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雅の妖怪退治  作者: 鳥越 暁
第一章 岩戸雅の霧散の日々
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第六話 天降女子(あもろうなぐ) その五

 天降女子は髪を振り乱し、雅に迫っていた。雅が鈴の棒を体に押し当てたが、天降女子の髪の毛が棒を捕え巻き取ってしまった。


「くっ。やるな!」


 雅は苦戦していた。天降女子の髪は鋭く雅を襲い、雅の体は細かい切り傷が無数に刻まれた。


 無手では分が悪い。


 雅は懐から「(さかき)の枝」を取り出し構える。

 榊の枝で迫りくる髪を払うようにすると、天降女子の髪が散る。

 しかし、すぐに新たな髪が伸びて雅に迫る。


 地の利もあるのだろう。天降女子の攻撃は止む事なく雅を追い詰める。


 (このままだと不利か)


 雅は後に飛び下がり距離を取った。


 雅は九字を切り、榊に念を込めた。榊がぼうっと白く光る。


 天降女子の顔が険しくなった。

 ここぞとばかりに雅は攻撃の手を繰り出していく。


 その度に髪が散る。


 天降女子は自身についている小邪鬼を二体つまみ上げると口を開き飲み込んだ。


 その途端、天降女子の髪が渋い銀色に輝いた。


「小邪鬼を取り込みやがったな」


雅は苦戦は続く。


 銀色に変色した天降女子の髪には、先程まで功を奏していた「榊の枝」による攻めが効かなかった。



 天降女子の髪は雅の足を捉え絡みつく。物凄い力で締め上げる。


「ぐわっ!」



 大量の髪が雅を包み込むと思われた時、雅は力を抜き榊を捨て両手を組んだ。


『おん せんだら はらばや そわか!』


 真言を唱え、組んだ手を迫りくる髪の根、すなわち天降女子の体に押し当てた。


 雅の唱えた真言、それは月光菩薩(げっこうぼさつ)の真言だった。

 真にこの真言を使える者は少ないのが、雅はその数少ない者の一人だった。


 月光菩薩は慈悲の心を司る。物の怪に対する慈悲の心、それは霧散してやることだと雅は思っている。


『ぐおおおおおおおっ! おのれっ! 私の恨みはこれでは消えぬっ!  


 おぉぉぉぉ……』



 天降女子の体が、まばゆい光に包まれた。




 光が収まり、再び闇が迫った時、天降女子は消えていた。



「ふう、やばかったな。いてててっ!」



 天降女子をやっとの事で霧散した雅の体は傷だらけであった。

 四肢は切り傷だらけで右の頬にも傷を負っていた。


 白い大蛇が横たわっていた。


 天降女子の正体である。

 白い大蛇に橘由紀子の黒い思念が宿り、天降女子となっていたのだ。大蛇の傍に、鈴の棒と榊の枝が落ちていた。


 雅は白大蛇の亡き骸を優しく撫でる。


 大蛇もまた音もなく空気に同化して消えた。



「ん!?」


 拾い上げた鈴の棒にきらりと光る物が付いていた。


 白蛇の(うろこ)だ。

 大事そうに鱗を胸ポケットに収めて、微笑んで屋敷を後にするのであった。


 夜はとっぷりと暮れていて、雅が見上げた空には赤い月が出ている。




「苦戦したみたいだな……」



 浩司が雅を待っていた。


 浩司は雅に肩を貸し、二人は麓に下って行く。




 天降女子は霧散された……。


「巣は? 巣は清めたのかい?」


「ああ、問題ない」


「そうか。生臭かったでしょう?」


「そうなんだ。お神酒が足りなくなるところだったよ」


「……白い大蛇だったよ」


「やはりな。私も蛇だなと思っていたんだ」



 二人は世間話のように軽い口調で会話をしているのだった。


 人の想いに関わる仕事をしているが、あえて軽い口調で話し、平然を装わねば重すぎるのだ。



「さて、明日は依頼者に顛末を話して帰ろう。司も待っている」


「うん。そうだね」



 二人は仕事の締めくくりに無理やり依頼者に仕立てた男どもに会うのであった。

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