64話:【特訓】愛の出力制限!リディア様、豆腐を救え
「レナードォォォ!」と叫びながら迫りくるリディアから、間一髪で身をかわしたレナード。彼の背後では、公爵邸の重厚な壁にリディアが突っ込み、美しい人型の穴が開いていた。
「……リディア。悪いことは言わない、まずはその有り余る力を『制御』する特訓をしよう」
レナードの提案により、急遽「リディア様・パワー抑制キャンプ」が開催されることとなった。コーチ役は、公爵領で最も緻密な魔力制御を誇るナオ、そして中継役は広報のシオンだ。
■ 第一次試練:生卵の移動
最初の課題はシンプルだ。一斉強化を維持したまま、生卵を割らずにカゴからカゴへ移すこと。
リディアは額に汗を浮かべ、震える手を生卵に伸ばす。
「……ふんぬっ!」
リディアが指を触れさせた瞬間、『パァン!』という爆音と共に卵が霧散した。 衝撃波で、横にいたエリックの兜がわずかに歪む。
「リディア様、それは『掴む』ではなく『粉砕』です」
ナオが冷静にスコアを付ける。「卵の生存時間:0.02秒。失格です」
■ 日本の掲示板:【悲報】リディア様のデリケート操作、絶望的
320:名無しの軍師
今のは卵が割れたんじゃない、リディア様の指の気圧差で「爆発」したんだ。
321:名無しの軍師
見てるこっちが息止まるわww
エリックが後ろで「次は私の番か……」って遺書書いてるような顔してるぞ。
322:名無しの軍師
ギフト「不壊の魔導卵(50,000円)」が贈られました!
これ、鋼鉄より硬いからリディア様でも練習になるはず。
■ 第二次試練:豆腐の湯切り
カイルが特製の「超高密度豆腐」を作ってきたが、リディアの指先にかかればそれはプリンも同然だ。
リディアは必死だった。レナードに美味しい料理を作りたい、レナードを優しく抱きしめたい。その純粋な「愛」が、逆に彼女の筋肉を鋼鉄に変えてしまう。
「……落ち着くのよ、リディア。私は羽毛……私は空気……レナードは壊れ物……」
自己暗示をかけながら、リディアはプルプルと震える手で豆腐を掬い上げた。奇跡的に豆腐の形が保たれている!
管制室で見守るレナードも拳を握る。「いける、いけるぞリディア!」
だが、その時。
「リディア様、素敵です! その調子で私とハイタッチを――」
空気を読まないシオンが駆け寄った。
「来ないでぇぇぇ!」
驚いたリディアの力が一瞬だけ「出力最大」に跳ね上がった。
豆腐は音速を超えて天井を貫通し、空の彼方へと消えていった。 その余波で、訓練場の地面がクレーターのように陥没する。
■ 結末:愛の着地点
結局、特訓は大失敗に終わった。
項垂れるリディアの横で、ナオが計算機を叩きながら告げる。
「結論が出ました。リディア様。現状、貴女がレナード様を傷つけずに触れ合える唯一の方法は――『レナード様も、貴女と同等の強度まで一斉強化を重ねがけすること』だけです」
「……えっ?」
レナードが顔を引き攣らせる。
「つまり、レナードも私と同じくらい頑丈になれば、私が全力で抱きしめても……平気なの!?」
リディアの瞳が、希望に満ちてキラキラと輝き出した。
「待て、ナオ! それだと俺まで日常生活でドアノブを握り潰すことになるだろ! やめろ、リディア、その『全力でハグする準備』の構えを解くんだ!」
笑い声と地響きが絶えない公爵邸の日常。
しかし、この「力が有り余る」という冗談のような事態が、後の深刻な「技術格差と事故」の前触れであることを、この時の彼らはまだ知る由もなかった。




