第61話:情報の「光」と、大臣の泣き言
アスベル公爵領の発展は、もはや「一領地の成功」という枠を完全に逸脱していた。 『凍てつく廃坑』から溢れ出す資源、マルタが管理する偽造不能な「動く紙幣」、そして領民全員が超人化したことで、王都を凌駕する活気がこの地には満ちている。
だが、その歪なまでの繁栄が、中央政府の喉元に刃を突きつけていた。
「レナード殿! 頼むから、もう少し手加減をしてくれんか!」 公爵邸の執務室に駆け込んできたのは、王都通商大臣ザッカーだった。 彼は以前、レナードと組んで『アスベル・ワイドニュース』を立ち上げ、自らも「正義の味方」として人気を博している共犯者である。だが、今の彼の顔は、いつになく引き攣っていた。
「……何か問題でも? ニュースの視聴率は絶好調だと聞いていますが」 レナードがナオに淹れさせた茶を差し出すと、ザッカーはそれを一気に飲み干して叫んだ。
「そのニュースが効きすぎているのだ! 街道整備の映像を見た他領の民が、『なぜ俺たちの領地はアスベル領のように石畳にならないんだ!』と各地で暴動寸前になっている。王室の権威は地に落ち、保守派の貴族どもは『アスベル公爵が民を煽動している』と陛下に突き上げを食らわせているのだぞ!」
ザッカーの相談は切実だった。このままでは王室がメンツを守るために、レナードを「国家の敵」として断罪せざるを得なくなるという。
■ 「光」の当てる場所を変える
レナードは、日本側の掲示板に流れる**『成功しすぎてヘイト買っちゃったか』『出る杭は打たれる異世界あるある』**といったコメントを横目に、ナオと視線を交わした。 ナオは、以前作成した「王都・アスベル領共同プロジェクト」のリストを静かに机に置いた。
「大臣。権威が落ちているのであれば、ニュースの『光』の当て方を変えればいいだけのことです」
「……何だと?」
「今までは『アスベル領の成功』を映してきました。ですが、これからは『アスベル領の技術によって、いかに王家が民を救っているか』という物語を、我々のカメラで世界に配信するのです」
レナードが具体案を畳み掛ける。 「カイルの建設部隊を、一時的に『王室直属の工兵団』という肩書きで派遣します。王都の貧民街を一晩で舗装し、その様子をニュースで『王の慈悲による大改修』としてドラマチックに流しましょう。ナオ、編集はできるな?」
「ええ、レナード様。シオン殿と協力し、国王陛下が自ら指揮を執っているかのような、感動的な映像に仕上げます」
■ 相談から「共犯」へ
「……なるほど。手柄をすべて王室に献上したことにするのか。そうすれば、陛下も不満を言えなくなるどころか、この放送の力を手放せなくなるな……」 ザッカー大臣の目が、再び欲望にぎらつき始めた。
「そうです。情報の光を当てる場所を、僕たちが選ぶ。そうすれば、どれほど発展させようとも、それは『王国の栄光』として正当化されます」
■ 日本の掲示板:【政治】レナード、大臣をまた丸め込んでて草
290:名無しの軍師 大臣、「発展させすぎ」って文句言いに来たのに、帰り際には「次の放送の台本を見せてくれ」ってノリノリじゃねーかwww
291:名無しの軍師 ナオちゃんの「王室直属という肩書きの貸し出し」提案、政治的に完璧すぎる。 実力はレナードが握ったまま、名誉だけ王室に投げて黙らせるスタイル。
292:名無しの軍師 これ、王都の貧民街を「劇的ビフォーアフター」する番組が始まる予感。 BGMはシオンちゃんの感動バラードかな?w
「……ふふ、お前という男は、恐ろしい。だが、その恐ろしさに乗らぬ手はないな」 ザッカー大臣は満足げに笑い、再び「正義の大臣」の顔を作って去っていった。
レナードは、去りゆく大臣の背中を見送りながら、次の「放送内容」を練り始めた。 内政の次は、国家を巻き込んだ「巨大な演出」の幕が上がろうとしていた。




