第七話 天降女子(あもろうなぐ) その六
僅か二十年程前に橘由紀子は村の生贄にされたのだった。
当時はまだ陸の孤島であった村は、台風の被害で唯一の道路が分断され、停電して一種のパニック状態であったという。
その当時、村にいた占い師のお告げで余所者であった橘家が災いのもとであるとされたのだった。
両親は即神仏になるようにと生きたまま土中の室に埋められた。
娘の由紀子は閉鎖的空間である高校のクラスに監禁された。そして、占い師の狂ったお告げによってクラスメートであった男子生徒達に十日間に渡り辱めを受けたのである。
あろうことか当時の担任教師までもが加担していたのだった。ようやく解放された由紀子はあのモッコクの樹で首をつり自らの命を散らしたのであった。
「いつもながら妖に落ちていく人の過去と言うのはやりきれない気持ちにさせる」
小邪鬼に取り憑かれた男達と別れた後に浩司が言った。
「そうだね。時は平成の世だと言うのにね。
だけど、僕たちはそれを知り、受け止めていかなくちゃならないんだ」
雅も幾分ふてくされたような面持ちであった。
「ところで奴らに憑いていた小邪鬼は霧散したのかい?」
「ああ、一応ね」
「そうか。じゃあ、この村に再び来る事はないだろうな」
「それはどうかな。僕は天降女子は霧散したけどね。
それでもこの村には陰の気が滞っている……」
「なぜだい? 霧散したんだろう!?」
「ああ、したよ。橘由紀子と白蛇の天降女子はね。
だけど由紀子の両親まで救ってやれていない……」
「あっ! 両親か!」
雅と浩司は天女村を出るバスに乗るために停留所に向かう。
雅は小邪鬼が取り憑いている人と幾人もすれ違った。
あえて霧散することなく黙って村を後にした。取り憑いた小邪鬼が全て妖になる訳ではない。妖怪と呼ばれるまでに成長するには相当の陰の気が貯まらないとならないのだ。
ただ小邪鬼が憑いている者は幸せにはなれないだろう。善業を自ら行い、陽の気を取り入れない限り、奴らが離れる事はないのだ。
「おかえり~っ! いいなぁ。二人で旅行なんてさ~。今度は私も連れて行ってよねっ!」
二人を司が明るく出迎えてくれた。
「ははっ。そうだね。今度ね」
雅は久しぶりに笑った気がした。
陽の気の塊の様な司を眩しく見つめるのだった。
「天降女子」 完