第58話:急加速の果て、空っぽの倉庫
アスベル公爵領の発展は、さながら濁流のようだった。
カイルの設計、マルタの資金運用、ナオの調整、そしてレナードの『全領民一斉強化』。これらが噛み合った結果、本来なら数年かかる都市建設が、わずか数週間で形を成していた。
だが、その濁流がぴたりと止まった。
「……閣下。致命的な事態です」
公爵邸の作戦会議室。カイルが広げた図面には、赤字で「資材不足」の文字が躍っていた。
「超人化した領民たちの作業速度が、我々の予想を遥かに超えました。石切り場からは岩が消え、森からは建材に適した古木が消えました。今や職人たちは、積むべき石がないまま立ち尽くしている状態です」
「マルタ、他領から買い付けることはできないのか?」
レナードの問いに、マルタは首を振った。
「不可能です。近隣の領主たちは、我々の急速な発展を警戒し、物資の輸出を制限し始めました。今ある在庫では、あと三日も持ちません」
これまでは「人の力」で解決してきた。だが、石や鉄といった物理的な資源そのものがないのでは、どれほど力があっても家は建たない。
■ 日本の掲示板:【悲報】アスベル領、素材がなくてエールしか作れない
260:名無しの軍師
あー、やっぱりこうなったか。
「作る速度」が「素材を掘る速度」を追い越しちゃったんだな。
261:名無しの軍師
建築ラッシュあるあるだな。
カイルさんのプレハブ工法が優秀すぎて、素材の消費量がバグってるw
このままじゃ発展が止まって、せっかくの活気が冷めちゃうぞ。
262:名無しの軍師
なあ、領地の北にある『凍てつく廃坑』ってダンジョン、あそこ鉄鉱石と魔石の宝庫じゃなかったっけ?
帝国時代に魔物が増えすぎて封鎖されたはずだけど。
263:名無しの軍師
それだ!
素材がないなら、ダンジョンを鉱山として再開発すればいい。
問題は、今の領民たちに「あんな怖い場所に行ける」と思わせるかどうかだな。
■ レナードの決断
掲示板の意見は、レナードの考えと一致していた。
領地の北部に眠る未攻略ダンジョン。そこには、都市をさらに巨大化させるために必要な「特級の石材」と「鉄鉱石」が眠っている。
「エリックを呼べ。それと、広報のシオンもだ」
レナードは、ナオが用意したダンジョンの地図を広げた。
「これからダンジョンを攻略し、そこを俺たちの『資源倉庫』にする。だが、俺一人でやるんじゃない。領民たちに『自分たちでも魔物を倒し、資源を手に入れられる』という自信を持たせるんだ」
隣で控えていたナオが、即座に意図を汲み取る。
「……なるほど。攻略の様子を『教育番組』として配信するのですね。エリック殿の部隊に手本を見せてもらい、恐怖心を払拭させると」
「ああ。エリック、今回は重装歩兵部隊を出すが、装備はあえて軽装でいけ。威圧感を与えるんじゃなく、『誰でも真似できる戦い方』を丁寧に教えるんだ」
エリックが拳を胸に当て、力強く頷いた。
「承知いたしました。我ら重装歩兵部隊が、領民たちの先駆となりましょう」
資源不足という最大の壁を前に、レナードは新たな「配信」のカードを切る。
それは、領民一人一人が「自分の力で未来を切り拓く」ための、実践型チュートリアルの始まりだった。




