第38話:宣戦布告と、情報の「要塞」
領主館の執務室。アスベル領の新体制が盤石になりつつあったその時、隣国カスティア帝国のボナパルト伯爵から、魔力通信による最後通牒が届いた。
「アスベル領主、レナード。貴殿が収容している不法難民は、我が帝国の『財産』である。二十四時間以内に全員を縛り上げ、国境まで返還せよ。拒否すれば、我が軍は貴殿の領地を『反逆者の巣窟』とみなし、武力をもって浄化する」
通信が切れた後、沈黙が流れる。だが、かつてのような動揺は、この部屋の誰にもなかった。
15万人の決意
レナードは無言で「板」を起動し、その内容を日本へ向けて全世界同時中継した。
「みんな、聞いた通りだ。……隣国の領主は、このキャンプでようやく人間らしい生活を取り戻し始めた人たちを『財産』と呼び、連れ戻そうとしている。拒めば戦争だ」
日本配信画面(怒涛の弾幕) コメント:財産って言ったか今? 人間だぞ! コメント:レナード、これ引いたら終わりだぞ。 コメント:開戦だ。俺たちのギフトで、このクソ領主を分からせてやれ! コメント:【ギフト:¥500,000】軍資金だ。最高の装備を整えろ!
「……ありがとう。みんなの意志は受け取った」 レナードは視線を上げ、部屋に並ぶ幹部たちを見た。
「エリック、全軍を国境へ。ブルカンは防衛線を構築。ミラは高所に伏兵を。セラ、敵本陣の動きを分単位で報告してくれ。……アルは、領民にこの事実を伝え、パニックを抑えるんだ」
「御意!」 幹部たちが、それぞれの持ち場へ向けて一斉に駆け出していく。
経済封鎖を逆手に取る「情報の罠」
ボナパルト伯爵は、経済封鎖でアスベル領が疲弊していると思い込んでいる。だが、彼は知らない。レナードが既に「日本からのギフト」と「ドローン配送網」により、物流を完全にショートカットしていることを。
「リヴィア。君にしかできない仕事がある」
「はい、レナード様。……国境で、彼らの『罪』を暴く光になればよろしいのですね?」
「ああ。僕たちの戦いは、ただの殺し合いじゃない。15万人の眼を通して、世界に『どちらが正義か』を分からせるための……最強の情報戦だ」
開戦前夜:国境の篝火
数時間後、アスベル領の国境線には、整然と並ぶ「アスベル領主軍」の姿があった。 修行を終えたばかりの兵士たちは、魔導通信を通じて常に情報を共有し、一糸乱れぬ動きを見せている。
対する国境の向こう側では、ボナパルト伯爵率いる帝国軍三千が、重厚な鉄の鎧を響かせて進軍を開始していた。
「見ていろ、レナード……。情報などという目に見えぬ力、我が軍の騎馬隊が踏み潰してやる!」 伯爵の咆哮が響く。
だが、その様子はすべて、上空を舞う目に見えないほど小さなドローンによって、日本中へとライブ中継されていた。 帝国軍の陣形、兵数、魔法使いの配置、果ては伯爵の怯えた鼓動まで――。
「……開戦の準備は整った。……さあ、世界中を敵に回した気分はどうだい、伯爵?」
レナードが「配信開始」のボタンを強く叩いた。 異世界初の「完全中継戦争」の幕が、今、切って落とされた。




