第5話:「開戦の生中継」
迷宮攻略による魔石特需で、アスベル領がかつてない活気に沸いていた矢先のこと。
レナードは、ポイントショップで拡張した「広域偵察カメラ」の映像を、冷や汗を流しながら見つめていた。
「レナード様、顔色が優れませんわ。……何か見えたのですか?」
リヴィアが傍らで心配そうに覗き込む。
レナードは、自分にしか見えないウィンドウの視点を、領地の北端――隣接するボルドー伯爵領との国境へと飛ばした。
日本配信画面(隠し撮りアングル:偵察中)
コメント:お、今度は屋外の山岳地帯か?
コメント:待て、画面の端に映ってるの……全部「軍隊」じゃないか?
コメント:キャンプの規模がデカすぎる。これ、ピクニックじゃないだろ。
そこには、ボルドー伯爵家の紋章を掲げた数千の重装歩兵と、鋭い光を放つ魔導砲の列が並んでいた。
ボルドー伯爵――王国内でも過激な武闘派として知られ、以前から国王の弱体化を狙い、領地拡大を目論んでいる野心家だ。
「……内戦が始まる。ボルドー伯爵の軍勢だ。彼らは我が領を通り抜け、王都へ進軍するつもりだ」
レナードの言葉に、父・バルトロとリヴィアが息を呑んだ。
アスベル領は王都への要衝。ここが破られれば、王国は真っ二つに割れる。
「そんな……いくらなんでも早すぎる! まだ国王陛下への宣戦布告すら届いておらんぞ!」
バルトロが叫ぶ。だが、レナードには見えていた。
伯爵が「闇夜に乗じて奇襲を仕掛け、事実を隠蔽したまま王都を包囲する」という最悪のシナリオを。
「……父上。宣戦布告がないなら、僕たちが『広報』してあげればいい」
レナードの目が冷たく光る。
「リヴィア、準備をして。今からやるのは、ただの攻略配信じゃない。――『悪事のリアルタイム告発』だ。王都中、いや大陸中の人々に、今この瞬間、平和を壊そうとしている者の顔を見せてやる」
日本配信画面
コメント:うわ、タイトル「内戦の予感(生中継)」に変わった。
コメント:これ、もしガチなら歴史的瞬間だぞ。
コメント:伯爵、カメラに気づいてないなw
王都・領内配信画面(緊急ジャック中)
コメント:なんだ……? 夜中なのに水晶が光りだしたぞ!
コメント:……あれは国境か? なぜボルドー様の軍が武装しているんだ!?
コメント:おい、あそこにあるのは……魔導砲じゃないか!
レナードはLPを注ぎ込み、ドローン視点のカメラを伯爵の本陣の天幕まで潜入させた。
そこには、作戦図を広げ、不敵な笑みを浮かべるボルドー伯爵の姿が鮮明に映し出されていた。
「『明朝の夜明けと共にアスベル領を焼き、一気に王都へ。王の首を獲った者が、次の時代の支配者だ』……だそうです。王都の皆さん、聞こえましたか?」
レナードが配信越しに解説を入れる。
その瞬間、王都はパニックと怒りに包まれた。
暗闇の中で密かに進んでいたはずの反乱計画は、レナードの「画面」によって、開始される前に白日の下に晒されたのだ。
「誰だ!? どこで声がする!」
天幕の中で、ボルドー伯爵が狼狽して周囲を見回す。
だが、そこにはカメラもマイクもない。ただ、空中に浮く「情報の神」の視線があるだけだった。
「チェックメイトだ、ボルドー伯爵。あなたの野望は、今この瞬間に世界中で『炎上』したよ」




