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雅の妖怪退治  作者: 鳥越 暁
第一章 岩戸雅の霧散の日々
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第二話 天降女子(あもろうなぐ) その一

 雅は土日を利用しある村に来ていた。新聞の小さな記事が目にとまったからだ。それは山奥の小さな山村で村の青年の失踪が相次いでいると言うものだった。雅はその山村に来ていた。


「なるほどな。この村は(まやかし)の気で満ちているな」


 雅はその村についた時から感じていた。


 その気を辿って歩いていると、河原に行き付いた。

 その河原は村を流れる唯一の川の河原だ。その河原は広く葦で覆われている。中流域である川の流れは適度な速さがある。

 その風景は長閑そのものだが、どこかどんよりとした空気感が漂っている。


「そうか。ここの奴も人の心と結びついているのか。根を断つには少し時間がかかるかもしれないな」


 

 河原の葦原の一点を眺めていた雅は、誰に言うでもなく独り言を言う。

 雅は宿を探すと、そこから電話を一本かけた。


「ああ、小父さん。天女村に来ているんだけど、少し長くなるかもしれないんだ。明日戻らなかったら学校に上手く言ってほしいんだけど」


 電話の相手は雅の隣家、御子神神社の神主・御子神浩司だった。


「そうか。あまり無茶はするなよ」


 浩司は一言だけ雅に言った。


 雅はそれには返事をせずに電話切ると、警察に向かった。警察にあの河原で異臭がすると告げたのだ。

 

 当初、警察は野良犬でも死んでいるのだろうと真剣ではなかったが、通報があった以上、それなりに対処せねばならない。


 警察の河原での探索の結果、人の死体が発見される。


 その死体はむごい状態で、何者かに喰い散らかされていた。それこそ野良犬の仕業とされたのだ。身元の割り出しは死体の状態から時間がかかったが、歯の治療痕から行方不明となっている男性の一人と判明した。



「野良犬の仕業じゃないって」


 雅は地元誌を見て溜息をつく。



 雅は夜になるのを待ち、件の河原に再び訪れた。妖の気配を強く感じているようだ。

 周りの葦が風もないのにざわつく。月が出ていると言うのに辺りはうす暗い。


「川坊主か。雑魚じゃつまんないな」


 雅はポケットに手を突っ込み、十センチ位の棒状の物を取り出す。その棒の先には鈴が括り付けられていて『ちりんっ』と音がする。雅は棒を握る。

 周りのざわつきが大きくなる。風が雅に向けて四方から吹き寄せている。

 一際強い風が吹いた時、雅の眼前には異形の者が立っていた。


 異形の者。

 全身が黒く、首のくびれはない。目は小さく黒眼だけ、顔の半分ほどの大きさの口を開き、その口から粘っこいと思われる液体が滴り落ちている。人で言う腕の辺りからは大きなひれのような物が出ている。



『ひゅうううう』


 異形の者の口から咆哮とも、息吹ともとれる音が発せられた。


 次の瞬間、雅はひれのような物で叩き弾かれた。


 

「お、痛ってぇ。やるじゃん、川坊主。相手してやるよ」


 雅は殴られた左頬を押さえながら右手に棒を持ち、異形の者と対峙した。


 

『ひゅうううううう』



 再び『川坊主』から音が発せられる。

 川坊主は体当たりをするように雅に迫っていった。


 川坊主が雅に当たると思われた次の瞬間、川坊主は弾き飛ばされた。


 


『ちりんっ』


 鈴の音が一つ響く。



「なあ、川坊主。お前らの親玉はまだ俺の前に出てこないのかい?」



 雅は川坊主に呟くが、川坊主はもちろん答えない。


 再び雅めがけて突進する。

 

 雅は後に飛びのき躱し、棒を一振り『ちりん』と鳴らすと、「すっ」と川坊主との距離を詰め、ひれの付け根に棒を押しあてる。


 


『くううううぅぅぅ…… 』


 

 川坊主が悲鳴を上げ蹲くまる。

 雅は川坊主を冷めた目で見下ろしながら、片手拝みの形で呪文を唱えた。



「ザンバラザンバラ ゲッコウザンバラ スイドヒクウ ザンバラ……」


 

 川坊主の体が透き通っていく。やがて『ざっ』という音と共に川坊主は消えた。


 川坊主を霧散した。


 雅は川坊主のいた辺りをじっと眺める。そこには大きな(なまず)の死骸があった。



「親玉よ。はやく俺とやろうぜ」


 川向うの暗闇に視線を移すと一言呟き、宿に戻っていくのだった。

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