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お待たせしました
これで完結です
楽しんでいただけると嬉しいです
圧倒的な大きさの炎が迫ってくるのが目を瞑っていても分かった
熱い、熱い、熱い
こんなの喰らったら即死だ
エフィーは覚悟を決めると、瞑っていた目を更にキツく瞑った
しかしいつまでたっても炎はエフィーにあたらなかった。ましてや王子にも
おそるおそるエフィーが目を開けると、目の前によく見知った背中があった
「オヴ!?」
そう、オヴ、オブシディアンだ
「オヴ!?なんでここにいるのですか!?」
思わずエフィーは素に戻り、オヴに問いかけた。オヴはエフィーを振り向くと、その黒い瞳を細めて緩く笑った
「おっちょこちょいな妹が兄ちゃん心配でなー」
明らかにからかっている口調にムッと頬を膨らますと、その頭を乱暴に撫でられた。その拍子にカツラが取れ、エフィーの真っ白な髪がこぼれた
「なっ!?」
「っ!!」
ドラゴンと王子が驚きに目を見開いた
「っつーのは冗談で。アイツが来るっておばばの占いに出てな、急いで来たってわけ」
オヴはニヤニヤ笑いを浮かべ、ドラゴンを指しながら、エフィーがつけていたカツラを床に投げ捨てた
「し、しかしオヴ!!あなたは足を…!!」
「あーそれなら治った」
「はぁ!?」
「こっそりイサックに頼んで再生の魔法かけてもらってきたから」
「イサックに?」
イサックとは街外れに住む2人の幼馴染みであり、並外れた技量を持つ天才魔法使いである
「だーらもう大丈夫」
「は、はぁ…」
エフィーは呆れてもう何も言う気がないようだ
「よぅ、ドランバルト」
オヴは呆れた顔のエフィーからドラゴンに目を移し、笑いかけた
「坊主…」
「久しぶりじゃねえか、老いぼれのくせに相変わらず元気そうだしよ」
「坊主、貴様も相変わらず口の減らん奴じゃ」
ドランバルトと呼ばれたドラゴンはニヤリと笑うと、その真紅の瞳を輝かせてオヴを睨み付けた
オヴは腰にさした愛用の剣を抜いた。オヴの剣は刀身まで黒いのが特徴で、その真っ黒な刀身が月の光で鈍く光った
ドランバルトは先程と同じようにガパリ、と口を開けると、その口から先程よりはいくらか小ぶりの炎の球をいくつか連続で放った
オヴはその球を軽々と避けると、避けきれなかった球の1つを剣で切り裂いた
ドランバルトは放った炎の球が全て消えたのを見ると、今度は口から炎のブレスを放った。炎のブレスはバルコニーの手すりを焦がし、焦げた手すりは黒い炭となって崩れ落ちた
近くにいたエフィーが思わず後ずさると、そのエフィーの腕を掴んだ者がいた。王子のクラウディウスだ
「王子!?」
王子は無言でエフィーの腕をぐいっと引っ張り、バルコニーの隅の安全な場所に移動した
オヴはそれを横目で見ると、飛んできた炎の球を剣で弾いた。弾かれた球は先程までエフィー達がいた辺りに直撃した
「やはりやりおるのぅ、坊主」
「そっちもな、くそじじい」
「くっくっくっ…口の減らん小僧じゃ…。ならばこれはどうかの?」
ドランバルトが再び口をガパリ、と開けた
「っ!?じじい、てめえ…!!」
ドランバルトの口から放たれた炎の球は
エフィー達目掛けて飛んでいった
「エフィー!!」
オヴの足がエフィーの前に立とうと地を蹴った
しかし間に合わない
エフィー達には迫り来る炎の球がスローに見えた
王子がエフィーを庇うように前に立った
目を見開いたエフィーが前に立った王子の更に前に立ち、剣を抜いた
「ッ…!!」
エフィーは先程のオヴのように球を弾こうと、剣を振り抜いた
力いっぱい振り抜いた剣が炎の球を弾くことはなかった
その代わり、エフィーの剣は炎の球を真っ二つに切り裂いていた
「…」
「…」
「…ふむ」
