第6話:100万人の軍師と、輝く聖騎士の剣
ボルドー伯爵の反乱計画を全世界に晒し上げた翌朝。アスベル領の主館に、王都から一羽の伝装鳥が舞い降りた。ローゼス公爵からの緊急書状である。
「……レナード、これを見ろ」
父・バルトロが震える指で差し出した書状には、公爵の力強い筆跡でこう記されていた。
『事態はもはや一領地の問題ではない。レナード・フォン・アスベル。お前がその「目」で暴いた紛争だ。お前自身の手でボルドーの進軍を止め、その価値を証明してみせろ。さすれば、リヴィアとの結婚を正式に認めよう』
公爵の突きつけた、最後にして最大のテスト。
リヴィアは静かに立ち上がり、レナードの前に膝をついた。
「レナード。私はあなたの剣となり、盾となります。どうか、私を戦場へ連れて行ってください」
「ああ、行こう。……世界で一番『安全』な戦場へ」
レナードは覚悟を決め、ウィンドウを叩いた。
【開戦:圧倒的戦力差】
アスベル領の境界線。ボルドー軍五千に対し、アスベル領が用意できたのは、リヴィア率いるわずか三百の自警団。
数にして十六倍以上。平原であれば一瞬で蹂躙される絶望的な戦力差だ。
「ははは! 策を暴いたところで何が変わる! 蹂躙せよ! 邪魔な障害はすべて焼き払え!」
ボルドー伯爵の号令と共に、重装騎兵の地鳴りが響き渡る。
「……配信、開始」
【世界同時配信:王都水晶ジャック】
その瞬間、王都。そして現代日本。
王都配信画面(魔力水晶)
コメント:始まった……。本当に戦うのか!? 三百で五千に!?
コメント:リヴィア様が……先頭に立っていらっしゃる!
コメント:がんばれ、アスベル領! 負けないでくれ!
日本配信画面
コメント:うわ、ガチの戦争中継始まった。
コメント:布陣がヤバい。ボルドー軍、左右に伏兵隠してるだろこれ。
コメント:FPSの観戦モードみたいで臨場感えぐい。
【「見えない目」の恐怖】
「リヴィア、止まって。全軍、右の林へ魔導砲を斉射してくれ」
レナードは「自由視点」を真上まで飛ばし、ボルドー軍の布陣を真俯瞰で捉えていた。
そこには、森の陰で息を潜め、リヴィアの背後を突こうとしていたボルドー軍の精鋭部隊が、赤外線センサーのように強調表示されていた。
「斉射、開始!」
ドォォォン! と轟音が響き、何もいないはずの森からボルドー兵の悲鳴が上がる。
「な、なぜわかった!? 我が軍の隠密部隊だぞ!」
狼狽するボルドー。だが、レナードの視線は止まらない。
田舎の旧式の魔導砲では1回の斉射でガタが来ているようだが、大きな被害を与えられたようだ
【コメント欄の軍師】
「自由視点だけじゃ足りない。……『軍師』たちの意見を聞こう」
日本配信画面
コメント:左翼の騎兵隊、沼地に誘い込めば機動力死ぬぞ。あの地形、泥濘化魔法と相性いい。
コメント:相手の魔導砲、発射間隔が15秒あるな。リロード中にリヴィアちゃんが突っ込めばいける。 コメント:ミリオタ参上。敵の本陣、旗印が邪魔で伝令が遅れてる。今、中央を突破すれば崩れる。
「……みんなありがとう。リヴィア、聞こえるか? 十五秒の隙を作る。中央を抜けて、一気に本陣へ!」
【LPブースト:輝く聖騎士の剣】
戦況が動く。
視聴者の熱狂が最高潮に達し、レナードのLPが爆発的に蓄積されていく。
【視聴者数:10万人突破!】
【熱狂度:MAX!】
【LP:30,000消費――機能:『加護の光』をリヴィアへ適用!】
「皆の『声』を、君の力に変える。……行け、リヴィア!」
リヴィアの持つ白銀の剣が、突如として眩い黄金の光を放った。
それは配信の熱量を魔力に変換した、この世ならざる輝き。
「――アスベルの、そして皆様の想い。この剣に宿して……貫きます!」
光の軌跡を残し、リヴィアが戦場を駆ける。
ボルドー軍の放つ矢も魔法も、彼女を包む光の膜に触れた瞬間に霧散した。
圧倒的な軍勢を、たった一人の少女が、そして10万人の視線が、真っ向から切り裂いていく。




