54話:広報官シオンと、空飛ぶ教室
紙幣が整い、家も建った。しかし、次なる問題は「中身」だった。
急造された新都市に集まったのは、文字も読めず、法律も知らない難民たちだ。彼らにアスベル公爵領のルールや、新しい紙幣の計算方法を教えなければ、せっかくの経済も止まってしまう。
「公爵閣下。教科書を配る時間も、教師を育てる余裕もありません……。ですので、『耳』と『目』をジャックしましょう」
そう言って不敵に微笑んだのは、広報官のシオンだ。
彼女はレナードが視聴者から募った「アイドル文化」や「キャッチーなCMソング」の概念を、驚くべき速さでこの世界の魔導技術に落とし込んでいた。
■ 異世界初の「教育放送」
ある朝、都市の中央広場や酒場に設置された巨大な魔導モニター(レナードの配信を映す魔法の鏡)が、一斉に鳴り響いた。
「皆さ~ん! おはようございます! アスベル公爵領・広報官のシオンです!」
画面に映し出されたのは、キラキラとした衣装を纏い、最高に愛くるしい笑顔を振りまくシオンの姿だ。
人々が足を止める中、軽快なリズムの音楽が流れ出す。シオンが歌いながら、新しいお札を手に取って踊り始めた。
『♪ 1・2・3で公爵様~! ウィンクひとつでパン三つ!
ニセモノ見つけりゃすぐ通報! 明日のご飯は豪華だぞ~! ♪』
一度聴いたら耳から離れないメロディ。
シオンは歌の合間に、紙幣の見分け方や、新しく決まった「ゴミ捨てのルール」「喧嘩の罰金」などを、リズムに合わせて面白おかしく解説していく。
「文字が読めなくても大丈夫! この歌を覚えれば、皆さんも立派なアスベル領民です!」
■ 日本の掲示板:【中毒性】アスベル領のテーマソング、脳が溶けるwww
220:名無しの視聴者
シオンちゃんの「アスベル音頭」、中毒性高すぎだろww
「ウィンクひとつでパン三つ」ってフレーズ、もう頭から離れないんだが。
221:名無しの視聴者
これ、異世界の「教育番組」かよw
子供たちが広場でシオンちゃんのダンスを真似しながら、お札の数え方を覚えてる。
教科書配るより100倍効率いいわ。
222:名無しの視聴者
221
しかもシオンちゃん、時々「レナード様への投げ銭(納税)も忘れないでね☆」とか言ってて草。
広報官っていうか、最強のプロパガンダ・アイドルじゃねえか!
223:名無しの視聴者
レナード、横で死んだ魚の目をして見てるの映ってるぞw
自分のウィンク顔が歌のネタにされてるからな……。
■ 浸透する「ルール」
「シオン殿、これほど早く民が法律を覚えるとは……」
法務官ユリウスが、感心したように呟いた。
難民の子供たちは、シオンの歌を歌いながら、落ちているゴミを拾って指定の場所へ運んでいる。歌の歌詞に「ゴミは魔法の箱の中、公爵様が見てるぞ~」という一節があるからだ。
「教育とは、まず楽しむこと。そして口ずさむことですわ」
シオンはレナードの方を向き、悪戯っぽく微笑んだ。
「さあ閣下! 次は閣下も一緒に、新曲『納税は愛の証』を踊っていただきますわよ! 20万人の視聴者も待っています!」
「……マルタといいシオンといい、お前ら俺を何だと思ってるんだ?」
レナードは頭を抱えたが、街に流れるシオンの歌声と、それを見て笑う民たちの明るい顔を見て、自分たちの「理想の国」が着実に形作られていることを実感していた。




