自惚れではない、それは
初投稿ゆえ駄文でお目汚しですが、最後までお付き合いください。よろしくお願い致します。
―自惚れではなかったはず、なんだ。周囲も互いの両親も公認の、自分で言うのもなんだが、バカップルてやつだった。実際、今日まで四年間付き合ってきたんだ。未来のお義母様、お義姉様に最近いただいたプレゼントは、婚姻届だった。保証人欄にすでに名前が記入された婚姻届。かなりひいたけど、嬉しかったんだ。式の予約は任せとけと言われたんだ。すごく、嬉しそうな笑顔でそういわれたんだ。だからこそ、自惚れではなかった、と思いたい。この四年間が自己完結の思い込みだったなんて、違うと、と思いたい。だからこそ、何で?
「君と、僕が、結婚?」
一節一節区切り、可愛く首をかしげながら、確認するように問われた。その顔は、いつものにこにこ笑顔。なのに、いつもと違って、どことなく黒い、怒ってる?目も顔も笑っているのに?
「うん、私と結婚してください、悠ちゃん」
手が震えきた。嫌な汗をかいて、べたべたの手で、無意識に拳を作る。何かを宣告されるような、変な緊張感が漂いはじめる。何だろう、これ?なんともいえない、胸のもやもや感。嫌な予感が頭をよぎる。
「君と?姫ちゃんと?」
四年間見慣れたはずの顔なのに、疑問がわく。誰だろう、このひと?阿山悠太郎、同じ四回生で、私の、今竹姫子の四年間お付き合いしてる恋人…だよね?
「うん、私と、だよ?ぷろぽーず、だよ?」 視線で、どうして?と問う。この不安は、嘘だって、何かの間違いだって――
「何で君が僕に求婚するの?」
彼が、私を馬鹿にしたように笑う。鼻で。ねぇ、本当に、誰?いつもの悠ちゃんどこいったの、マジで。
「私は、あなたの彼女、でしょう…?」
当たり前のはずのその事実が、うまくいえない。声が、震える。私、もしかしなくても、今泣いてる?
「そうだよ?」
望んでいた言葉が、紡がれる。けれども、悲しい。その言葉を紡ぐあなたの顔が、痛いものを見る視線がこちらを向いていることが。現実にいるわけがないのに、小さな子供が戦闘戦隊のヒーローをいるんだと言い張るのを見る、生暖かい呆れた視線。何をいってるの、と。 その視線に私はもう一度問う、どうしてと。
「彼女でも、君と結婚したいとは思わないよ、僕。結婚したいと思うのは恋人であって、君じゃないよ?」
ぴし、がらがら、がしゃん。
私の中の、崩れて欲しくないものの全てが、崩れていく。ひびが入って崩れていく音が効果音のように頭に響く。
「…、…っ」
固まってなにも言えなくなった私に、彼は、とどめを指し続ける。ぶすぶすと、針で穴を開けるみたいに。
「君は、一緒にいても楽だったから、彼女にしてあげたんだよ。ただうんうんて笑って頷いているだけでよかったし、好きっていうだけでご飯代も出してくれるし、足もしてくれる。彼女だけど、恋人じゃないよ?そこ、勘違いしてたの?僕が君の恋人って?恋人はちゃんといるよ?」
それは、ヒモというやつですか。そして、俗にいう二股ですか。私とその他周囲と、お義母様お義姉様はあなたに騙されていたと?
ああ、忘れていたあの感情が、ふつふつとわいてくる。忘れていたのに。このひとと出会って、穏やかでいられたのに。あの頃を忘れて、この先ずっと穏やかでいられると思っていたのに。
「…んな」
「姫ちゃん?」
悠ちゃん――悠太郎が、可愛らしく首をかしげる。「ざけんな、この阿呆が!!」
今度は、悠太郎が固まる番だった。誰?とか呟いている。先程まで私が感じていた感情を味わっている。ざまぁみやがれ、と思う。
いまの私はさぞかし表現し難い表情を浮かべているだろう。怒りと、悲しみと、恨み辛みとかがあわさって。しかもイイ笑顔と青筋たてるというトッピング付きだ。昔、これを向けられた同級生の男どもが、涙を浮かべながら震え失禁してしまったという曰く付きの顔。悠太郎、おまえに耐えられるか?
「てめぇ、あたしをセフレにしてたのか、四年も?周囲も騙してたんだな?」
ああ、やっぱり悠太郎が青くなっていく。もうすぐ、蝋燭みたいな色になるに違いない。いや、最終的には土気色か?
「四年も、恋する乙女を、騙していたんだな?」
ぼきり、と拳をならす。指じゃない、拳をならす。私は握力が強くて、本気で力を込めて拳をつくると、ぼきりばきりべきりと音がするんだ。
「歯ぁ、くいしばれや?」
漫画なら、ここでにやりとか書かれそうなイイ笑顔を浮かべた私は、震え出した悠太郎の襟首をつかんで歩き出した。向かう先?きまってるじゃないか?
「さぁ、まずはバカップルと囃し立て見守ってくれた友人知人に謝ろうな?」
もはや悠太郎はひぃ、としかいわない。
「その次は――お義母様とお義姉さまだ。お二人は、なぁ?保証人欄に氏名を記入した婚姻届を用意してくださるくらい、おまえに騙されていたんだよ。わかってるよなぁ…?なんていわれるか?」
――この後、悠太郎の顔に手のひらの後の青いアザができた。数は、重なるように同じ場所にみっつ。ひとつは私だ。あとのふたつは、私と同じ立場の人の、だ。あいつ、本命以外に、三人も囲っていやがった。研修でいった就職予定先、アルバイト先に。
そして、不名誉にも、私には昔のあだ名がよみがえってしまった。
――某とあるネズミが嫌いな青いロボの国民的アニメに出てくるガキ大将の愛称?だ。本当に失礼だ。何年も前にガキ大将は卒業したというのに。
ちなみに、わたしの両親は再婚なので、旧姓は剛田である。
後日、悠太郎とは別れたのは、いうまでもない。
そして、悠太郎はお義母様とお義姉様に口でいうのも憚られるきつい仕置きという名の罰を受け、友人知人からもきつい説教をされたあげく土下座で謝らされ、周囲から痛い目で見られていたのも、また別の話。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ぷろぽーずをしてなんで?といわれたのは実体験です。某アニメファンの方に申し訳ない内容となりました。