第57話:『黄金の麦亭』の喧騒と、忍び寄る「限界」
新都市のメインストリートに構える酒場『黄金の麦亭』は、もはや単なる飲食店ではなかった。
「おい店主! この『肉厚串焼き』、おかわりだ! 景気良くな!」
加護で逞しくなった腕を振り、元難民の男が声を上げる。
店主は、カイルが設計した最新式の「魔導オーブン」から、ジューシーに焼き上がった肉を取り出した。
「あいよ! ……おっと、支払いはその『レナード札』で頼むぜ。今の映像は……よし、**『串焼きを頬張る閣下』**だな。本物だ!」
店内のあちこちで、人々がお札をかざして笑い合っている。
マルタが導入した「動く紙幣」は、今やこの街の共通言語だ。もし映像の動きが少しでもズレている札があれば、周囲の客が「おい、その閣下、動きがぎこちねえぞ?」と即座に指摘する。
さらに、酒場の隅に設置された「魔導モニター」からは、シオンのプロデュースしたアップテンポな音楽が流れ、街の最新ルールを明るい歌声で伝えている。
「♪ ゴミは捨てずに、指定の場所へ! 街が綺麗なら、明日もハッピー! ♪」
泥を啜り、絶望していた人々が、今では歌を口ずさみながら、アスベル紙幣でエールを酌み交わしている。かつては暗かった夜の街も、街路に設置された定点カメラが日本の視聴者たちに監視され、どんな路地裏よりも安全な「不夜城」と化していた。
■ 日本の掲示板:【飯テロ】この酒場、異世界で一番行きたい場所なんだが
250:名無しの軍師
見てるだけでヨダレが出るわw
カイルの設計した換気システムのおかげで、酒場なのに全然煙たくないんだな。
251:名無しの軍師
「串焼きを食うレナード札」を店主がチェックする流れ、もう完全に定着してるな。
レナード、お札の更新タイミングをナオちゃんに任せて正解だったよ。
「酔っ払いが一番見分けやすいポーズ」に設定してある。
252:名無しの軍師
定点カメラ34番(酒場の入口)見てみろよ。
衛兵のユリウスが巡回に来ただけで、ガラの悪い連中が背筋伸ばして「お疲れ様です!」って挨拶してるぞ。治安良すぎだろ。
253:名無しの軍師
シオンちゃんの新曲、酒場の親父たちまで合唱し始めてて草。
これが「内政無双」の完成形か……。
■ 繁栄の影に隠れた「叫び」
そんな賑わいの中、レナードはナオと共に、街の発展状況の視察を終えて公爵邸へ戻ろうとしていた。
だが、そこへ険しい顔をしたカイルが駆け寄ってくる。
「閣下! 困りました。建物の建設スピードが、ついに物理的な限界に達しました!」
「どうした、カイル? 領民たちの『一斉強化』は順調だろう?」
「ええ、人の力は十分すぎます。ですが、その超人的な速度で石材を積み上げ続けた結果……ついに領内の石切り場から、使える石材が枯渇しました! 鉄材も、バラムの工房の在庫が底を突いています!」
レナードは絶句した。
人の力が強くなりすぎたことで、素材の供給が追いつかなくなるという、文字通りの「急速すぎる発展」の弊害だった。
ナオが手元の帳簿を素早く確認し、補足する。
「マルタ殿からも、市場での鉄釘や木材の価格が高騰し始めていると報告が入っています。レナード様……このままでは、新しい家を建てる手が止まってしまいます」
画面の向こうの視聴者たちからも、焦りのコメントが流れ始める。
『うわ、素材切れかよ』『内政やりすぎた弊害きたな……』『どこかで調達してこないと詰むぞ』
レナードは拳を握り、領地の背後に広がる未開の山々を見上げた。
「……ないなら、獲りに行くしかないな。あそこには、手付かずの資源が眠っているはずだ」




