第55話:法務官ユリウスと、20万人の監視網
シオンの歌声が街に溢れ、活気に沸くアスベル公爵領。しかし、その急速な発展を苦々しく見つめる者たちがいた。
「フン、所詮は成金公爵のままごとよ。少し揺さぶれば、こんな砂上の楼閣、すぐに崩れるわ」
新都市の裏路地。旧ボナパルト領の利権を奪われた小貴族アルベルトは、帝国の残党と手を組み、大規模な暴動を画策していた。彼らは夜陰に乗じて食料庫を焼き、偽札の噂を流して経済を麻痺させようと、着々と準備を進めていたのだ。
だが、彼らは致命的なミスを犯していた。
このアスベル公爵領には、レナードのスキルによって**「定点ライブカメラ」**が街中の至る所に設置されていたのだ。
当然見切れるものではないので、レナードたちは見ていない。もはや視聴者のカメラとなっていた。
日本向けに24時間、あらゆる角度から領内の様子を映し出す「異世界定点放送」であり、日本の視聴者にとっては「推しの領地を眺める癒やしの映像」だったが、悪党にとっては逃げ場なき監視の目そのものだった。
「……閣下。害虫が、網にかかりました」
法務官ユリウスが、冷徹な報告と共に、一束の証拠資料をレナードの前に置いた。
■ 逃げ場なき「公開裁判」
翌日。広場の巨大モニターに映し出されたのは、拘束されたアルベルトたちの無様な姿だった。
「これより、第一回公開裁判を執り行う。被告人アルベルト。罪状は領内転覆未遂。……証拠は、この街に設置された**『365箇所の聖なる眼』**の記録です」
ユリウスが指を鳴らすと、モニターの画面が分割され、昨晩の裏路地が映し出された。そこには、周囲を警戒しながら帝国兵と密談し、火種を受け取るアルベルトの姿が、フルカラーで鮮明に記録されていた。
「な、なんだこれは!? なぜ、あんな暗がりの出来事が……!」
「閣下の目は、眠ることを知りません。そして、その目は海の向こうにいる20万人の『軍師』たちとも繋がっているのです」
■ 日本の掲示板:【監視カメラ】裏路地スレ民、大手柄www
230:名無しの軍師
【朗報】俺たちの「監視カメラ24時スレ」の通報、採用されるwww
昨日の深夜2時に路地裏でコソコソしてた奴、やっぱりスパイだったか!
231:名無しの軍師
「カメラ12番、不審者発見」ってコメントしたの俺だわ。
レナードが寝てる間も、俺たちが交代で画面に張り付いてるからな。
異世界で完全密室なんて不可能だと思え。
232:名無しの軍師
ユリウスさん、モニターを指差して「ログは嘘をつきません」ってカッコよすぎ。
中世の貴族が、日本のネット民の『動体検知』に敗北する瞬間、最高にスカッとするな。
233:名無しの軍師
アルベルト「誰も見ていなかったはずだ!」
視聴者「「「「「俺たちが20万人で見てたぞ!!!」」」」」
■ 法の下の平等
「被告人、アルベルト。貴公の全財産を没収し、十年の強制労働を命ずる。……異議は認めない」
ユリウスが法典を閉じると、広場に集まった民衆から地鳴りのような歓声が上がった。
これまで理不尽な悪事に泣き寝入りしてきた難民たちにとって、これほど「公平な裁き」は見たことがなかった。
「レナード様! 公爵様バンザイ!!」
ユリウスはレナードの方を向き、深々と一礼した。
「閣下。これで民は確信したでしょう。『この街では、誰一人として悪事を見逃されることはない』と。それこそが、最強の抑止力となります」
レナードは、画面の向こうで今も各地点のカメラ映像をチェックしている「軍師」たちに、感謝を込めて頷いた。
(みんな、ありがとうな。お前たちが24時間体制で見ててくれるおかげで、この領地は世界一安全な場所になったよ)




