第48話:黄金のレギオン・ブレス
その瞬間、視界の端にあるシステムカウンターが、目まぐるしい速さで回転し——**『200,000』**の数字を叩き出した。
刹那、レナードの脳内に、物理的な衝撃を伴うほどの膨大な「声」が流れ込んできた。それは120万人のフォロワーたちの祈り、そして今この瞬間に画面へかじりついている20万人の叫びだった。
【通知:同時接続20万人達成。LP新機能『全領民一斉強化・加護』——完全解放】
「LP、全・消・費!!」
レナードが、血の涙を拭いもせず咆哮した。
抱きかかえたリディアの体温はもう、指先ですら感じ取れないほど冷え切っていた。だが——。
「システム起動! 繋がれ、俺たちの命!! 『黄金の循環』発動!!」
ドォォォォン!! と、戦場そのものが震えるような重低音が響き渡る。
レナードの胸元から、眩いばかりの黄金の波動が円状に広がった。それは傍らに立つエリック、ミゲル、そして立ち尽くす数千のアスベル兵たちを次々と飲み込んでいく。
「な、なんだ……この光は!?」
「力が……体中から溢れてくる!」
驚愕の声が上がる。光に触れた兵士たちの体からは、日々の疲労や戦傷が消え去り、その肉体は神銀をも凌駕する密度へと強化されていく。
だが、このスキルの真価は「強化」ではなかった。
「……集まれ……!」
レナードがリディアを抱きしめる。
兵士たちから立ち上る黄金の粒子が、レナードを中継点として、リディアの傷口へと一点に集中した。
それは20万人の視聴者と、数千の兵士たちの「生命力」を一本の太いパイプに繋ぎ、一人の少女に注ぎ込むという、神の領域の術理。
リディアの体内に入り込んでいた黒曜石の呪い――黒い煤のようなモヤが、圧倒的な「命の総量」に押し潰され、悲鳴を上げるように蒸発していく。
「あ…………ぁ…………」
リディアの白い喉が、小さく震えた。
止まっていた心臓が、力強く一拍を刻む。トクン、というその鼓動は、リンクしたレナード、そして20万人の視聴者の耳にも確かに届いた。
みるみるうちに傷口が塞がり、吸い取られていた血色が頬に戻る。
彼女の瞳がゆっくりと開かれ、そこには今まで以上に澄み渡った、美しい碧眼が輝いていた。
「……レナード……さま……? わたし……」
「しゃべるな。……もう、大丈夫だ。みんなが、助けてくれたんだ」
レナードは、リディアを壊れ物を扱うように抱きしめたまま、その場に崩れ落ちた。
周囲を見渡せば、黄金の光を纏ったアスベル兵たちが、もはや人間とは思えぬほどの神々しい威圧感を放ち、敗残兵たちを圧倒している。
空に浮かぶ魔法のモニターは、その一部始終を映し出していた。
卑劣な暗殺を、人知を超えた「絆」でねじ伏せた光景。
それは、もはや一領主の勝利ではない。新しい時代の王が誕生した瞬間を、世界が、そして20万人の視聴者が目撃したのだ。
配信画面には、今まで見たこともないほど巨大な、虹色の祝福ギフト(スーパーチャット)が、夜空の花火のように降り注いでいた。




