第50.5話:建築のカイルと、異世界のプレハブ(前半)
「アスベル公爵領」となった広大な北部。
しかし、旧ボナパルト領は帝国の撤退戦とアスベル軍の攻勢で壊滅的な打撃を受け、数万の難民が冬を目前に住居を失っていた。
「公爵閣下、このままでは冬を越せません。せめて簡易的な居住区を……」
衛兵長ミゲルが、焦りの滲んだ声で進言する。
レナードは、新設された専門官会議室で、建築官のカイルに語りかけた。
「カイル。難民たちの住居問題だ。掲示板の軍師たちに相談したところ、『プレハブ工法』というものが有効だと。……なんだ?」
レナードの言葉に、カイルの顔色が明らかに曇った。
「プレハブ……工法、ですか。前に話してた件ですね。まさか、あの『箱を積み重ねるだけ』という奇抜な工法のことでしょうか? しかし、あれは王都の貴族が道楽で試した際に、強風で吹き飛び、あっという間に廃れたと聞いておりますが……」
カイルは困惑した表情で続けた。
「……恐縮ですが、閣下。日本の『プレハブ』とやらは、この世界の風土には不向きです。素材は木材が主でしょう? 我が北部では冬には猛吹雪が吹き荒れ、夏には強烈な日差しが降り注ぎます。脆弱な木造建築では、すぐに朽ち果てるか、吹き飛んでしまう。それに、魔物からの襲撃に耐える強度もありません」
(そうか……日本の木造プレハブを、そのまま異世界に持ち込めるわけじゃないか……!)
レナードは、自身の知識不足を痛感した。
画面越しの「軍師」たちはあくまで現代日本の常識でアドバイスをしている。
それをこの世界に「翻訳」し、応用するのは、レナードではなく、現場の専門官たちの役目だった。
「……すまない、カイル。俺の知識が浅かった」
レナードは素直に謝罪した上で、再度、掲示板の情報を整理し、本質を伝えることにした。
「プレハブ工法の本質は、『現地で一から建てるのではなく、工場で部品を作り、現場で組み立てることで、建設速度を劇的に早めること』だ。建材は、木材でなくてもいい。この北部に豊富にある『石材』や、バラムが開発した『強化鉄材』を使えないか?」
レナードの真意を聞いた瞬間、カイルの瞳に、知的な光が宿った。
「なるほど……。工場生産による『規格化』と『現場組み立て』。これならば……!」
カイルは、持参していた設計図を広げ、その場でペンを走らせ始めた。
「当領で採れる安価な石材を魔導で均一に加工し、運搬。レナード様が先日一斉強化したことで領民は力も強くなぅているので問題ないでしょう。バラム殿の強化鉄材を骨組みにすることで、従来の数倍の速度で、魔物にも耐えうる堅牢な住宅を……いえ、『都市』を建設できます!」
カイルの瞳は、興奮に燃えていた。
「この発想があれば、冬季の厳しさも、魔物の脅威も乗り越え、あっという間に万単位の人間が暮らせる都市を築き上げることが可能です!」
レナードは、カイルのその柔軟性と応用力に感銘を受けた。
この男は、単なる職人ではない。異世界の常識と日本の知識を繋ぎ合わせ、全く新しいものを生み出す「天才」だ。
「よし、カイル。頼む! 冬が来る前に、難民たちに安住の地を!」
「御意に! 最速で、最高の都市を築き上げましょう!」
カイルはそう言って、そのまま工房へと駆け出していった。
レナードは、画面の向こうの視聴者たちに語りかける。
(みんな、見ててくれ。俺たちの知恵と、この世界の天才たちが、今、世界を変える)
■ 日本の掲示板:【速報】カイル建築官、日本のプレハブを異世界仕様に魔改造へ
100:名無しの軍師
レナード、プレハブをそのまま持ち込もうとしたのやっぱダメだったかw
まあ、異世界の気候とか魔物の襲撃とか、想定外の要素が多いもんな。
101:名無しの軍師
でも、そこからのカイルの適応力がエグい。
「石材を規格化して運搬」「強化鉄材を骨組み」って、完全に現代建築の概念じゃん。
「プレハブ」の概念だけ聞いて、その場で最適な異世界工法を編み出すとか天才かよ。
102:名無しの軍師
これぞ『視聴者の知恵』と『異世界の天才』の融合だろ。
レナードはあくまで『概念』を伝える触媒にすぎないってのがよくわかる。
カイル、有能すぎる。これもうカイル視点の建築シミュレーション回だろ。
103:名無しの軍師
冬を前に数万人の難民に家をって……。
この世界、やることの規模がデカすぎる。
俺たちのLPも、次の建築資材開発に回したほうがいいか?
104:名無しの軍師
決まりだな。
今から「魔導クレーン」とか「魔導ロードローラー」の設計図、コメント欄にぶち込んでくるわ。
カイルならきっと具現化してくれるはず。




