52話:財務官マルタと、刻まれた「生きた証
新都市の市場は、混乱の極みにあった。
旧帝国の通貨や王国の貨幣が入り乱れ、物価は不安定。偽札を掴まされる難民も後を絶たず、せっかく手に入れた新しい生活に、再び不信感の影が落ちていた。
「……閣下。独自の紙幣を発行しましょう。それも、絶対に偽造できないものを」
財務官マルタの提案に、レナードは眉をひそめた。
「紙幣か。だがマルタ、紙なんて魔法で簡単にコピーされるだろ? 偽札が出回ったら、この領地の信用は一瞬で崩壊するぞ」
「ええ。通常の絵や文字なら、腕の良い魔法師なら模倣するでしょうね。……ですが、**閣下の『あの機能』**を使えば話は別です」
「あの機能?」
「以前、私がぼやいていたのを忘れたのですか? 『配信スキルには、指定した枠の中に閣下が撮った映像をループ再生させ続ける機能があるけれど、自分の自慢のポーズを見せつける以外に使い道がない』……と」
レナードの脳裏に、以前マルタとスキルの詳細を確認していた時の光景が蘇った。
「ああ……。自分のベストショットを枠内に固定して、無限にリピート再生するだけの機能か。『ナルシスト専用の魔法ですね』ってマルタに呆れられたっけな……」
戦場で自分のお気に入りの映像を流しても意味がないと、レナード自身も「無能な死に機能」だと切り捨てていたのだ。
「あれを、紙幣の肖像画として使いなさい。その紙には、閣下が指定した『数秒間の映像』が永続的に映り続けます」
■ 「動く肖像画」という、究極の証明
マルタが差し出した上質な紙に、レナードがスキルを発動する。
すると、紙の中央にある四角い枠の中に、レナードが「よお!」と快活に笑い、親指を立てる数秒間の映像が浮かび上がった。
映像は、枠の中で何度も、何度も繰り返される。
「……! これ、肖像画が本当に動いてる……!」
「そうです。魔法で色を似せることはできても、閣下のスキルによって『数秒間の生きた映像』を紙面に定着させるなど、誰にも作れません。この肖像画が動き続けていること自体が、公爵領が発行した本物である何よりの証明になります」
さらにマルタは不敵に笑った。
「もし万が一、これすらコピーするような化け物が現れたら、LPを消費して『一斉更新』すればいい。お札の中の閣下の映像を、一瞬で『別のポーズ』に切り替えるのです。古い偽札は、その瞬間にただの紙屑になりますわ」
■ マルタ、凄すぎる……
「閣下のスキルは、単なる娯楽ではありません。世界で最も『偽造できない信用』を物理的に刷り出す力なのです。さあ、どんどん刷りますわよ。民が安心してパンを買えるように」
かつて二人で「使い道がない」と笑い飛ばした機能が、マルタの知恵によって、国家の根幹を支える「通貨セキュリティ」へと昇華した。
レナードは、淡々と作業を進めるマルタの横顔を見て、素直に舌を巻いた。
(マルタ、お前……あの時の言葉をずっと覚えて、こんな使い道を考えてたのか。本当に天才だよ)
■ 日本の掲示板:【速報】レナードのお札、本人がループ再生されてて草
205:名無しの視聴者
お札の中でレナードが「ナイス!」ってずっと親指立てててワロタwww
これ、魔法使いでも再現不能だろ。
206:名無しの視聴者
偽造犯「よし、完璧に書き写したぞ!」
レナード「LP消費! お札の映像を一斉変更!」
お札のレナード「(ポーズがウィンクに変わる)」
偽造犯「工エエー!!??」
207:名無しの視聴者
マルタさん、有能すぎて怖い。
「自分を見て楽しむ機能」を「世界最強の透かし」として活用するとか。
おかげで難民のおばちゃんたちも、「公爵様が笑ってるお札だ!」って安心して受け取ってる。
「アスベル紙幣」は、爆発的な勢いで領内に普及した。
お札の中で微笑み、動き続けるレナードは、民にとって単なるお金ではなく、自分たちをいつも見守ってくれる「公爵様」そのものとして、絶大な信頼を得ることになったのである。




