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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

子悪劇

作者: 鯖野三十二
掲載日:2026/10/01



 


 僕の家は僕と母さんと父さんと弟、あとペットの犬がいる。

 僕はこの家が大っ嫌いだ。

 だって、家族のはずなのに僕はそうは思えないんだ。

 この家にいるとどうしてか息が苦しくて、居場所がないように思うんだ。

 冷たいとか酷いと思うかもしれないけど、僕はこの家の人達を血の繋がった赤の他人だと思っている。


 床の掃除をしていたら、母さんがね。

「働けシンデレラ」

 僕がシンデレラだって。

 床に這いつくばって掃除をしてたら誰だってシンデレラじゃないか。


 僕が音読をしていたら、父さんにいきなり教科書を取られたんだ。

「なんでら行が言えないんだ。下手くそ。」

 そう言って父さんは怒って僕のことを何度も教科書で殴った。

 そのせいでしばらくおでこは痛かったし、クラスの誰よりも教科書がぐちゃぐちゃになったんだ。

 弟はよく母さんに嘘をついていた。

「兄ちゃんが殴った!」

 僕は殴ってもないのにね。

 嘘泣きをしながら母さんに言うもんだから、母さんは本当なんだって信じちゃったみたい。

 あんな嘘泣きはすぐに分かるはずなのに、母さんってば僕に本当のことを聞きもしないでアザができるまで殴ってきた。

 その後ろで弟は笑っていたよ。

 気持ち悪い。

 どうしてあいつは僕が殴られているのを見て笑っていられるんだろう。

 お前の嘘のせいで、僕は痛い思いをしているのに。


 寒い冬に母さんと父さんが疲れていたり酔っ払ってリビングで眠っている時に僕は、自分の羽毛布団と毛布をかけた。

 どうして自分の布団で寝ないんだろう。

 僕はエアコンのない部屋で、ストーブが置いてあるけど一切使わせて貰えない。

 夏はサウナ、冬は冷蔵庫のような部屋でタオルケット一枚で眠っていた。

 暑くて暑くて床で眠ることもあれば、とても寒くて寝る前から布団にこもっていることもある。

 僕は家にいる間は、この部屋に引きこもっていることが多い。

 夕食を済ませて、風呂に入ったらトイレ以外で部屋から出ないでずっと本を読んでいる。

 図書室で借りた本、図書館から借りた本、おじいちゃんから貰った本。それが読み終わってしまったら教科書や辞書、図鑑を読んでいた。

 読んでいる間は嫌なことを忘れられるけど、父さんと母さんはいきなり部屋の扉を開けて入ってきて、僕に暴言を吐いて、殴って、殺そうとしてきたり、部屋をめちゃくちゃにして物を壊して、寝る場所を無くす。

 僕は仕方なく、物で埋もれたベッドで眠るけれど、時々なにかの破片が体に刺さったりして痛い。

 あの本で読んだシンデレラは、こんな風じゃなかったな。

 もしかしなくても、僕はシンデレラよりも酷いところにいるのかもしれない。僕のところにも、あの魔法使いが現れないかな。

 でも、僕が誰かに助けて欲しいだなんて言ったら父さんと母さんが警察に連れていかれちゃうかもしれない。最近ニュースで見た。

 そんなことになったら、僕と弟はご飯を食べれなくなる。どうやって生きるんだろう。

 ペットの犬も、きっと可愛がってくれる人がいなくて悲しむかもしれない。

 僕はこの犬が嫌いだから可愛がれないけどね。

 こいつは僕より大事にされているし、何かあったらすぐ病院に連れて行ってもらえるし、お出かけにも連れて行ってもらえるからね。

 僕はこいつよりも下の存在なんだよ。

 ピラミッドがあったら一番下の存在。

 この家では多分そう。そうだから「お前は犬以下だ。」なんて言って、犬の真似をさせられてドッグフードを食べさせられて、ケージに入れられて、水を飲ませられる。トイレをシートの上でさせられる。僕は人間なのにね。おかげで犬の真似が上手になれそうだよ。

 人の言葉を喋れない。人に飼われていないと生きていけないくせに。

 僕は本当にこいつが嫌いだ。僕以上に母さんに見てもらえる。僕は幼稚園の時には「重いから。」なんて言って抱っこして貰えなくなったのに、こいつはいつでも抱っこをしてもらえるし、撫でてもらえる。僕は滅多にされないのに。

 なんでなのか分からないけど、とても腹が立って家の中に僕とこの犬しかいない時、僕は犬をエアガンで撃ったり、首を絞めたり、僕が父さんと母さんにされることを沢山してやるんだ。

