じた。その方を振り向いて見ると少年が司を見ている。年の頃は幼稚園くらいの四、五歳くらいにみえる少年だ。

 服装は古風で地味な甚兵衛を着ている。


「あれ? ぼくは誰?」


 司が少年に訪ねると少年は驚いたように司を見て言った。


「お姉ちゃん、僕が見えるの?」


「えっ? どう言う意味かな?」


「ううん。何でもないよ」



 そこへ雅が顔を出した。


「司。どうかした?」


「うん。この子誰?」



 司が尋ねると先程の少年のように雅は驚いて言った。


「つ、司! 明が見えるのか?」


「えっ? 何言ってるの? この子は明君て言うのね」


 少年と雅は互いの顔を見合わせて頷いた。


「これから司の家に行くから。小父さんとも話をしなくちゃならない」


「ね。どうしたのよ? 私何か変なこと言った? 食事しないの?」


 雅は司の問いかけには答えずに司の手を引いて、慌ただしく御子神家に向かう。

 司が見たのは雅の家に憑いている妖怪『座敷童(ざしきわらし)』だと浩司と司に話をする。

 雅が物心ついたころには既に家にいたこと。普通の人には見ることができない事を話して聞かせたのだ。

 話を聞いていた司と浩司は黙っていたが、やがて浩司が口を開いた。


「今までもいたんだね。その明とかいう座敷童は、これまでも司が雅君の家にお邪魔する時にいたんだね?」


「ええ。そうですよ」


「……ふむ。今まで司は明君が見えなかった。

 それが今日は見えたって事だね?」


 雅はため息交じりに頷く。


「雅君。ひょっとしたら、ひょっとしたら司は力を持ってしまったのかい?」


「おそらく。

 持ってしまったというより覚醒したと言った方がいいかもしれない……」


 司の亡くなった母も妖怪の類が見える能力を持っていたと、雅は亡父に聞いたことがあった。司がその力を受け継いでいても不思議ではない。



 浩司は辛そうな顔をして雅に尋ねる。


「これからどうなるのかね? 司は」


「分かりません。司の力がただ見えるだけなのか、それとも他に何かあるのかは今は分かりません。


 ただ、ただ、司の力が目覚めてしまったのは僕に原因があるかもしれない。僕が近くにいるから……」


「やめなさい! 雅君が自分を責める事は無い。司もこういう家に生まれた娘だ!」


 自分を責めるような口ぶりの雅を浩司が強い口調で戒めた。

 いつもは穏やかな浩司が強い口調で話すのは珍しいことだった。




 それまで黙って二人のやり取りを聞いていた司が声を上げた。


「もう! 二人とも何を話しているの? 私にも分かるように話をして!」


 雅は司を見る。そして浩司を見ると、浩司は頷いた。



 雅は話す。

 雅の力の事…… その力で「霧散師」として妖怪たちを霧散していること。

 そして妖怪の類とは何なのか。

 両親と姉は妖怪たちに命を奪われたこと。司の父・浩司は雅の力の良き理解者であり、時にはパートナーであること。

 霧散師である自分に力を持つ妖怪たちの一部は敵意を持って近づいてくることがある事。


 それらを淡々とだが、一つ一つ司が理解したかを伺いながら、丁寧に話をして聞かせた。雅の話はとても長い時間を要した。



 話を聞き終えた司は『ふーっ』と深いため息を一つつくと笑顔を浮かべていた。


「暖かいお茶淹れて来るね」


 そう言うと司は台所へ向かう。


 しばらく後、お茶を持って戻って来た司は言う。



「はい。お茶飲んで。


 話は分かったわ。

 前から雅君が私に何かを隠しているなって思っていたの。

 それが分かって正直うれしい。


 これからの私がどうなるのかなんて分からないけど、不安は無いわよ」



 司は明るく笑っていた。



 司の笑顔は陽の気に満ちあふれていて、いつも雅の心を解ほぐしてくれる。


 霧散師などを生業にしていると知らず知らずのうちに陰の気に包まれてしまう事がある。それを司と接することで中和出来ていたのだ。



(私がどうなるかなんて分からない。

 

 でも、お父さんが雅君の力になっているのだったら……私も力になれるかもしれないわ)


 今までよりも雅と深く関われるかもしれないと思うと、不安よりも嬉しさを感じる司だった。



「お父さん。私、神官になるわ」


 司の突然の宣言であった。


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