72話:120万人の目撃者 ――『違和感』を拾う手
「……もう、無理ですわ。どこをどう解析しても、この『虐殺の映像』が本物であるという結果しか出ません」
ナオが絶望に打ちひしがれ、管制室のデスクに突っ伏した。
王都の広場では、改ざんされた映像が延々と流れ続け、民衆の怒りは沸点に達している。国境ではエリックたちが盾一枚で怒号の嵐を耐え忍んでいる。
レナードは、120万人に達しようとしている配信画面を見つめていた。そこには、王都の惨状を罵倒するコメントや、レナードへの失望を露わにする言葉が滝のように流れている。
だが、その地獄のような流れの中に、一通の奇妙なコメントが固定された。
高額なギフトと共に放たれた、ある「熱心なファン」からの指摘だった。
■ 日本の掲示板:【特定班】おい、さっきの『虐殺映像』変じゃないか?
400:名無しの軍師(古参勢)
レナード! ナオちゃん! 落ち着いてよく見てくれ!
今、王都で流されてる「第14話の改ざん映像」、右端の背景に映ってる監視カメラの角度がおかしいぞ!
401:名無しの軍師
え? どういうことだ?
400:名無しの軍師(古参勢)
俺はあの日、監視カメラの設置回を30回はループして見てるから分かる。
王都の映像で「レナードが人を殴ってるシーン」の背後にあるカメラ……
あれ、第61話でカイルが設置した『新型』のカメラだろ!
402:名無しの軍師
……!! マジだ! この時点では、あの場所には旧型の『聖なる眼』しかなかったはずだ!
403:名無しの軍師
ってことは、この「虐殺映像」は、後から設置されたカメラの形状を知っている奴が、過去の映像に無理やり合成したって証拠じゃねーか!!
■ 綻びの連鎖
「……えっ?」
ナオが弾かれたように顔を上げた。掲示板の指摘を元に、該当する座標の映像を極限まで拡大し、過去の設備台帳と照合する。
「……本当です。映像そのものの『因果』は書き換えられていますが、背景に映り込んだ『無機物』の型番までは、犯人も把握しきれていなかった……!」
犯人は、レナードの過去を「悪」に書き換えることに集中しすぎたのだ。
しかし、レナードたちが心血を注いできた**「領地の発展」**の歴史までは、完璧にシミュレートできていなかった。
「レナード様! 視聴者の方が教えてくれました! この映像には、『未来の物品』が映り込んでいます! これは魔法や編集による捏造ではなく、この世界そのものの『記録』を後から上書きした……『改ざん』のスキルによる干渉です!」
「……『改ざん』……。そうか、誰かが僕たちの歩みを、後ろから塗りつぶしているんだな」
レナードの目に、光が戻った。
自分たちが信じていた記憶は間違っていない。そして、120万人の視聴者の中に、自分たち以上に自分たちの歩みを見ていてくれた「味方」がいる。
■ 逆転のライブ配信
「ナオ、王都の全モニターをジャックできるか?」
「……できます。ただし、一度きり。相手の『改ざん』が追いつかないほどの、圧倒的な物量で真実をぶつけるしかありません」
「やってくれ。……120万人のみんな、ありがとう。今から、僕たちの本当の時間を、王都に取り戻しにいく!」
レナードは、これまで撮り溜めてきた「ゴミのような日常映像」――失敗した建築、リディアの料理爆発、衛兵の深夜のダンス、そしてみんなで笑い合った宴の記録――そのすべてを、王都の空へと解き放つ準備を始めた。
敵の正体はまだ分からない。だが、自分たちを救ってくれたのは、スキルでも魔法でもなく、**「ずっと画面を見てくれていた誰か」**という、最も孤独で最も力強い味方だった。




