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第69話:情報の捕食者 ――スキル『改ざん』

ガルーア帝国、最深部。


 外光を拒絶する黒曜石の玉座の間で、皇帝ゼノスは、手元の魔導水晶が映し出す「アスベル領の繁栄」を不快そうに見つめていた。


「……板きれに映る偽りの平和か。アスベルの若造め、余の覇道を『配信』などという遊びで邪魔するとはな」

 皇帝の冷徹な声が響く。その玉座の傍ら、影の中に跪く一人の男がいた。

 帝国の諜報機関『虚飾の牙』の長、ヴァルガスである。


「ヴァルガスよ。武力による侵攻は、あの『配信』とやらで世界に晒されれば、我が帝国が『悪』として孤立する。……余は、血を流さずにあの領地を腐らせたい」


「御意に、陛下。奴が『配信』という光で信頼を築くなら、私はその光そのものを捻じ曲げ、闇に変えてご覧に入れましょう」


「よかろう。お前のスキル、存分に使え」


 皇帝の許しを得て、ヴァルガスの口角が歪に吊り上がった。


■ スキル:『改ざん』

 ヴァルガスが水晶に指を触れると、ドロリとした紫色の魔力が、レナードの映る記録映像アーカイブを侵食し始めた。


 彼の固有スキル**『改ざん』。


 それは、レナードの『配信』が「ありのままを遠くへ届ける」力であるのに対し、「既に存在する事実を塗りつぶし、認識を書き換える」**という、情報の捕食者としての力だ。


「まずは、この映像。奴が『汚職貴族を捕縛した正義の瞬間』として流したものですが……」


 ヴァルガスが指を動かすと、水晶の中の映像が歪んだ。


 兵士に連行される悪徳貴族の顔が、恐怖に怯える「無実の老人」に書き換わる。レナードの穏やかな解説音声は、民を嘲笑う「冷酷な独裁者」の声へと変質していく。


「……よし。これで『過去』は上書きされました。陛下、私はこれより王国宰相バルガスになりすまし、王都へ潜入いたします。奴が築いた『信頼』という名の城壁を、奴自身の過去で粉砕してやりましょう」


「ククク……行け。情報の海に溺れ、己の影に怯える公爵の姿を、余に見せてみよ」


■ アスベル公爵領:平穏な夜

 同じ時刻。カメラの届かない帝国の暗闘など知る由もないアスベル公爵領では、ナオの復活を祝う宴が賑やかに続いていた。


「レナード様、同接数がまた安定して伸びていますわ。領民たちの『教育』に対する関心も高いようです」


 ナオが手元の端末を見せながら微笑む。


「ああ。これなら、王都や他領の連中も納得してくれるはずだ。……『配信』こそが、この国を繋ぐ鍵になる」


 レナードは、日本側の掲示板に並ぶ**


『レナード、もう実質王様じゃねーかw』

『このまま平和に発展させていこうぜ』**という温かいコメントを眺め、確かな手応えを感じていた。

 彼らが設置したカメラは、あくまで「領内」を守るためのもの。


 王都の中枢で、自分たちの「過去」が泥を塗られ、書き換えられ始めていることに――。

 そして、自分たちの「正義」が、最も信頼していた場所から崩されようとしていることに。


 レナードも、ナオも、そして120万人の視聴者たちも、まだ誰も気づいていなかった。

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