地愛学園へようこそ
「君が例の子だね?」
恰幅のいい老紳士が尋ねた。
「はい。よろしくお願いします」
彼から七歩ほど手前に立つ少年、西平 尾対が答える。彼は十三歳、特徴的なくせ毛に眼鏡をかけている。どこか有名な探偵小説の被害者のような見た目だが、これでもこの物語の主人公である。
ここは私立中高一貫地愛学校。
一見すると普通の学校と変わらないが、入学方法と学ぶ内容だけは少し特殊だった。
「いやあ、西平君の息子さんが来るとは聞いていたが、西平君の息子とは思えないほど礼儀がいいじゃないか、入学試験のテストもかなり良い。そうそう私のことは古屋校長と呼びなさい」
古屋校長は穏やかな笑みを浮かべながら言った。
尾対は校長が話すカリキュラムや学校設備、さらには今朝の天気の話まで適当に聞き流しながら、この学校へ来るまでの経緯を思い返していた。
その前に、主人公がどのような人物なのかを知ってもらわなければ物語が進まない。
そこで作者権限を行使し、尾対の過去について少し説明しておこう。
もともと尾対は別の学校へ進学する予定だった。
しかし、その学校の理事と校長が生徒たちに麻薬を密売したことが発覚し、逮捕されてしまったのである。
それを知った父の浅真は、息子に万が一のことがあってはいけないと考えた。そして旧友である古谷校長を頼り、尾対に特別試験を受消させてもらった。
結果は見事合格入学権を取ったので尾対は中高一貫地愛学校へ入学することになったのだ。
そして今、入学前カリキュラム説明を聞いていない尾対のために校長がカリキュラム説明という名目で尾対がどんな人物かを確かめていた。
母親とは仕事の都合もあって離婚しており、父もフリーライターとして各地を飛び回っている。そのため家を空けることが多く、寮付きの学校へ入ることに特に不都合はなく、さらに私服OK危険物以外持ち込みOKというのもかなり楽しみだった。
「しかし君も運がよかったね。ちょうど入学シーズンだったから入れたようなものだ」
「ええ。でも、そろそろ入学式の時間ですけど、校長先生はよろしいんですか?」
「おっと、もうそんな時間か。それじゃあ君も遅れないように」
そう言うと古谷校長は校長室を後にした。
講堂で自分の席に着いた尾対は、かなり見づらい場所だと思った。
地愛高校の入学式は生徒祝福のため全生徒総動員で祝うことになっている。
校番号が578番だったため、割り当てられた席はかなり後方であり、さらに右端だったので先生と思わしき人物がよく通る。
地愛学園の講堂は、私立校の例に漏れず非常に広い。柔らかいクッションの椅子に小さな机(しかもペットボトルのお茶が置いてある)が入学人数分600+100席もある。校長の話によれば象が三体入る(さすがに少し盛っている気もするが)らしい。
「あなたも新入生?」
前の席に座るポニーテールの少女が振り向いた。
見るからに元気そうな性格をしている。
ふと左前を見ると少女がかなり厚い小説を読んでいた。
「始めまして、私、中村千音っていうの。呼び方は中村さんでも、ちおちゃんでも、なんでもいいよ。もうすぐで始まるね。」
「僕は西平尾対です、そろそろ校長先生のお話が始まりますよ。前を向いた方がいいと思います」
尾対がそう言った瞬間、壇上のマイクに電源が入った。
そして校長のスピーチが始まる。
「ようこそ、みなさん」
スピーカーを通した古屋校長の声が、象三頭分どころかそれ以上入りそうな広大な講堂へ堂々と響き渡る。
最前列の生徒たちは少し気の毒だった。
「地愛中高一貫校――通称、『デスゲーム学園』へ」




