53話:一斉更新(アップデート)と酒場の喧騒
新都市の酒場『黄金の麦亭』は、仕事終わりの領民たちで溢れかえっていた。
かつては偽札を警戒して、金貨を噛んだり天秤にかけたりと殺伐としていた会計風景は、今や全く別のものに変わっている。
「店主、会計だ。この『レナード札』で頼むわ」
男が差し出した紙幣。その中央の枠内では、レナードが**「串焼きを頬張って、熱さに悶絶しながら親指を立てる」**という5秒間の映像がループ再生されていた。
店主は手元にある「見本」の札と見比べ、映像の動きが寸分違わず一致しているのを確認する。
「おう、間違いねえな! 閣下のこの『あふあふ』してる顔、いつ見ても笑えるぜ」
「全くだ。昨日までは『ウィンクに失敗する閣下』だったのに、今朝起きたら一斉にこれに変わってたからな。最初は何事かと思ったぜ」
そう、この紙幣の最大の特徴は、レナードがLPを消費して**「領内の全紙幣の映像を一括で書き換えられる」**点にある。
「偽札作りも大変だろうな。何日もかけて必死に『ウィンクする閣下』を模写しても、朝起きたら本物は全部『串焼きを食う閣下』に変わっちまってるんだからよ!」
「ハハハ! 動きが少しでもズレてたり、ポーズが古かったら即バレだもんな。偽物掴まされる心配がねえのは助かるぜ」
■ 日本の掲示板:【悲報】偽造犯、あまりの更新速度に絶望して廃業へ
210:名無しの視聴者
酒場で「閣下のあふあふ顔」が通貨として通用してるのシュールすぎるwww
211:名無しの視聴者
これ、マルタさんの戦略がエグいんだよな。
「映像は全紙幣共通」にすることで、民衆全員に「今、本物がどんな動きをしているか」を完璧に覚えさせてる。
少しでも違う動きをしてる札があれば、子供でも「あ、これ偽物だ!」ってわかる。
212:名無しの視聴者
211
しかも更新タイミングがマルタさんのさじ加減一つっていうね。
偽造犯が必死にドット単位で模写して、いざ市場に流そうとした瞬間にレナードがLPポチーで映像変更。
偽造にかかったコストが全部ゴミになる絶望感よ。
213:名無しの視聴者
「あふあふ顔」の次はなんだろう。
マルタさんのことだから、次は「寝癖を直そうとして失敗するレナード」とか来そう。
■ 財務官の冷徹な管理
公爵邸の執務室では、マルタが水晶板を片手に、市場の流通速度をチェックしていた。
「閣下、映像の『一斉更新』から3時間。市場の混乱はゼロ、偽札の摘発数は12件。すべて『ウィンク映像』のままの古い偽札でした」
レナードは、自分がお札の中で熱い串焼きにのたうち回っている姿から目を逸らした。
「……なぁマルタ。これ、全部同じ映像にしなきゃいけないのは分かるけど、もっとこう……公爵らしい、威厳のある映像はなかったのか?」
「ありませんね。民が覚えやすく、かつ偽造犯が『書きたくない(あるいは描写が面倒な)』複雑な動きである必要があります。閣下の悶絶顔は、その点において極めて優秀なセキュリティなのです」
マルタは無表情のまま、次なる更新用の魔法録画を起動した。
「次は『鼻にスパイスが入って、くしゃみを我慢し続ける閣下』で行きます。閣下、準備はよろしいですか?」
「……俺の尊厳、一銅貨の価値もねえな……」
レナードが涙目で鼻をムズムズさせている横で、マルタは淡々と「更新ボタン」に指をかける。
画面の向こうの視聴者たちは、次の「お札」がどんな面白い動きになるのかを期待して、投げ銭の嵐を巻き起こしていた。




