第59話:実践! ダンジョン攻略チュートリアル
領地北部に位置する『凍てつく廃坑』。かつては良質な鉄鉱石を産出していたが、今では魔物の巣窟となり、巨大な岩で封鎖されていた。
その門前で、レナードは不可視の配信カメラに向かって語りかける。
「みんな、見ててくれ。資源が足りないなら、自分たちで獲りに行けばいい。今日はエリックの部隊と一緒に、魔物の倒し方を『解説』する」
背後には、騎士エリック率いる重装歩兵部隊が控えている。だが、今日の彼らはいつもの大層な全身鎧を脱ぎ捨て、領民でも手に入るような皮鎧と、標準的な盾、そして簡素な剣という「軽装」だった。
『シオンの広報放送(アスベル放送局)を開始します。全街頭モニター、接続完了!』
ナオの冷静な声と共に、街中のモニターにレナードたちの姿が映し出された。酒場や広場で作業の手を止めた領民たちが、固唾を飲んで画面を見守る。
■ 「怖くない」魔物討伐
洞窟に入ると、すぐに巨大な牙を持つ『ケーブ・ウルフ』の群れが現れた。普通なら、一般人は腰を抜かして逃げ出す魔物だ。
「いいか、みんな。魔物は怖くない。まずは一斉強化を感じてくれ。体の反応がいつもより速いはずだ」
レナードの指示で、エリックが一歩前に出る。 「盾の構えはこうだ。力で押さえつけるんじゃない。衝撃を逃がすように、少し角度をつけろ。……ほら、簡単だろう?」
エリックが最小限の動きでウルフの突進を盾で受け流す。無駄のない動きは、まるで熟練の職人の手仕事のようだ。
「次は攻撃だ。無闇に振り回すな。魔物が飛びかかってきた『隙』を突くだけでいい。……エリック、見せてやれ」
エリックは剣を振りかぶらず、最短距離で突きを放った。一斉強化によって引き上げられた身体能力は、軽装であっても魔物の急所を正確に、そして深く貫く。
「すごい……騎士様たちが、まるでダンスを踊っているみたいだ……」 「あれなら、俺たちでも落ち着けばできるんじゃないか?」 モニター越しの領民たちから、驚きの声が漏れる。
■ 日本の掲示板:【攻略】エリックの「丁寧な魔物教室」はじまった【初心者歓迎】
270:名無しの軍師 エリックさん、教え方うめえww 「盾を少し斜めにするだけ」とか、具体的で分かりやすいわ。
271:名無しの軍師 レナードが横で「ナイスパリィ!」とか解説してるのもいいな。 これ、実戦っていうか、ガチの「攻略動画配信」だろ。
272:名無しの軍師 重装歩兵があえて軽装なのが効いてるな。 「特別な装備がなくても、加護があれば戦える」ってことを身をもって証明してる。 見てる領民たちの目が、だんだん「恐怖」から「獲物を狙う目」に変わってきてるぞ。
273:名無しの軍師
272 ナオちゃんが画面の隅に「魔物の解体チャート」をテロップで出してるw 討伐から素材回収までをセットで教えるとか、徹底してんなぁ。
■ 資源の山へ
最深部にたどり着いたレナードたちは、巨大な魔石を背負った『ストーンゴーレム』を鮮やかに仕留めてみせた。 崩れ落ちたゴーレムの背後には、かつて掘り残された最高純度の鉄鉱石と、建材に最適な魔導石が壁一面に輝いていた。
「エリック、よくやった。……領民のみんな、聞いたか! ここにある資源は、俺たち全員のものだ!」
レナードはカメラを指差した。
「明日からは、希望者にこの攻略セット(軽装装備)を貸し出す。部隊の奴らがガイドとして同行する。自分たちの家を作るための石を、自分たちの手で獲りに行こうぜ!」
その瞬間、街中の酒場から、地鳴りのような歓声が上がった。 魔物への恐怖は消え、自分たちの手で「豊かな未来」を掴み取れるという高揚感が、アスベル領全体を包み込んだ。
隣で静かに中継を管理していたナオが、小さな声でレナードに告げた。 「……レナード様。明日の『入山希望者』の登録数、既にカイル殿の想定を超えそうですわ」
レナードは、画面の向こうで盛り上がる「軍師」たちに、満足げにウィンクしてみせた。