「あははっ。かわい子ぶってんじゃねぇよ。クソ犬。お前なんか大っ嫌いだ。」

 楽しい。とても楽しい。こいつが「やめてよ。」って言うみたいにキャンキャン吠えたり、前足をあげたりするの。あとねあとね、苦しそうに口を開けて、手を離してやると咳をするみたいにするし、僕より弱いくせに餌を持っているとしっぽを振ってくるの。馬鹿だよね。死ねばいいのに。

「あぁ、たぁのしい。」

 それから僕は弟と二人きりの時にも、同じようなことをするようになった。首を絞めたりエアガンで撃ったりはしないけど、わざと公園に置いていって少し離れたところで様子を見てみたりする。僕はいつも一人にされてるのに、あいつは一人になったって気がついた途端泣き出すの。本当面白い。

「おい、父さんと母さんに言ったらお前のことベランダから落とすからな。」

 これで言わせないようにしてた。言わせたら、僕が弟と犬を殴れない。だって、殴るの楽しいんだもん。僕だけがあんな目に遭うなんて不公平だよね。お前らも同じ目に遭えよ。遭わせてやるよ。


 でも学校は違かった。

 いじめられるからやり返した。むこうが怪我をするようなことも平気でやった。なのに誰かが先生に言いつけるんだ。

 そのせいで家に帰ったら殴られるし、母さんの機嫌が悪い時なんて包丁で軽くだけど刺されたり、馬乗りにされて顔を何度も何度も殴られた。

 終わったと思ったら今度は母さんが父さんに話す。それでまた僕は何度も何度も何度も何度も殴られて、何度も何度も何度も何度も何度も殺されそうになる。

 誰にも相談できない。

 きっと助けてって言っても助けてくれない。

 逃げたくてもどこに逃げたらいいか分からない。

 空の上?多分なにかの本で読んだ地獄に僕は行くよ。

 僕ってなんで産まれたんだろうね。

 早くこいつら死ねばいいのに。

 死んだら僕は苦しい思いをしなくて済む。

 数え切れないほど想像した。

 ある日突然、交通事故かなにかでこの三人と犬が死んで家に帰ってこなくなる。そうなればいいのにって思ってた。思ってたけど、思ってるだけじゃダメなんだ。

 僕の中でなにかがプツリと切れた。

 僕はどうしてあんなにも理不尽な扱いを受けないといけないんだろう。

 本当ならおやつは自由に食べれたはずだし、僕の好きな本は没収されなくていいはず。

 何度も何度も僕は一切関係ないことで怒られて、その度に部屋をぐちゃぐちゃにされるし、生きているだけで生きるか死ぬかの綱渡りを毎日しなければいけないなんて、どうしてなんだろう。僕ってそんなに悪い子なのかな。

 どうして僕は犬以下だなんて言われてケージに入れられなければいけないんだろう。

 どうして───

 あぁ、そうか。僕以外みんな死んでしまえばいいんだ。

 僕のことを殺そうとしてきたのが悪いよね。

 僕はいらないけど、都合のいい存在なんだよね。

 みんないなくなればそんな扱いは受けなくていいんだ。

 なんだ、簡単なことだったんだ。

「今更気がついたのか?」

「今更?」

「ああ、俺は早く殺してしまえばいいと思っていたゾ。」

 ふと、窓にうつる僕が目に入った。

 僕、こんなに気持ちの悪い笑顔だったっけ。

 まあいいや。

 別に僕がいつも、どんな顔してたかなんて覚えていないし。


 気がつくと、僕の父さんと母さん、弟と犬は冷たくなっていて鉄臭くて、ぬるりとしていて生ぬるかった。

 僕って、愛されていたのかな。それはもう分からないけど、この生ぬるい赤色は綺麗だと思った。

 でも、きっと

「これが愛ってやつなのかな。あははっ。」


 ——続いてのニュースです。

 本日未明、██市内の住宅で、この家に住む夫婦と子ども、およびペットの犬の合計三人と一匹が血を流して死亡しているのが見つかりました。

 警察によりますと、被害者の身体には複数の刺し傷や切り傷があり、現場の状況から殺人事件として捜査本部を設置し、詳しい経緯を調べています。

 また、この家に同居している小学生の長男が現場からいなくなっており、警察は事件に関与している可能性があるとみて行方を追っていましたが、先ほど市内で保護されました。

 長男は極度のショック状態とみられ、警察の問いかけにもまともに受け答えができない状態だということです。

 近隣の住民によりますと、この住宅からはこれまでにも子どもの泣き声や言い争うような物音が聞こえることがあり、警察が当時の家庭環境やトラブルの有無について慎重に調べています。


 続いて、天気予報です。

 

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