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第45話:死神の残響

耳を劈くような歓声が、泥と血に塗れた戦場に響き渡る。


ボナパルト伯爵であるカイルは諦めていなかった。あのレナードとかいう若造の能力さえ封じてしまえば、戦況は覆せる可能性はある。

 

ボナパルト伯爵の降伏。空に浮かぶ巨大な魔法の板に、主君が膝を折る姿が映し出された瞬間、帝国軍の誇りは砕け散った。

(……だが、まだだ。まだ終わらせはしない)

 俺、カイルは冷え切った死体の下に身を潜め、魔力を完全に断っていた。


 呼吸は一分に数回。心音すらも殺す。魔力感知を前提としたアスベル軍の索敵網を掻い潜るには、この「死人」の術以外に道はない。


 視線の先には、悠然と歩く若造。レナード・フォン・アスベル。



 あの中空を舞う不気味な「眼」を操り、情報の暴力で我が主を、帝国を、戦わずして屠った異端の化け物。

(あの男さえ消せば、この屈辱的な敗北はいくらでも挽回できる)


勝利を確信し、護衛のエリックたちが周囲の降伏兵に意識を向けた。

 レナードが、空中に向かって何事か笑いかけた――その刹那。


 俺は泥の中から爆発的に跳ね上がった。


 手に握るのは、あらゆる魔法障壁を紙のように貫通する呪いの短剣『黒曜石の牙』。


「死ね、異端の領主ッ!!」

 叫びは、死刑宣告だ。


 レナードの目が驚愕に見開かれる。喉元まで数インチ。


 勝った。そう確信した指先に、不意に冷たい「銀色の風」が触れた。


「――させません!!」


 割り込んできたのは、銀髪の少女。婚約者、リディア。


 本来、間に合うはずのない距離だ。だが彼女は自身の命を灯火にして、魔力を爆発的に燃焼させていた。


 ドシュッ。



 黒曜石の刃が、少女の肩を、胸を、容赦なく食い破る。



 確かな手応え。だが、俺が狙った心臓には届かない。彼女の体が、俺の必殺の一撃を文字通り「食い止めた」のだ。

「リディアッ!!」

 レナードの悲鳴が聞こえた。 



 次の瞬間、俺の視界はエリックの振り下ろした大剣によって、暗転した。

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