第46話:20万人の祈り
「リディアッ!!」
レナードは、糸が切れた人形のように崩れ落ちるリディアを、地を這うようにして抱きとめた。
白銀の甲冑の間から、どくどくと溢れ出す鮮血がレナードの服を赤く染めていく。
「リディア、おい、しっかりしろ! リディア!」
「あ……れな、ど……さま……」
彼女の視界はすでに焦点を結んでいない。
駆け寄った軍医や神官たちが、必死に治癒魔法を重ねがけする。しかし、その輝きは傷口に触れる直前、黒い煤のようなモヤに弾け、かき消された。
「……だめです。刃に仕込まれた『回復阻害の呪い』が深部まで浸食している。魔法も、最高級のポーションも、すべて拒絶されます。これでは、ただ血が抜けるのを待つしか……!」
「そんなわけがあるか! どけっ!」
レナードは震える手で、自分にしか見えないシステムウィンドウを叩いた。
【LPショップ】――視聴者の熱狂が生み出す、万能の交換所。
「何かあるはずだ……。呪い解除、蘇生薬、何でもいい! 出てこい!」
だが、無情にもショップの検索結果は『該当なし』を表示する。
現在、ショップにあるのは「物資」や「スキル」のみ。個人の運命を直接ねじ曲げるような「奇跡の薬」はラインナップに存在しなかった。
(クソッ、無能スキルかよ……! 120万人もフォロワーがいて、目の前の女一人救えないのか!?)
その時、ウィンドウの端で、赤く点滅する【未開放機能】のアイコンが目に留まった。
【全領民一斉強化・加護】
開放条件:同時接続数 200,000人以上
効果:領民(対象)の生命力をリンクさせ、ダメージを分散・肩代わりする。主君の意思で「命の循環」を構築する。
(これだ……! これなら、リディアの呪いを俺や兵士たち全員で引き受けて、薄められる!)
レナードは現在のカウンターに目を向けた。
【現在の同時接続数:191,200】
足りない。あと、約9,000人。
普段なら喜ぶべき数字だが、今この瞬間、リディアの命の灯火は秒単位で消えようとしている。
「頼む……。みんな、見てるんだろ……!」
レナードは、空中に浮かぶ不可視のカメラに向かって、血塗れの手を伸ばした。
プライドも、領主としての体裁も、すべて捨てて叫んだ。
「みんな、頼む! 力を貸してくれ!! 今、この瞬間にリディアが死ぬんだ! 配信のリンクを広めてくれ、SNSでも何でもいい、誰かを呼んできてくれ!! 20万人、20万人必要なんだ!!」
レナードの目からは、涙が溢れていた。
「あいつは……リディアは、俺を、無能だった俺を最初から信じてくれたんだ! 彼女を見捨てたくない……!! 助けてくれ、頼む!!」
その悲痛な叫びは、次元を超えて日本の視聴者たちの心に突き刺さった。
『レナードが泣いてる……』
『任せろ、全垢動員する!』
『今Twitterで拡散した! 祭りだ、みんな来い!!』
『掲示板にもスレ立てたぞ! 走れええええ!!』
画面上のコメントが、読み取れないほどの超速で流れ始める。
192,000……
195,000……
リディアの瞳から、ついに光が消えようとしたその時――
カウンターの数字が、爆発的な勢いで跳ね上がった。