それを見て呆気にとられる双子の兄と王子。そして満足げに頷く老いたドラゴン
ドランバルトはゆっくりと羽ばたいて旋回すると、ニヤリ、と笑った
「小僧の妹の小娘もなかなかやりおるのだな」
「…」
エフィーがドランバルトを睨み付けると、ドランバルトはさも可笑しくて堪らないというように笑った
「…小娘、名をなんという?」
「…エフィーリア」
ドランバルトは満足げに頷くと、ゆっくりと上昇を始めた
「ふむ。オブシディアン、エフィーリア、わしは気が変わった。また来る。その時は2人揃って殺してやる。それまでにわしをもう少し楽しませるくらいにはなっておけ」
ドランバルトはそう言うと、ゆっくり旋回し、再びどこかへ飛んで、消えた
「エフィー、ケガないか」
ドランバルトが去ると、オヴはエフィーの元へ駆け寄った
「私はどこも。オヴこそケガはありませんか?」
「ああ」
「王子、お怪我はありませんか?」
エフィーが訊ねると、王子はゆっくり首を振った
「よし。ドランバルトも帰ったし…。任務こなすか」
「は?」
オヴの言葉に首を傾げるエフィーと王子
「エフィー」
「なんですか?」
「脱げ」
「はぁ!?オヴ、あなた何を…ってほんとに脱がさないでくださいーーー!!!!」
オヴは光の速さでエフィーの着ていた自分のアーマーを脱がすと、自分がそのアーマーを着た
「よし、エフィー任務おつかれ!!」
オヴはそう言うと、剣やら何やらのチェックを始めた
「は…?どういう…?」
状況の呑み込めないエフィーが首を傾げていると、オヴが顔を上げた
「だーかーら、陛下の護衛って元々は俺の任務だろ?だから俺が任務続けるから、エフィー、バトンタッチ。お役御免」
「は、ああ…そういうことですか…」
エフィーは納得したように頷くと
「じゃあ私は帰ります。オヴ頑張ってくださいね。王子、私はこれで失礼いたします」
エフィーは丁寧に王子に頭を下げ、帰ろうとした
が
ガシッ
「へ?」
帰りかけたエフィーの腕を誰かが掴んだ
エフィーが振り向くと、笑みを浮かべた王子がいた
「あの…王子…?」
「エフィーリア、今日の舞踏会の目的を知っているか?」
「え?いいえ…」
「あ」
オヴがそう言えば、というように手を打った
王子が微笑みながら言葉を続けた
「今日の舞踏会の目的は、俺の妃探しだ。俺はお前が気に入った」
「え?え?」
首を傾げるエフィーリア
「だからエフィーリア、お前にダンスを申し込む。俺と踊っていけ」
「え、ええええええええ!?」
「ちなみにこれは命令だ。拒否権はない」
「し、しかし王子…」
王子はエフィーの反論を無視すると、ダンスホール内にいたメイドに声をかけた
「おい、彼女にドレスとメイクを」
「え、あ、はい!!かしこまりました!!」
可愛らしいメイドさんは笑顔で頷くと、エフィーを引きずっていった
「え、嘘ですよね!?え!?ちょっ、ええええええ!?」
エフィーの叫びが空しく響いた
「ううう……なんでこんなことに…」
再び王子とオヴの所に戻ってきたエフィーは、ミントグリーンのドレスを纏い、まるで白い一輪の花のようだった
王子は満足げに頷くと、エフィーの手をとってダンスホールへ歩いて行った
残されたオヴは国王の元に戻り、王子と踊るエフィーを眺めて
「オブシディアン、クラウディウスと踊っている女性は君の身内かね?」
そう国王に問われた
「ええ、私の双子の妹です」
オヴはそう答えると、国王に聞こえないように小さく呟いた
「俺王子の兄になるのか…?」
――こうして、王子様は悪いドラゴンから守ってくれた勇敢な少女を好きになり、少女に結婚を申し込みました――
――そしてその少女は王子様と結婚し、幸せに暮らしましたとさ――
――めでたしめでたし――
楽しんでいただけたでしょうか?
これで完結です
ありがとうございました
次も頑張りますのでよろしくお願いします




